雛菊の章 しごとはじめ
「うん。知ってるよ」
背伸びをしている魔女は目を瞬かせた。
「……ほんとう?」
「ああ。ネトルを摘むときも、前よりずっと上手になった。月の水だって、今日は僕が手伝わなくてもちゃんと採れたじゃないか」
「えへへ……」
「ベルはちゃんと上手になっているよ」
彼女の先ほどまで灰色に染まっていた瞳が、ぱっと明るくなる。嬉しそうにうずうずと足踏みをし、その手を胸の上で組んだ。
ソフィも、ちゃんとベルの成長を見ていた、知っていた。いつか自分の元から巣立ちひとりで生きていく彼女を、想像してしまうほどに。それは彼にとって喜ばしいことであったが、同時に寂しいものでもあった。──だから、まだもう少しだけ、彼はこの妹であり娘であり弟子である少女の世話を焼くのだ。何百年も生きてきた妖精の、わがままなのである。
「それに、ベルが作った薬を楽しみにしてるひとたちがいるだろう」
「……!」
「ベルの手は優しい手だよ。だから、もっと善き魔女になれるよう手伝わせて」
「うん、うん! ありがとうソフィ! ……あのね、ごめんなさい」
「どうして謝るの?」
「わたし、ソフィが何でもできることに、むーってなっちゃってたの。でも、ソフィはわたしをできない子って思っているから何でもしちゃうわけじゃないのね。ちがうのぎゃくなの、わたしを、できるってしんじてくれているのね」
ソフィは微笑み、ベルの肩に手を置く。その手はあたたかく、触れられるだけでベルの心は安らかになった。
「そうだとも。お前は立派だよ」
「……じゃあ、魔除け草を手袋をつけずにとってもだいじょうぶ?」
「それとこれとは違います」
「むう。……ふふっ、じょうだんよ」
すっかり機嫌を良くしたベルは鼻歌を歌いながらまな板の上の雛菊を撫で、そして作業机の引き出しから小ぶりなナイフを取り出した。
「きざんだ葉とくきだけじゃなくて、花びらもいっしょに入れようとおもうの。きらきらして、きれいになると思うわ」
「ああ、いいと思う。油を温めておくから、ベルは骨の花を刻んでおいて」
「わかったわ。……魔除け草はどのくらい水にひたしておけばいい? おしえて、ソフィお師さま」
お師さま。そのかわいらしい口ぶりにソフィは苦笑した。
「軟膏ができてからで良い。月の水から取り出したら、あとは煎じるだけだから」
「のこった月の水はすててしまうの?」
「水に溶けた苦みにも魔除けの力はあるからな……ガーデンの草花にやろう。栄養になる」
「うん! わかったわ」
一言一言にこくこくと頷きながら、ベルはソフィの教えを飲み込んでいった。先ほどまで拗ねていたのだが、やはりベルにとってソフィは優しくもしっかり手を取り導いてくれる師匠なのであった。
背伸びをしている魔女は目を瞬かせた。
「……ほんとう?」
「ああ。ネトルを摘むときも、前よりずっと上手になった。月の水だって、今日は僕が手伝わなくてもちゃんと採れたじゃないか」
「えへへ……」
「ベルはちゃんと上手になっているよ」
彼女の先ほどまで灰色に染まっていた瞳が、ぱっと明るくなる。嬉しそうにうずうずと足踏みをし、その手を胸の上で組んだ。
ソフィも、ちゃんとベルの成長を見ていた、知っていた。いつか自分の元から巣立ちひとりで生きていく彼女を、想像してしまうほどに。それは彼にとって喜ばしいことであったが、同時に寂しいものでもあった。──だから、まだもう少しだけ、彼はこの妹であり娘であり弟子である少女の世話を焼くのだ。何百年も生きてきた妖精の、わがままなのである。
「それに、ベルが作った薬を楽しみにしてるひとたちがいるだろう」
「……!」
「ベルの手は優しい手だよ。だから、もっと善き魔女になれるよう手伝わせて」
「うん、うん! ありがとうソフィ! ……あのね、ごめんなさい」
「どうして謝るの?」
「わたし、ソフィが何でもできることに、むーってなっちゃってたの。でも、ソフィはわたしをできない子って思っているから何でもしちゃうわけじゃないのね。ちがうのぎゃくなの、わたしを、できるってしんじてくれているのね」
ソフィは微笑み、ベルの肩に手を置く。その手はあたたかく、触れられるだけでベルの心は安らかになった。
「そうだとも。お前は立派だよ」
「……じゃあ、魔除け草を手袋をつけずにとってもだいじょうぶ?」
「それとこれとは違います」
「むう。……ふふっ、じょうだんよ」
すっかり機嫌を良くしたベルは鼻歌を歌いながらまな板の上の雛菊を撫で、そして作業机の引き出しから小ぶりなナイフを取り出した。
「きざんだ葉とくきだけじゃなくて、花びらもいっしょに入れようとおもうの。きらきらして、きれいになると思うわ」
「ああ、いいと思う。油を温めておくから、ベルは骨の花を刻んでおいて」
「わかったわ。……魔除け草はどのくらい水にひたしておけばいい? おしえて、ソフィお師さま」
お師さま。そのかわいらしい口ぶりにソフィは苦笑した。
「軟膏ができてからで良い。月の水から取り出したら、あとは煎じるだけだから」
「のこった月の水はすててしまうの?」
「水に溶けた苦みにも魔除けの力はあるからな……ガーデンの草花にやろう。栄養になる」
「うん! わかったわ」
一言一言にこくこくと頷きながら、ベルはソフィの教えを飲み込んでいった。先ほどまで拗ねていたのだが、やはりベルにとってソフィは優しくもしっかり手を取り導いてくれる師匠なのであった。
