エピローグ 物語が終わる頃

 ルカは森の中を歩いている。静かに、早足で。……しかし、その足取りはだんだんと遅くなっていく。やがて足が完全に止まる。
 いつも手を引いていた少女にこんな姿を見られたら彼女はきっと言うだろう。

『ルカ? どうしたの?』

 と。けれど、その少女はもうこの世にはいない。彼の腕の中で、安らかに冷たくなっていった。ルカは冷たくなった彼女の口のはしに付いた血を拭い、布団に優しく寝かせ、彼女の部屋を去った。彼女の頭に被せられた花冠は、あえて外さず。

「……ミーティア」

 そう呼べば、今でも「なあに?」と返事が返ってくるような気がして。ルカは懐から彼女からの贈り物である、青い羽根に青いリボンを付けた羽根飾りを取り出して、じっと見つめた。透き通るような青は、今日の天気と同じ色をしていた。

「……ミーティア」

 名前を呼ぶ。返事は無い。ここに彼女はいない。

「……っ! ミーティア……!」

 獣の少年は吠える。ずっと我慢をしていた涙を溢れさせ、目にしみるほどの青い空を見上げ金色の瞳を潤ませた。
 人間が死んだ人間のなかで最初に忘れるものは、声だという。だが、ルカは人間ではない。人間ではないのだから、きっと──ずっと、忘れないのだ。

「ミーティア、大好きだ……」

 獣の少年は、妖精の王子さまは、空に向かって再び吠える。そして誓うのだ。

 もしこの世に生まれ変わりがあるのならば、また愛しいひとに会える日を何千、何万年でも待とうと。たとえ無いとしても、自分の胸の中で、ずっと一緒だと。

 永遠の愛を知った永遠の少年は、もう不幸な獣ではなかった。彼は涙を袖で拭い、再び歩き出す。

 やがて、森の屋敷の近くに小さな白い墓が建った。中に眠っているのは十五歳の小さな少女。いつも整えられているそこには、彼女の両親が供えた花の他に、星の形をした花が、毎年春になるとかんむりとして編まれて置いてあった。
 それは、彼女の両親が亡くなり、この屋敷から人がいなくなっても、ずっとずっと続いた。

  花冠を置く者かれの正体は、誰も知らない。
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