冬の頁
冴え渡る冷たい空気は肺を刺す。そして何よりも、天から降り積もった雪が地を覆い、生命たちはその下でしばし眠りにつく。やがて訪れる春を想い冬はしずかに待ち続けるのだ。
春夏秋冬。世界の四つの季節は、きょうだいとして互いを想い合い、そして互いの背を追う。
冬。ちらほらと雪が降る頃、ミーティアは厚手のケープコートを身に纏い、襟巻きを巻いて、森を訪れていた。──そろそろ、己の体が軋んできたのを、彼女は感じていた。
(ああ、もうすぐなのね)
そう思わずにはいられなかった。けれど、恐れる気持ちは──ほんの少しのものであった。
ある秋の日、彼女はいとしいひとと両想いになった。約束もした。……ずっと一緒にいるという。それは、たとえミーティアの体が動かなくなっても続く永遠の約束である。ミーティアは本当に、うれしかったのだ。ずっと、ひとりだと思っていた。──もちろん、両親も使用人たちも医者もいるから、彼女はひとりではない。けれど、風にあおられる蝋燭の火のような彼女のいのちを、皆悲しげな目で遠巻きに眺めることしかしなかった。だが……たったひとりだけは、ミーティアにそんな目を向けることはなかった。その上、彼女をぎゅうと抱きしめて、愛してると言うのだ。──だから、ミーティアは独りではない。
まだほんの少ししか積もってはいないが、いずれ地面全てを覆うであろう綿雪を、ミーティアはそっと手で受け止めた。空を見上げれば、そこも雪のように白い。なのに、ほんの少し薄暗く感じるのは太陽が出ていないからか。びゅう、と風が吹く。ミーティアは「ひゃ」と声を上げ、身を縮こませた。
「……寒いなら来なければいいのに」
「……! ルカ! いいえ、あなたに会いたかったのよ。だからこのくらい、平気」
「お前はまたそんなこと言って。……。……ありがとう、会いたかった」
「ふふっ」
ミーティアの前に、黒い襤褸の外套を身に纏った黒髪の少年が現れる。相変わらず足音を立てない歩き方の彼……ルカは、ミーティアが微笑むと、照れくさそうに微笑みを返した。彼が、ミーティアをけして独りにしない、彼女のたいせつなひとである。
「寒かっただろう。ミーティア」
「ええ。わたし、またあの地下のひみつのお部屋に行きたいわ。そこでひみつのお話がしたい」
「ひみつって……森の生き物も、誰も聞いちゃいないよ」
「ふふ、それでもよ」
「……わかった。行こうか。その……手、繋いでくれる?」
「……! もちろん! 手袋、外すわね」
「そ、そこまでしなくていい!」
「あら、わたしがしたいの。あなたの手を感じていたいの」
「わ、わかった……」
「ルカ、すっかりわたしに弱くなったわね」
「うるさい」
「うふふ」
ルカは自身の両手を擦り合わせた後に、そっと利き手をミーティアに差し出した。ミーティアがその手を取ると、ほんの少しだけ、あたたかい。自分のためにあたためてくれたのだと思うと、ミーティアはどうしようもなくルカが愛おしくなった。
ゆっくりと、ふたりは進む。すっかり葉も花も落ちた寂しい森の中、ふたりの足跡がかすかに地面に残る。誰も足を踏み入れないこの森で、もしもこの足跡を見つけた者がいたならば、不思議に思うだろう。それこそ──ミーティアの使用人が見つけたならば、彼女を問いただすかもしれない。けれど、きっとミーティアは変わらず言うのだ。「妖精の王子さまに会ったのよ」と。
春夏秋冬。世界の四つの季節は、きょうだいとして互いを想い合い、そして互いの背を追う。
冬。ちらほらと雪が降る頃、ミーティアは厚手のケープコートを身に纏い、襟巻きを巻いて、森を訪れていた。──そろそろ、己の体が軋んできたのを、彼女は感じていた。
(ああ、もうすぐなのね)
そう思わずにはいられなかった。けれど、恐れる気持ちは──ほんの少しのものであった。
ある秋の日、彼女はいとしいひとと両想いになった。約束もした。……ずっと一緒にいるという。それは、たとえミーティアの体が動かなくなっても続く永遠の約束である。ミーティアは本当に、うれしかったのだ。ずっと、ひとりだと思っていた。──もちろん、両親も使用人たちも医者もいるから、彼女はひとりではない。けれど、風にあおられる蝋燭の火のような彼女のいのちを、皆悲しげな目で遠巻きに眺めることしかしなかった。だが……たったひとりだけは、ミーティアにそんな目を向けることはなかった。その上、彼女をぎゅうと抱きしめて、愛してると言うのだ。──だから、ミーティアは独りではない。
まだほんの少ししか積もってはいないが、いずれ地面全てを覆うであろう綿雪を、ミーティアはそっと手で受け止めた。空を見上げれば、そこも雪のように白い。なのに、ほんの少し薄暗く感じるのは太陽が出ていないからか。びゅう、と風が吹く。ミーティアは「ひゃ」と声を上げ、身を縮こませた。
「……寒いなら来なければいいのに」
「……! ルカ! いいえ、あなたに会いたかったのよ。だからこのくらい、平気」
「お前はまたそんなこと言って。……。……ありがとう、会いたかった」
「ふふっ」
ミーティアの前に、黒い襤褸の外套を身に纏った黒髪の少年が現れる。相変わらず足音を立てない歩き方の彼……ルカは、ミーティアが微笑むと、照れくさそうに微笑みを返した。彼が、ミーティアをけして独りにしない、彼女のたいせつなひとである。
「寒かっただろう。ミーティア」
「ええ。わたし、またあの地下のひみつのお部屋に行きたいわ。そこでひみつのお話がしたい」
「ひみつって……森の生き物も、誰も聞いちゃいないよ」
「ふふ、それでもよ」
「……わかった。行こうか。その……手、繋いでくれる?」
「……! もちろん! 手袋、外すわね」
「そ、そこまでしなくていい!」
「あら、わたしがしたいの。あなたの手を感じていたいの」
「わ、わかった……」
「ルカ、すっかりわたしに弱くなったわね」
「うるさい」
「うふふ」
ルカは自身の両手を擦り合わせた後に、そっと利き手をミーティアに差し出した。ミーティアがその手を取ると、ほんの少しだけ、あたたかい。自分のためにあたためてくれたのだと思うと、ミーティアはどうしようもなくルカが愛おしくなった。
ゆっくりと、ふたりは進む。すっかり葉も花も落ちた寂しい森の中、ふたりの足跡がかすかに地面に残る。誰も足を踏み入れないこの森で、もしもこの足跡を見つけた者がいたならば、不思議に思うだろう。それこそ──ミーティアの使用人が見つけたならば、彼女を問いただすかもしれない。けれど、きっとミーティアは変わらず言うのだ。「妖精の王子さまに会ったのよ」と。
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