夏の頁

 透き通るような澄んだ青い翼を持つ美しい鳥、青硝子鳥あおがらすとりは、春の終わりから夏の終わり……あたたかい時期にかけてをこの森で過ごす渡り鳥であった。
 彼らは木の洞に巣を作る。そんな青硝子鳥の巣に、無粋に手を突っ込む少年──ルカは、眠るひな鳥たちを起こさないようぐっとその中で指を握りこみ、そして引き抜いた。

「何をしてるんだろう……」

 ルカはひとりごち、ため息をついた。ゆっくりとその手を開く。そこには、一本の青。巣に使われていた青硝子鳥の成鳥の羽根があった。──どうしてこの鳥の羽はこんなにまで、晴れた真昼の空のような色をしているのだろう。ルカは思った。それとも、空がこの鳥の色をしているのだろうか。ルカにはわからなかった。
 青──青は、"彼女"……ミーティアの瞳の色だ。ルカは考える。けれど、彼女の瞳はこの羽根のようなするどく澄み渡るような色ではなく、もっと淡く、儚い色をしている。冬の夜、雪が降り積もって薄ぼんやりと光る獣道のような色。そうとも考える。髪の色もそうだ。彼女の髪は白に近い金色。そう──ルカの好きな花、アステリシアの花を照らす月光の色である。ミーティアはどこまでもやわらかくて淡い色を湛えていて、触れたら壊れてしまいそうで。

 ──それでも、もっと触れてみたくて。

 それは、長い年月の間この森でひとりで生きてきたルカにとって、初めての感情であった。春に飛ぶ羽衣蝶のようにスカートの裾をはためかせ、しつこいくらいに構ってくる。……けれど、いつの間にか彼女に会う日を楽しみにしている自分が、彼の胸の内に生まれていた。

 ルカ、ルカ! と、ルカの頭の中でミーティアの弾んだ声が響く。そのたびに、ルカの胸の奥も小さく弾む。

(いやな気持ちだ)

 それでも、ルカはそう思ってしまう。
 ミーティアは自分の命がわずかしかないことをルカに話した。たしかにミーティアの体はふわりとした服で隠れてはいるものの、風が吹けば飛びそうなほどやせっぽちであった。だから、ルカは彼女がどんなに笑顔であっても、その言葉を信じるしかなかったのだ。
 どんな人間も、いつかは火が消えるように死んで、ルカを置いていく。それはミーティアも同じで、それが、彼に課せられた──

「……いたっ! いっ、ごめんったら!」

 ルカの思考はするどい痛みで中断された。巣を荒らされた青硝子鳥のつがいがルカをくちばしでつつき翼で叩く。森の動物たちにとってルカとは同じ仲間であり、けして怪物ではないのだ。慌ててルカは木から飛び降り、逃げるようにその場を去る。手には青い羽根を握りしめて。

「……。喜ぶわけないのにな」

 口に出して、それは嘘だと彼は思った。だって彼女は──ミーティアは、きっとどんなものでも喜んでくれるのだから。
 ルカはそこまで考え、やはり思うのだ。……会いたい、と。
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