方向音痴のサイヤ人
名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夕闇の中、光り輝く眠らない都市──西の都。
その一角。
ブルマ一家宅にて。
「おかわり!」
「メイズくんだったかい?ブルマと同じくらいに見えるのに、随分と気持ちのいい食べっぷりだなあ」
「今日は料理人を呼んでるけれど、次来た時は私の手料理もご馳走するわね〜!」
「ん、食べる」
「体調治った側からこんなに食べるなんて、どんな胃袋してるのよ……」
パオズ山の老人の懸念をよそに、わたしは元気に肉をかき込んでいた。
いや。実のところ迎えのジェット機に乗ってから、この都に近づくにつれ気がどんどん増えては個々に蠢くので、吐き気はするし頭は痛いしで最悪だったのだが。
なんと!全てを解決するスーパーアイテムがあったのだ。
気の感知はそのままに、不調だけを取り除く。
それこそわたしがブルマをここまで運んだ理由──
──そう、酔い止め!!
「薬ってこんな凄いものだったのか!!あ、飲み物もおかわり」
「まにあわせの市販薬だけどね。まさかあたしもここまで効くとは思ってなかった」
とうに食べ終わったらしく匙を置くブルマをよそに、ひたすら出てくる
「それで、どう?メイズ、あなたの要望通りの“エリート向け”の食事、お眼鏡にかなった?」
「うーん……量が少ない。なんでこんなちょっとずつなの?ここの文化?それともエリートはみんなちまちま食べるわけ?」
一皿に数口の料理。
次から次へと出てはくるが、まるでつまみ食いしてる気分だ。
これがエリート向けだとしたら、少量に抑えることで忍耐力とか精密性を鍛えてるのか、それとも同じものを食べ続けるより、たくさん種類を食べる方が強くなれるんだろうか。
とにもかくにもこんな少しずつでは食べた気がしない。
「格式張ったのはどこもこんな感じよ。でもまあ一皿に多い方がいいならそう変えてもらうけど?」
「わたしはエリート候補だしちょっとくらい違ってもいいんじゃないかな。うん、いいんだ!多いのがいい!」
「な、なんかさっきから妙にテンション高いわね。まあそういうと思って少し前にお願いしといたから、じきにメイズ向きの量が運ばれてくるわよ。それで、量はともかく味はどう?好きなものとかあった?」
「味?味は、まあ、悪くないかな」
量はともかく、母星にいた頃には考えられないほど多彩な味わいだ。
この星ではジジイの料理くらいしか食べたことがないが、おそらくうまいのだと思う。
心なしかキラキラ光って見える。
……でも、なぜだろう。
不思議と一口食べるごとにジジイの家で食べたゴマの匂いが香る料理たちが脳裏をよぎる。やっぱりアレ毒じゃなくとも何か盛られてたんだろうか。
あっそういやこの前食べ損ねた包子、今日作るとか言ってたような。だからか?
ひとり納得していると、ブルマが引き攣った笑顔を浮かべる。
「……な、なかなか肥えた舌をお持ちのようね」
「は?舌?まあ、確かに舌なんか鍛えたことなかったから太ってるかも。噛みちぎられる可能性もあるし、今日から鍛えるか」
「そういう意味じゃないわよ!!! ていうか舌を噛みちぎられるとかどんな状況?!」
「どんなって、寄生形態の敵とかいるし普通にあり得ると思うけど。それより、この肉おかわり」
「絶対普通じゃない!!はぁ、よくそんな話しながら食べれるわね。しかも、もはや食べるというか吸引だし……」
「このスープももう一杯!!」
◇◇◇
「さて、やっと食べ終わったわね。あの量がどこに消えたのかも気になるところだけど……早速、測定しとく?」
「測定?」
「あなた専用の酔い止め薬を作るの!あなたの体重とか体質とかに合わせて作れば効き目も市販のとは段違いになるわ」
「……今から?」
「もちろん!!既製品はあるけどあたしの命を救った報酬なんだから、せめてオーダーメイドにするわよ。薬関係の資格持ってる従業員は捕まえてあるから、今日明日データを整理して、そこから適した成分の候補をあげて、副作用と飲み合わせを色々試して……」
「ダメ、それじゃ包子が食べれない!!」
「え?包子?」
「今日の夕飯は包子の日だから、もう戻る」
「ちょっと待った。さっき食べたのは?」
「おやつ」
「あれで?!!!何人前食べたと思ってるのよ?!」
騒ぐブルマをよそに、ブルマの母親からもらった食後のでざーとこと甘くて黄色いプルプルの『ぷりん』を掻き込む。
「あらあらブルマちゃんたら、お友達が帰るのが寂しいのね」
「は、はぁ?!何言ってるのママ!ち、違うから!」
「オトモ…ダチ……?」
「一緒に遊んだり美味しいもの食べに行ったりしたんでしょ?もうお友達よ〜」
「また適当なこと言って〜!!」
一緒に遊んだり、オイシイものを食べたり……あ。オトモダチってお供達ってことか?
供ね。メディカルポットがない今、薬屋を手元に置くのは今後色々と役立ちそうだ。
ふむ。
「わたしはブルマの
「なっ……う、上から目線なのは気に食わないけど、そういう風に言われるとあたしが冷酷なやつみたいじゃない!なるわよ、友達!!」
「あら!やったわねブルマちゃん」
とりあえずお供ができたらしい。母星では自分より強い年上戦士が周囲に多かったし、子分みたいなやつは初めて。悪くない気分だ。
「じゃ、今日からブルマは供ね。とりあえずこの市販薬?の酔い止めもらっていくから。足りなかったらまたもらいにくる」
「ああ、うん……ってあんたは何勝手に帰ろうとしてんのよ!!専用のはどうするの?!」
「今は急ぎだから無理。包子が待ってる」
「ぱ、包子に負けた……それならせめてうちのジェットで送っていくわよ。居住区は?」
「ブルマとあった場所からしばらく走ったところ」
「走ってって…あの速度で?!そんなの範囲広すぎるじゃない!!何、じゃあ今あなた迷子なの?!」
「迷子じゃない!適当に飛んでいけばそのうち着くし!」
「あ〜そういえば飛べるんだったわね……ねえついでにどう言う仕組みで飛んでるのか少しだけ測定して、」
怪しくブルマの目が光る。
まずい、ここは相手のホーム。器具が揃ってるからと、解剖などされてはたまらない。
素早く窓枠に足をかける。
「て、適当なタイミングでこっち来るから!じゃ!」
「あっちょっと待ちなさいよ!!!ちょびっとエネルギー波測定するだけ!痛くしないから! お菓子あげるから!!」
◇◇◇
ブルマの家を飛び出した勢いそのまま夜の都を飛び抜ける。
ぐんぐん遠ざかる街並みが闇の中にチカチカ煌めいて、宇宙船の窓から見た星の海のようだった。
なぜか数回海に出てしまうこともあったが、流石に海を渡った記憶はない。再びパオズ山の気を探す。
そうして背後に流れていくいくつもの小さな気の塊たちを見送り、徐々に人気がまばらになってきた頃。
やっと見覚えのある平和ボケした二つの気を掴んだ。
そのまま気配の元へ飛び込む。
「夕飯!!!」
「メイズ、戻ったのか!おかえり。まずは挨拶からじゃろう」
「戻った!!た……ただ、いま?わたしの包子は?!」
「よし。今蒸しとるから少し待っとれ」
そういうジジイの視線の先では籠が火にかかっている。
もちろんその中にはあの白くてふわふわで丸い包子が詰まっているのだ。
生地の匂いがふわりと香って食欲をそそる。
「やった間に合ったぁぁぁ〜〜!!!」
「な、なんじゃ?そんなに食べたかったのか?」
「ハッ!?いや、別に鍛錬の一環だから逃さないように急いだだけ!夕飯まだだったから!!」
「そ、そうかの……?それにしても、随分と遅かったがどこ行ってたんじゃ?」
「うーん、山と西の都と海」
「ほうほう山と西の都と……西の都?!な、なぜそんな遠くに、迷ったにしても遠すぎるじゃろう?!」
「迷ってない!迷子を送ってやったんだよ」
すごいだろ、と胸を張る。
なんだかやたらと気分が良い。薬のおかげで不快感がないせいか、何か楽しくて箸が転がっても不思議と笑えてくる。
ていうかブルマ、西の都からこっちにきてたんだろう。ふふ、もしかして包子目当てか?わたしの包子を食べるつもりだったのか。許せん。
「なんと!それは良いことじゃな。ふむ、西の都か……見たところそこまで体調は悪くなさそうじゃが、大丈夫じゃったか?」
「あー、気が多くて怠かったけど薬で治った」
「薬?!誰に、何の?!」
「ブルマ……あー、わたしの供で、迷子だったやつ。送り届けたら酔い止めが報酬で、包子はやらなくていいよ」
「友?!あのメイズに!……ん?包子?」
「包子はわたしので、測定するとかめんどうだから薬ももらったし、夕飯たべるからかえるって」
そうだ薬。どこにしまったっけ?あれ、えっと包子がそこに、ん?
「籠がみっつ?ジジイ、そんな火にかけてたっけ」
「三つ……?一つしかないが何を言っとるんじゃ?」
まて。なんか、考えが纏まらない。
老人の低い声が、やけに遠く反響のように聞こえる。足元が崩れて、いやわたしが傾いている?
視界の端がぐにゃりと歪む。
ハッと目を擦れば、いつのまにか地面がすぐそこに──
「メイズ!!?………な、なんと、寝ておる」
翌日──昼過ぎ。
「……ん……?」
眩しい光に目を覚ますと、目の前には空っぽの皿が転がっていた。
記憶をたどる。西の都を飛び出し、包子を待つ間にジジイと話し……いや、待て。
わたし、昨日の夜、なんて言った……?
「ブルマはわたしの供で……包子は渡さない……?」
頭を抱えて床を転げ回る。
なんだあの支離滅裂な発言は?!!明らかにおかしい。どうかしていたのか?!
もしや、貰った薬の……いやそんなまさか!
枕元のポケットで微かにカチャリと鳴った小瓶の容器から、あわてて視線を逸らす。
これはわたしの悩みを解決してくれるアイテムのはずだ。
きっと都の気の濁流の影響であって、薬のせいじゃない……!
「おや、起きたのかのう……まったく、もう昼じゃぞ?昨夜は急にバッタリ倒れるし寝言は変じゃし、何か変なものでも食ってきたんか?」
じいちゃんが呆れたように差し出してきたのは、すっかり冷めかけた包子が一つついた皿。
「って、昨日の晩の残りはどうしたのさ!?」
「ああ、お前がいつまでも起かんから悟空が全部食べちまったぞ」
「はぁ?!また包子食べ損ねたってこと!?おいこらゴクウ!!!」
「ん?メイズ?これも食べていいんか?」
「良いわけないだろ!!それはわたしの!!」
こうして奇妙な出会いと怪しげな薬と共にわたしのプチ家出は幕を閉じた。
