幸せの出来上がり(牧)
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牧君とは付き合ってもうすぐ三年目に突入する。一年前の記念日はオシャレなレストランを予約してくれて、ディナーに連れて行ってもらった。普段の牧君は私に合わせていつも行動を決めてくれるが、この時ばかりは私は待ち合わせ場所だけを指定されて、全部牧君がエスコートしてくれた。あれは素敵な思い出で、今も思い出すだけでうっとりしてしまう。
しかしそれにしてもカップルというのは、こなすイベントが多い。そのためニ回目の記念日ともなると、この間にクリスマスやバレンタイン、ホワイトデーを挟み、ゴールデンウィークや夏休みまで様々なイベントが世のカップルには待ち構えているわけで。次にやってくる牧君と私のお付き合いニ周年記念に対してお祝いしたい気持ちはあれど、
「今年、どうする?」
と牧君から事前にお尋ねがあっても私に素敵なアイデアがあるわけもなく。
「うーん、特に何かしたいってわけでもない。」
と大変におざなりな回答をしてしまった。これが対面であったなら、まだニュアンスは柔らかく伝えられたと思うのだが、平日の夜にポヒュン、と牧君からメッセージが送られてきたものだから画面越しでの会話はきっと冷たく受け取られてしまったかもしれないのはちょっと反省している。しかし、当の牧君も特に執着はないらしく、
「それならいいが。」
と私に合わせるようにしてこの件は日々の生活の中に置き去りにされた。
さて、そんなことも忘れて、その日々の生活に軸足(だってそちらの時間の方が人生の大半なのだから)のある私にありがちなのが、先日、某アメリカ生まれの会員制大型倉庫店の新商品が紹介されているのを、たまたまテレビの情報番組で見てしまう。こういうのを見ると俄然興味が湧くタイプの私。特に予定もなかった、牧君と付き合って二周年記念日。そういえば牧君は最近車を買い替えた。街乗りしかしないくせに、身体の大きさを考慮したか知らないけれどSUVのでっかいやつ。ナビも新しくなったし、たまには郊外に出掛けてショッピング(といっても食料品か)でもしちゃおうかな。デートのついでに牧君と某倉庫の話題のローストチキンとピザとお酒を買ってお祝いでもしようか、と私は急いで牧君に週末の予定について連絡した。
***
「牧君!見て!並ぶよ!プルコギそろそろ配り始めるみたい!」
「並ばないといけないのか?」
「人気商品だからね!その後はチキンとチーズケーキも待ってるから!」
「、、、試食だろ?買うのかそれは。」
「試食といっても結構ボリュームあるんだよ!ねえ、ホラ!その手に持ってるプロテインの袋は一回棚に戻して!後で一緒に見てあげるから!早く!」
「、、、はぁ。」
牧君を振り回しつつも、意気揚々と私達は帰宅する。今夜は私の家で戦利品を広げて二人でパーティーだ。牧君が選んだピザは巨大すぎて電子レンジに入らなくって爆笑したり、子供の頃に憧れた丸鶏のローストチキンを買ってはみたが、やっぱりその巨大さに丸ごと温めること能わず、切り刻んでみたら見た目のゴージャスさまで削ぎ落とされ、御馳走と言うにはほど遠い悲惨な食卓になってしまった。
「あれ?おかしいな。こんなはずじゃなかったんだけどなあ。」
私はがっくりと肩を落としたけれど牧君の態度はしれっとしたものだ。
「まあ、こういう時って大体こんなもんだろ。」
牧君はダイニングテーブルに座り、淡々と買ってきたワインを開け始めたもんだから、現状を受け入れるのが早すぎて私の気持ちは沈まずに済む。
「牧君といたら何でも前向きになれるわあ。あはは。」
感心して私も笑い飛ばした。
***
「悪くないな。」
牧君がピザを頬張りながら呟いた。
「あ、ここのピザ?大味だけど、美味しいよね。残りはラップに包んで冷凍するからね。今日、これ全部は絶対食べ切れないよ。」
私がピザを頬張りつつ、生活感溢れるいつもの返事をしたら、牧君は息を多めに吐いて弾み良く口角を上げる。以前から、牧君は私の庶民派なところが笑いのツボだと明言して憚らない。私からしたら不名誉でしかないのだが、これが私なので変えるつもりもないし、自然体の私を牧君は好ましいと思ってくれているのであれば、まあそれはそれでいい。お互いに背伸びせずに付き合えているからこそ、牧君との二年はあっという間に経過したし、三年目に突入するのだ。そんなことを考えながら、キッチンにラップを取りに行く私を牧君は、
「違うよ。」
と正した。
「え?ラップじゃない?アルミホイルの方が良いかな?」
どうやら牧君と私の会話が噛み合っていないらしく牧君は、違う違う、と何度も繰り返し、盛大に笑った。普段は牧君の方がボケてるのに、今日は私の方がアンテナが鈍いみたい。
「あのな、こうやって家で過ごす記念日もいいなと思ったんだよ。」
言い直された言葉に特に重みを感じずに、私も淡々と会話を続けた。やっぱりこの日の私は鈍かったらしい。
「気楽でいいじゃない。私は好きだよ。牧君とこうやって過ごすの。そして気付くのよ。なんでもない日、なんでもないあなたと私。そんな時間が幸せなんだよ〜って。」
「、、、それ、なんかの歌詞であったな。」
「あはは、あったかも。あ、冷蔵庫にこないだ会社の人に貰った塩辛あった〜。開けようか?牧君。」
私が冷蔵庫を覗き込み発見した塩辛について牧君へ急ぎ報告すると、牧君はワインをグラスに注ぎながら私と会話する。
「ワインに合うか?聞いたことないぞ、オレ。」
「合う、合う。うんうん。これ、結構高そうなヤツだと思うよ〜?記念に開けちゃおう。」
「塩辛で記念日を祝うのか。ははは。」
「最高じゃない。思い出に残るわ〜。」
なんて私が茶目っ気たっぷりに言ってみると、普段の牧君なら笑い飛ばして別の話題に向かうはずなのに、今日の牧君はテーブルにグラスを置いたかと思えば、しばしの沈黙の間を作り、そして言った。
「、、、よし、そうだな。ではもう一つ記念日を作ってもいいか?」
「は?どゆこと?」
そして斜めに座っていた牧君は、正面に居直り、私の目を真っ直ぐに見つめた。
「#名前#、結婚しようか。」
「んんん、、、っ!?」
「付き合った日とプロポーズの日は一緒の方が覚えやすいし、都合良いだろ。それにこのあと、結婚記念日が更に増えることになればオレとしては嬉しいんだがな。」
「え、ちょ、は?牧君…。」
合理的な牧君らしい一言ではあったけれど、これがプロポーズだとするにはセリフも演出も色気がなさすぎる。だって直前まで私達は塩辛の話をしていたというのだから。
「牧君、思い付きで言ってる?ねぇ、このワイン、度数高め?」
私が牧君のそばに近付き、ワインの瓶を持ち上げてラベルを確認しようとすると、
「酔っ払って言うか、こんなこと。」
牧君が今はこっちを見ろ、と言う代わりに私から瓶をそっと取り上げ、私の視線を戻させる。
「付き合って二周年記念だし、前から言うならこのタイミングかなと思ってたよ。どこかレストランでも予約するかとも思ったんだけどな。こうやって家でゆっくり過ごすのも悪くないな。」
「わ、ホントにプロポーズだった、、、。」
腰に回された手が、私をぐっと引き寄せたかと思うと、そのまま牧君の膝の上にちょこんと座らせられた。そして私の頬に牧君の唇がちゅ、と触れるとこれはキスの合図。自然と目を閉じてしまうのは、牧君の優しい唇の感触に集中したいから。牧君が私を大事に思ってくれているのをこの重なる唇だけで感じていたいからだ。牧君はいつもよりゆっくりと、そして丁寧に私の唇に触れて押し付けてきた。まるで今日のこの気持ちを形として残しておこうとしたキスみたい。そんなキスに私もじんわりと胸が熱くなる。
「店、はりきって予約しなくて良かったよ。家だと遠慮なく#名前#にこうして触れられる。」
「うん。塩辛食べる前でよかったなと思う。」
「、、、よくこの場面で言えるな。」
牧君が笑いながら私の首元に顔を寄せた。私達はくすぐり合うように抱き合った。唇が離れても引かない熱の中にまだいる私は、牧君の腕の中でゆっくりとその熱を溶かす。
しかしそれにしてもカップルというのは、こなすイベントが多い。そのためニ回目の記念日ともなると、この間にクリスマスやバレンタイン、ホワイトデーを挟み、ゴールデンウィークや夏休みまで様々なイベントが世のカップルには待ち構えているわけで。次にやってくる牧君と私のお付き合いニ周年記念に対してお祝いしたい気持ちはあれど、
「今年、どうする?」
と牧君から事前にお尋ねがあっても私に素敵なアイデアがあるわけもなく。
「うーん、特に何かしたいってわけでもない。」
と大変におざなりな回答をしてしまった。これが対面であったなら、まだニュアンスは柔らかく伝えられたと思うのだが、平日の夜にポヒュン、と牧君からメッセージが送られてきたものだから画面越しでの会話はきっと冷たく受け取られてしまったかもしれないのはちょっと反省している。しかし、当の牧君も特に執着はないらしく、
「それならいいが。」
と私に合わせるようにしてこの件は日々の生活の中に置き去りにされた。
さて、そんなことも忘れて、その日々の生活に軸足(だってそちらの時間の方が人生の大半なのだから)のある私にありがちなのが、先日、某アメリカ生まれの会員制大型倉庫店の新商品が紹介されているのを、たまたまテレビの情報番組で見てしまう。こういうのを見ると俄然興味が湧くタイプの私。特に予定もなかった、牧君と付き合って二周年記念日。そういえば牧君は最近車を買い替えた。街乗りしかしないくせに、身体の大きさを考慮したか知らないけれどSUVのでっかいやつ。ナビも新しくなったし、たまには郊外に出掛けてショッピング(といっても食料品か)でもしちゃおうかな。デートのついでに牧君と某倉庫の話題のローストチキンとピザとお酒を買ってお祝いでもしようか、と私は急いで牧君に週末の予定について連絡した。
***
「牧君!見て!並ぶよ!プルコギそろそろ配り始めるみたい!」
「並ばないといけないのか?」
「人気商品だからね!その後はチキンとチーズケーキも待ってるから!」
「、、、試食だろ?買うのかそれは。」
「試食といっても結構ボリュームあるんだよ!ねえ、ホラ!その手に持ってるプロテインの袋は一回棚に戻して!後で一緒に見てあげるから!早く!」
「、、、はぁ。」
牧君を振り回しつつも、意気揚々と私達は帰宅する。今夜は私の家で戦利品を広げて二人でパーティーだ。牧君が選んだピザは巨大すぎて電子レンジに入らなくって爆笑したり、子供の頃に憧れた丸鶏のローストチキンを買ってはみたが、やっぱりその巨大さに丸ごと温めること能わず、切り刻んでみたら見た目のゴージャスさまで削ぎ落とされ、御馳走と言うにはほど遠い悲惨な食卓になってしまった。
「あれ?おかしいな。こんなはずじゃなかったんだけどなあ。」
私はがっくりと肩を落としたけれど牧君の態度はしれっとしたものだ。
「まあ、こういう時って大体こんなもんだろ。」
牧君はダイニングテーブルに座り、淡々と買ってきたワインを開け始めたもんだから、現状を受け入れるのが早すぎて私の気持ちは沈まずに済む。
「牧君といたら何でも前向きになれるわあ。あはは。」
感心して私も笑い飛ばした。
***
「悪くないな。」
牧君がピザを頬張りながら呟いた。
「あ、ここのピザ?大味だけど、美味しいよね。残りはラップに包んで冷凍するからね。今日、これ全部は絶対食べ切れないよ。」
私がピザを頬張りつつ、生活感溢れるいつもの返事をしたら、牧君は息を多めに吐いて弾み良く口角を上げる。以前から、牧君は私の庶民派なところが笑いのツボだと明言して憚らない。私からしたら不名誉でしかないのだが、これが私なので変えるつもりもないし、自然体の私を牧君は好ましいと思ってくれているのであれば、まあそれはそれでいい。お互いに背伸びせずに付き合えているからこそ、牧君との二年はあっという間に経過したし、三年目に突入するのだ。そんなことを考えながら、キッチンにラップを取りに行く私を牧君は、
「違うよ。」
と正した。
「え?ラップじゃない?アルミホイルの方が良いかな?」
どうやら牧君と私の会話が噛み合っていないらしく牧君は、違う違う、と何度も繰り返し、盛大に笑った。普段は牧君の方がボケてるのに、今日は私の方がアンテナが鈍いみたい。
「あのな、こうやって家で過ごす記念日もいいなと思ったんだよ。」
言い直された言葉に特に重みを感じずに、私も淡々と会話を続けた。やっぱりこの日の私は鈍かったらしい。
「気楽でいいじゃない。私は好きだよ。牧君とこうやって過ごすの。そして気付くのよ。なんでもない日、なんでもないあなたと私。そんな時間が幸せなんだよ〜って。」
「、、、それ、なんかの歌詞であったな。」
「あはは、あったかも。あ、冷蔵庫にこないだ会社の人に貰った塩辛あった〜。開けようか?牧君。」
私が冷蔵庫を覗き込み発見した塩辛について牧君へ急ぎ報告すると、牧君はワインをグラスに注ぎながら私と会話する。
「ワインに合うか?聞いたことないぞ、オレ。」
「合う、合う。うんうん。これ、結構高そうなヤツだと思うよ〜?記念に開けちゃおう。」
「塩辛で記念日を祝うのか。ははは。」
「最高じゃない。思い出に残るわ〜。」
なんて私が茶目っ気たっぷりに言ってみると、普段の牧君なら笑い飛ばして別の話題に向かうはずなのに、今日の牧君はテーブルにグラスを置いたかと思えば、しばしの沈黙の間を作り、そして言った。
「、、、よし、そうだな。ではもう一つ記念日を作ってもいいか?」
「は?どゆこと?」
そして斜めに座っていた牧君は、正面に居直り、私の目を真っ直ぐに見つめた。
「#名前#、結婚しようか。」
「んんん、、、っ!?」
「付き合った日とプロポーズの日は一緒の方が覚えやすいし、都合良いだろ。それにこのあと、結婚記念日が更に増えることになればオレとしては嬉しいんだがな。」
「え、ちょ、は?牧君…。」
合理的な牧君らしい一言ではあったけれど、これがプロポーズだとするにはセリフも演出も色気がなさすぎる。だって直前まで私達は塩辛の話をしていたというのだから。
「牧君、思い付きで言ってる?ねぇ、このワイン、度数高め?」
私が牧君のそばに近付き、ワインの瓶を持ち上げてラベルを確認しようとすると、
「酔っ払って言うか、こんなこと。」
牧君が今はこっちを見ろ、と言う代わりに私から瓶をそっと取り上げ、私の視線を戻させる。
「付き合って二周年記念だし、前から言うならこのタイミングかなと思ってたよ。どこかレストランでも予約するかとも思ったんだけどな。こうやって家でゆっくり過ごすのも悪くないな。」
「わ、ホントにプロポーズだった、、、。」
腰に回された手が、私をぐっと引き寄せたかと思うと、そのまま牧君の膝の上にちょこんと座らせられた。そして私の頬に牧君の唇がちゅ、と触れるとこれはキスの合図。自然と目を閉じてしまうのは、牧君の優しい唇の感触に集中したいから。牧君が私を大事に思ってくれているのをこの重なる唇だけで感じていたいからだ。牧君はいつもよりゆっくりと、そして丁寧に私の唇に触れて押し付けてきた。まるで今日のこの気持ちを形として残しておこうとしたキスみたい。そんなキスに私もじんわりと胸が熱くなる。
「店、はりきって予約しなくて良かったよ。家だと遠慮なく#名前#にこうして触れられる。」
「うん。塩辛食べる前でよかったなと思う。」
「、、、よくこの場面で言えるな。」
牧君が笑いながら私の首元に顔を寄せた。私達はくすぐり合うように抱き合った。唇が離れても引かない熱の中にまだいる私は、牧君の腕の中でゆっくりとその熱を溶かす。
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