熟れるセピア(三井)
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「明日、帰ってくる。」と夜にみっちゃんから連絡が入った。みっちゃんが広島に行ってからの日数。いち、にい、さん、、、指折り数えた私は結果をそれとなく知る。
「おつかれさま。」
こういう時は何て声を掛けたらいいのかな。当たり障りのない言葉しか出てこない。私は、申し訳程度に返事を打った。みっちゃんから返信はなかった。
翌朝。世間は夏休みとはいえ、バスケ部がインターハイとはいえ、既に引退している高校三年生は受験に向かう。私ももれなく予備校の夏期講習でこの夏を過ごす。そういえば、みっちゃんはインターハイが終わった後、どうするのだろう?赤木くんや木暮くんは大学受験の話をしていたけど、みっちゃんも大学受験をするのかな。みっちゃん、昔は頭良かったんだけど、今はおバカそうだからなあ。期末テストは追試受けてたくらいだし。なんて、自分のことは棚に上げて心配していたら、タイミング良く、本人から連絡が来た。
「夕方にはそっちに着くわ。名前、お前、その頃何してんの?」
「気を付けて帰ってね!私は駅前の予備校の自習室にいる。」
「ちょうどいいわ。荷物多いから、駅で待ち合わせだ。」
「は?なんで?私、みっちゃんの荷物係じゃないよっ!」
「いいから、待っとけ。」
出た!オレ様、みっちゃん!うーん、しかしこれはみっちゃん、どっち?!落ち込んでいるのか、それともホントにただの荷物係、、、?
***
みっちゃんが駅に着く時間の連絡を受けて、私は自転車を停めて、改札を出て降りてくるであろう階段を眺める。しばらくすると、ダルそうに階段を降りてくる制服姿の男の人をみつける。お互いに気が付き、歩み寄る。みっちゃんの第一声を待った。
「ウッス、、、。」
新幹線の移動疲れもあるのか、明るくとは言い難い声のトーン。落ち込んでいるのか分からない。何と声かけていいか分からず、
「ウッス。」
私も手を挙げて応えるだけ。
「お前、予備校行ってんの?初耳。」
「みんな行ってるっしょ。大学行くなら。」
「ふーん。」
興味なさそうに、みっちゃんは帰る方向へ歩き出したから、私も自転車を引いてついていく。二人して夕暮れの地元を歩く。みっちゃんが喋らないので、黙って歩く。この沈黙にしびれを切らしたのは私。
「、、、どうだった?」
「三回戦負け。」
「ふーん。」
今度は私の方が興味なさそうな反応になってしまった。自分から聞いておきながら、会話が続かない。また黙って歩く。駅前を少し離れると、住宅街に入る。見慣れた光景だ。
「みっちゃん、荷物。」
「あ?」
「重そうだから、カゴに入れていーよ。」
私は自転車の前カゴを指して、みっちゃんの肩がけのスポーツバッグを入れるよう促す。
「別に、いーや。」
「なんだ。それで呼んだんじゃなかったの。」
「、、、、。」
みっちゃんが、立ち止まって、じっと私を見る。眉間に皺。
「ホラよ。」
スポーツバッグから取り出して、自転車の前カゴに投げ入れた。小さな紙袋が、コロンとカゴの中で転がる。
「何?」
「荷物多いっつったろ。やるよ。」
「え?何、何?」
「インターハイ出場の証。」
「甲子園の土的な?」
「アホ!オレはいつから高校球児になった?」
「え、何だろ?見たい。ちょ、自転車停めていい?ちょっとそこの脇で。」
私は向こうに見える、いつもの公園に駆け寄り、入口近くのスペースに自転車を停めた。後ろからついてくるみっちゃんは、ポケットに手を突っ込んだまま、
「おーい。期待すんな。大したもんじゃねーぞ。」
と声をかけてくる。私はいそいそと紙袋を留めるテープを剥がし、袋の中を覗く。透明ビニールで個包装された、もみじ饅頭が三つ。
「広島駅構内の土産屋で買ってっからな。有名な店のやつなのか美味しいかなんて知らね。」
「ふふふ!ありがとう、みっちゃん!」
「おー、名前には追試ん時も世話になったしな。」
「でもなんで、これにしたの?」
袋の中を覗きながら聞いた。抹茶、クリーム、チョコ味の三種。定番のこしあんが見当たらない。
「お前、ど定番のやつより、変化球の味の方が好きじゃん。」
「ははは。一応、好みまで気にしてくれたんだ。そりゃどうも。」
新幹線の乗車時刻までの間にさっさと選んで、バッグに押し込んだであろう姿が、容易に想像出来たんだけど、みっちゃんが私のために選んでくれた時間が多少はあったのだから、それは純粋に嬉しい。さらに言うと、みっちゃんが私のことをもっともっと考えてくれたらいいのに、なんて変な独占欲がムクムクと顔を出してしまいそうになった。
「みっちゃん、もうバスケ部引退じゃん。受験するの?大学行くの?」
「は?オレ、引退しねーよ。冬まで部活やる。」
「え、うそ。だって赤木くんや木暮くん、引退するんだよね?」
「おう。」
「ええっ!?そういうのアリ?」
「推薦狙おうと思ってる。冬までバスケやってれば、まあ、結果次第だけども、どっかから声がかかるかもしれねぇからよ。あー。一応、一般受験も考えてないことはないぞ?ただ、、、」
「ただ、、、?」
「オレは学力ではノーチャンスだからな。」
「そこ、自信持って言うところじゃないし!」
半分呆れて突っ込む私に、みっちゃんは独り言のように静かに言った。
「っていうことをだな、試合に負けてからぼんやりと考えていた。実際に言うのはお前が初めてだけどな。」
みっちゃんは、鼻を掻いた。少し照れているのだろうか。
「名前は?」
「え?」
「名前は、どうすんの?受験。」
「あ、うん。県外で考えてる。家から通える大学、あんまりないし。」
「そっか。頑張らねーとな。お互い。」
「そうだね。」
まだまだ実感は沸いていない。でも漠然と将来に向かって歩き出したこと、高校受験とは違い、みっちゃんと一緒の道のりを歩むわけではないこと、この会話で思い知らされる。
「あー、バスケ、まだ続けてぇ。もちろん、大学行っても。っていうか、今、ボール触りてえわ。」
「ふふっ、今日帰ってきたばっかりじゃん。」
「、、、なんかこんな会話、中学ん時にもよくやってたな。懐かし。」
そう言って、ニカっと笑ったみっちゃんに、中学の頃の面影を見る。ふいに懐かしさが込み上げ、たまらなくなって内から震えた。私の中に何かがぽっと点火され、あの頃自分の中に閉じ込めていた伝えきれなかった思いが堰を切る。
「みっちゃん、あのね。」
「あ?」
私とみっちゃんは向かい合って立っている。みっちゃんと目を合わせるためには、見上げないといけなかった。背も随分伸びたことを知る。
「私ね、中学の時、みっちゃんのことが大好きだったんだよ。」
みっちゃんは、呆気にとられた不思議な顔をした。そりゃそうだろう、と苦笑したけれど、私はおかまいなしに続ける。
「カッコよくて、一生懸命なところ。ガサツだけど、優しいところ。あの頃、いつもみっちゃんを見てた。すごく、すごーく、好きでした。」
ズルイ言い方をした。私の愛の告白はセピア色だ。相手がどう思っているのかを確認する必要はなかった。不確定要素へのドキドキなんてない。そして私は顔が緩むのを抑えきれない。なんだろう、このワクワクするような胸の高鳴りは。
「よし!みっちゃん、帰ろっか!」
私は自転車を押して歩みを進めようとした。
「オイ、コラ。お前、何スッキリした顔してんだよ!言い逃げしてんじゃねー。」
「あはは。ごめんね。元気出た?みっちゃん、落ち込んでると思ったから。」
「落ち込んでねーっつの。」
みっちゃんは口を尖らせて歩き出した。
「ガラにもなく色々と考え過ぎただけだ。今後のこととか、、、名前のこととか、、、。だぁーっ!もう!お前、何言っちゃってくれてんだよ!」
「え、えぇー、、、。言わない方が良かった?」
覗き込んで問いを重ねる私をチラと見やって、みっちゃんは前を向いた。
「昔のことはどうでもいいんだよ。大事なのは今なんだよ、今。」
「ヤバ、、、みっちゃん、カッコいい。今のはときめいたわ。」
「茶化すな、茶化すな!このやろう。」
「あはははは!」
ケラケラと笑う私に、みっちゃんは目を細めて言う。
「なあ、名前。」
「ん?」
「もう一回、オレのこと、好きになっとけ。」
「え?あ、、、。うん。」
意外なほどあっさり認めてしまった。咄嗟に出た声で、応えたことに気が付いて、気持ちを整理し始めた自分が可笑しい。それでもやはりまとまらない思考の波が打ち寄せては引いていく。
「待った!私混乱してる。今?あれ?え?なんでこうなったかな?」
「知るかよ。お前から仕掛けてきたんだろが。」
「仕掛けたとか、、、言い方!や、みっちゃん、こういうのはさ、違うんだよね。」
「あ?何が?」
「変化球いらないから。ど定番な感じでちゃんと言ってくれないと。さっきの。ねぇ、どういうこと?」
「、、、、面倒くせ。」
スタスタと私を追い抜いて歩いていくみっちゃんだけど、後姿は耳の付け根まで赤い。それに気付いた私は、背後でバレないように笑いを堪える。
「もー。すぐ投げ出すんだから。」
「うっせーわ。」
みっちゃんは突然立ち止まり、くるりと振り返って私を見る。
「何よ?」
「明日、練習休みなんだよ。どっか遊びに行こうぜ。二人で。」
「だから〜、私ら受験生じゃん?明日も予備校の夏期講習なんだってば〜。」
「いいだろ。一日くらい。」
渋ってはみたけど、本当はみっちゃんと一緒にいたい。分かっている。分かりすぎている。好きが加速していく。
「もぉ〜。何時?!どこ?!」
「名前のそういうとこ、好きだぜ。」
「今更、好きとか。遅いっ!」
「あとさあ、明日はお前、自転車で来んなよ。」
みっちゃんは私の自転車をビシと指差して、怒ったように言った。
「は?何で?」
「手、繋げねーだろ。ボケ。考えろ!」
「はぁぁ!?」
私は自転車のハンドルを握る手に力が入る。頭の先からつま先まで、ピリピリと電気が走ったみたいに全身が上気する。明日の私達を脳みそはシュミレートした。甘い甘い恋人同士のささやきは聞こえてこない。あれ?おかしいな。ただ、明日は自転車を家に置いてくることにしようと、先頭を歩くみっちゃんの背中を、やはり耳の付け根まで真っ赤にしている彼を見て、思った。
「おつかれさま。」
こういう時は何て声を掛けたらいいのかな。当たり障りのない言葉しか出てこない。私は、申し訳程度に返事を打った。みっちゃんから返信はなかった。
翌朝。世間は夏休みとはいえ、バスケ部がインターハイとはいえ、既に引退している高校三年生は受験に向かう。私ももれなく予備校の夏期講習でこの夏を過ごす。そういえば、みっちゃんはインターハイが終わった後、どうするのだろう?赤木くんや木暮くんは大学受験の話をしていたけど、みっちゃんも大学受験をするのかな。みっちゃん、昔は頭良かったんだけど、今はおバカそうだからなあ。期末テストは追試受けてたくらいだし。なんて、自分のことは棚に上げて心配していたら、タイミング良く、本人から連絡が来た。
「夕方にはそっちに着くわ。名前、お前、その頃何してんの?」
「気を付けて帰ってね!私は駅前の予備校の自習室にいる。」
「ちょうどいいわ。荷物多いから、駅で待ち合わせだ。」
「は?なんで?私、みっちゃんの荷物係じゃないよっ!」
「いいから、待っとけ。」
出た!オレ様、みっちゃん!うーん、しかしこれはみっちゃん、どっち?!落ち込んでいるのか、それともホントにただの荷物係、、、?
***
みっちゃんが駅に着く時間の連絡を受けて、私は自転車を停めて、改札を出て降りてくるであろう階段を眺める。しばらくすると、ダルそうに階段を降りてくる制服姿の男の人をみつける。お互いに気が付き、歩み寄る。みっちゃんの第一声を待った。
「ウッス、、、。」
新幹線の移動疲れもあるのか、明るくとは言い難い声のトーン。落ち込んでいるのか分からない。何と声かけていいか分からず、
「ウッス。」
私も手を挙げて応えるだけ。
「お前、予備校行ってんの?初耳。」
「みんな行ってるっしょ。大学行くなら。」
「ふーん。」
興味なさそうに、みっちゃんは帰る方向へ歩き出したから、私も自転車を引いてついていく。二人して夕暮れの地元を歩く。みっちゃんが喋らないので、黙って歩く。この沈黙にしびれを切らしたのは私。
「、、、どうだった?」
「三回戦負け。」
「ふーん。」
今度は私の方が興味なさそうな反応になってしまった。自分から聞いておきながら、会話が続かない。また黙って歩く。駅前を少し離れると、住宅街に入る。見慣れた光景だ。
「みっちゃん、荷物。」
「あ?」
「重そうだから、カゴに入れていーよ。」
私は自転車の前カゴを指して、みっちゃんの肩がけのスポーツバッグを入れるよう促す。
「別に、いーや。」
「なんだ。それで呼んだんじゃなかったの。」
「、、、、。」
みっちゃんが、立ち止まって、じっと私を見る。眉間に皺。
「ホラよ。」
スポーツバッグから取り出して、自転車の前カゴに投げ入れた。小さな紙袋が、コロンとカゴの中で転がる。
「何?」
「荷物多いっつったろ。やるよ。」
「え?何、何?」
「インターハイ出場の証。」
「甲子園の土的な?」
「アホ!オレはいつから高校球児になった?」
「え、何だろ?見たい。ちょ、自転車停めていい?ちょっとそこの脇で。」
私は向こうに見える、いつもの公園に駆け寄り、入口近くのスペースに自転車を停めた。後ろからついてくるみっちゃんは、ポケットに手を突っ込んだまま、
「おーい。期待すんな。大したもんじゃねーぞ。」
と声をかけてくる。私はいそいそと紙袋を留めるテープを剥がし、袋の中を覗く。透明ビニールで個包装された、もみじ饅頭が三つ。
「広島駅構内の土産屋で買ってっからな。有名な店のやつなのか美味しいかなんて知らね。」
「ふふふ!ありがとう、みっちゃん!」
「おー、名前には追試ん時も世話になったしな。」
「でもなんで、これにしたの?」
袋の中を覗きながら聞いた。抹茶、クリーム、チョコ味の三種。定番のこしあんが見当たらない。
「お前、ど定番のやつより、変化球の味の方が好きじゃん。」
「ははは。一応、好みまで気にしてくれたんだ。そりゃどうも。」
新幹線の乗車時刻までの間にさっさと選んで、バッグに押し込んだであろう姿が、容易に想像出来たんだけど、みっちゃんが私のために選んでくれた時間が多少はあったのだから、それは純粋に嬉しい。さらに言うと、みっちゃんが私のことをもっともっと考えてくれたらいいのに、なんて変な独占欲がムクムクと顔を出してしまいそうになった。
「みっちゃん、もうバスケ部引退じゃん。受験するの?大学行くの?」
「は?オレ、引退しねーよ。冬まで部活やる。」
「え、うそ。だって赤木くんや木暮くん、引退するんだよね?」
「おう。」
「ええっ!?そういうのアリ?」
「推薦狙おうと思ってる。冬までバスケやってれば、まあ、結果次第だけども、どっかから声がかかるかもしれねぇからよ。あー。一応、一般受験も考えてないことはないぞ?ただ、、、」
「ただ、、、?」
「オレは学力ではノーチャンスだからな。」
「そこ、自信持って言うところじゃないし!」
半分呆れて突っ込む私に、みっちゃんは独り言のように静かに言った。
「っていうことをだな、試合に負けてからぼんやりと考えていた。実際に言うのはお前が初めてだけどな。」
みっちゃんは、鼻を掻いた。少し照れているのだろうか。
「名前は?」
「え?」
「名前は、どうすんの?受験。」
「あ、うん。県外で考えてる。家から通える大学、あんまりないし。」
「そっか。頑張らねーとな。お互い。」
「そうだね。」
まだまだ実感は沸いていない。でも漠然と将来に向かって歩き出したこと、高校受験とは違い、みっちゃんと一緒の道のりを歩むわけではないこと、この会話で思い知らされる。
「あー、バスケ、まだ続けてぇ。もちろん、大学行っても。っていうか、今、ボール触りてえわ。」
「ふふっ、今日帰ってきたばっかりじゃん。」
「、、、なんかこんな会話、中学ん時にもよくやってたな。懐かし。」
そう言って、ニカっと笑ったみっちゃんに、中学の頃の面影を見る。ふいに懐かしさが込み上げ、たまらなくなって内から震えた。私の中に何かがぽっと点火され、あの頃自分の中に閉じ込めていた伝えきれなかった思いが堰を切る。
「みっちゃん、あのね。」
「あ?」
私とみっちゃんは向かい合って立っている。みっちゃんと目を合わせるためには、見上げないといけなかった。背も随分伸びたことを知る。
「私ね、中学の時、みっちゃんのことが大好きだったんだよ。」
みっちゃんは、呆気にとられた不思議な顔をした。そりゃそうだろう、と苦笑したけれど、私はおかまいなしに続ける。
「カッコよくて、一生懸命なところ。ガサツだけど、優しいところ。あの頃、いつもみっちゃんを見てた。すごく、すごーく、好きでした。」
ズルイ言い方をした。私の愛の告白はセピア色だ。相手がどう思っているのかを確認する必要はなかった。不確定要素へのドキドキなんてない。そして私は顔が緩むのを抑えきれない。なんだろう、このワクワクするような胸の高鳴りは。
「よし!みっちゃん、帰ろっか!」
私は自転車を押して歩みを進めようとした。
「オイ、コラ。お前、何スッキリした顔してんだよ!言い逃げしてんじゃねー。」
「あはは。ごめんね。元気出た?みっちゃん、落ち込んでると思ったから。」
「落ち込んでねーっつの。」
みっちゃんは口を尖らせて歩き出した。
「ガラにもなく色々と考え過ぎただけだ。今後のこととか、、、名前のこととか、、、。だぁーっ!もう!お前、何言っちゃってくれてんだよ!」
「え、えぇー、、、。言わない方が良かった?」
覗き込んで問いを重ねる私をチラと見やって、みっちゃんは前を向いた。
「昔のことはどうでもいいんだよ。大事なのは今なんだよ、今。」
「ヤバ、、、みっちゃん、カッコいい。今のはときめいたわ。」
「茶化すな、茶化すな!このやろう。」
「あはははは!」
ケラケラと笑う私に、みっちゃんは目を細めて言う。
「なあ、名前。」
「ん?」
「もう一回、オレのこと、好きになっとけ。」
「え?あ、、、。うん。」
意外なほどあっさり認めてしまった。咄嗟に出た声で、応えたことに気が付いて、気持ちを整理し始めた自分が可笑しい。それでもやはりまとまらない思考の波が打ち寄せては引いていく。
「待った!私混乱してる。今?あれ?え?なんでこうなったかな?」
「知るかよ。お前から仕掛けてきたんだろが。」
「仕掛けたとか、、、言い方!や、みっちゃん、こういうのはさ、違うんだよね。」
「あ?何が?」
「変化球いらないから。ど定番な感じでちゃんと言ってくれないと。さっきの。ねぇ、どういうこと?」
「、、、、面倒くせ。」
スタスタと私を追い抜いて歩いていくみっちゃんだけど、後姿は耳の付け根まで赤い。それに気付いた私は、背後でバレないように笑いを堪える。
「もー。すぐ投げ出すんだから。」
「うっせーわ。」
みっちゃんは突然立ち止まり、くるりと振り返って私を見る。
「何よ?」
「明日、練習休みなんだよ。どっか遊びに行こうぜ。二人で。」
「だから〜、私ら受験生じゃん?明日も予備校の夏期講習なんだってば〜。」
「いいだろ。一日くらい。」
渋ってはみたけど、本当はみっちゃんと一緒にいたい。分かっている。分かりすぎている。好きが加速していく。
「もぉ〜。何時?!どこ?!」
「名前のそういうとこ、好きだぜ。」
「今更、好きとか。遅いっ!」
「あとさあ、明日はお前、自転車で来んなよ。」
みっちゃんは私の自転車をビシと指差して、怒ったように言った。
「は?何で?」
「手、繋げねーだろ。ボケ。考えろ!」
「はぁぁ!?」
私は自転車のハンドルを握る手に力が入る。頭の先からつま先まで、ピリピリと電気が走ったみたいに全身が上気する。明日の私達を脳みそはシュミレートした。甘い甘い恋人同士のささやきは聞こえてこない。あれ?おかしいな。ただ、明日は自転車を家に置いてくることにしようと、先頭を歩くみっちゃんの背中を、やはり耳の付け根まで真っ赤にしている彼を見て、思った。