二月は甘くうそぶく(流川)
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「見て見てー。名前の流川君、今日も頑張ってるぅ。」
部活中、隣のコートを走る流川君を見ながら、同じ部の友達が私の腕を組んで茶化してきた。
「もー、部活中にそんな話、しない!」
「えー、あんなカッコいい彼氏そうそう居ないよ?もっと見てあげなよ!羨ましい〜。」
今度は両肩を掴まれ、あからさまにバスケ部の方に体を向けさせられて、友達と二人で流川君を目で追いかける。彩子の笛が鳴る。パス練習の交代のタイミングでコート外に出る流川君と目が合った。
「あ!名前〜。流川君がこっちに気付いたっぽい。」
私にくっついたまま、友達は私の手を取ってフリフリと流川君に合図のように手を振った。
「おーい、流川くーん。君の彼女はここだよー。」
と、私にしか聞こえない声で友達はどんどん調子に乗る。もう、やめなって、練習中なんだから迷惑だよ!と私の手を操る友達を制しようとしたとき、私達はその場で釘付けになる。流川君がペコリと頭を下げたのだ。流川君は、すぐにフイっとバスケのコート側に視線を戻したが、流川君を見た友達が茫然として私に語りかけた。
「見た?頭下げちゃって。やっば!流川君、可愛い、、、。」
「見た、、、見ちゃった、、、。」
流川君が私に向かってただ頭を下げてくれただけなのに。慌てて口元を両手で隠すも、自分の気持ちは隠せない。胸の奥から迫り上がってくる気持ちは、嬉しさだった。そう思えた瞬間から、それはもう恋に形を変えて、私の胸に容赦なく訴えてくる。突然のことに気抜けして固まる私に友達が気が付いた。
「名前、何、ときめいちゃってんのよ。」
「や、やだ、別にそういうんじゃ、、、。」
口ではそう言いつつも、友達に言われたときめきは図星だった。流川君が挨拶をしてくれただけなのに、その仕草は新鮮で、刺激的で、私の胸はきゅっと収縮を始め、それから一定のリズムで柔らかな音を鳴らし始めたなどと。流川君から目が離せない。ずっと見ていたい。今すぐにでも、会話したい。近付きたい。そう心が動いたら、今度は頭が動き出した。私は流川君のことが好きなんだ。私は前髪をめくり、降参のポーズのように額に両手を当てた。
「今日も一緒に帰る約束してんの?」
ますますふざける友達のニヤニヤとした言葉に答えられるほどの余裕はどこにもなかった。
「ホラ、向こう行って!サーブ練するよ!」
そうやって友達をネットの向こう側に押しやった。私は首をブンブンと振り、大きく咳払いをする。うん、もう今日はバスケ部側のコートを見ないようにしよう。そう自分に言い聞かせながら、何度かボールを床に叩きつけて手元の感覚を調整する。弾むのはボールだけじゃない。まずいなあ。どんな顔でこの後流川君に会えばいいんだろう。だけれど口元は笑みを堪えるのに必死で、早く会いたいなってもう思ってる私がいる。
***
流川君のことを好きだと認めたら、毎日の生活が色めき立つし、華やいだ。片思いは基本的に楽しいものだと思う。相手の好きなことに興味を持ったり、二人だけの会話を反芻してなぞってみたり、彼と会わない時間もずっと片思いをしている。例えば今夜の晩御飯がカレーライスだとすると、流川君はカレーは好きかなあ?なんて、何かにつけて物事を彼に繋げて考えてしまうから、ただ息をしていても頭の中は好きな人でいっぱいになって忙しい。
そしてそんな思いを自分一人で抱えきれなくなると、恋は次の段階に入る。女友達に相談することで、この恋を自覚し、ますます相手にのめり込む。私は恋の基本パターンを忠実に守る人間だった。
「はぁ。好き。」
「え、嘘。マジ?どこが?」
残念なことに相談相手は決して私に寄り添ってはくれないけれど。昼休み。私は彩子とお弁当を広げた。
「そこはもう少し盛り上げるようなこと言ってよ、彩子。」
「あはは、ごめんね!だって、あの流川だよ!?まさか私もこんなことになるとは思ってないから。」
「はぁー。でもさ、これ以上親密度上げるの無理!流川君、多分私のこと、なんっとも思ってない。」
私は落ち込む気持ちを祓いたく、景気付けにお弁当の唐揚げを一口で食べる。私がモグモグと口を動かしている間に彩子が言った。
「そんなの分かんないわよ。一緒にいたら少しは情が湧くでしょ。少なくとも今、一番流川に近い女子って、名前なんだから。」
「情が湧く?嘘だぁ。流川君って、優しいけどそういうとこドライそうだもん。」
私はお行儀悪く、お箸を口に咥えたままぼやくと、彩子は目を丸くしたあとに、眉間にシワを入れるように目を細めた。
「私には流川が優しいってのが理解出来ないけどねぇぇぇ〜。」
「分かりにくいからこそ良いんじゃん。私だけが知ってるという特別感がね、輪を掛けてカッコよく見えちゃう。」
「はー、アンタ、それ完全に恋する女子じゃん。」
「だから恋してるんだってば!」
「ちょっと、花!飛んでるわよ!」
彩子はそう言って笑いながら、私の周りに散らしていたらしい、いくつもの花を手で追い払う真似をしたもんだから、私は文句しか出てこない。
「もう!何かアドバイスくらい頂戴よ〜。」
「だって、アンタもう彼女じゃない。」
「うわ、それ皮肉!誰きっかけでこうなったと思ってんのよ?流川君にはとりあえず二月まで、って最初に言われてるもん。そして付き合ってるっていったって、、、。二人で帰るくらいしかしてないし。」
「バレンタインにチョコでもあげたら?彼女らしく。」
バレンタインという恋愛ワードに色めき立つどころか、ため息をつく。その言葉の重みに沈むようにして、私は机に突っ伏しながら言った。
「バレンタインが終わったら、私の彼女業務ももうお終いなのよね、、、。」
「業務って、アンタね。」
彩子はこれ以上付き合ってくれないらしい。素早くお弁当箱を片付け始める。
「さーて、と!私、来月の体育館の使用申請の紙書いて先生のとこ、持ってかないといけないの!先に行くわ。」
そう言い残して彩子は席を立つ。私は自販機で買った紙パックのコーヒー牛乳を飲み干しながら彩子の背中を見送った。
いびつに始まったジェンガゲームは、上手に積み上がっていかない。塔が崩れたらまた最初から、なんていうわけにはいきそうもない。私は慎重に積み上げられそうなブロックを一生懸命に探すのだけれども、バレンタインはそのブロックの一つではないことを薄々感じていた。
***
「もう2月だね。毎日寒くて、暗くなるのも早いよね。」
流川君は駐輪場で自転車の鍵を開錠するために腰を屈める。そんな流川君の背中を見下ろしながら私は、いつものように話し掛ける。流川君の背中は何も言わないから、ねえ、何か喋ってよ!とふざけた気持ちを込めて、背中におぶさりたくなるのを、自分の役割を思い出して踏み止まる。甘えたいのに甘えられない。流川君との関係は楽しくて嬉しくもあるけれど、最近は少しずつ物足りなさまで感じ始めてきた。恋は増長して欲張りになる。相手の気持ちも全部欲しがってしまう。そう思う度に、それが叶いそうもない現実も津波のように襲ってきて、私を攫っていく。こうやって流川君と一緒に帰ることが出来るのも、バレンタインデーまでかなあ。そう思うと無意識に話題までそこに寄せてしまっていた。
「14日ってさ、やっぱ毎年チョコ貰ってたりするの?靴箱とか引き出しとかに詰め込まれたりするやつ。」
そんな漫画みたいなこと見たこともないけどね、なんて苦笑する私の隣で流川君は呟いた。
「いや、去年は、、、。」
「あ、そーか、そーか。去年中3で受験シーズンか!周りもそんな暇は無、、、。」
私が流川君との会話に納得しかけた相槌で返そうとするのを遮って、流川君は続けた。
「家に直接持って来られた。」
「ぶっ、、、!で、どうしたの?受け取ったの?」
「めんどくせーから居留守。」
「やりそー、流川君。あははは!」
不機嫌そうな口ぶりは、居留守なんて無愛想な対応を、後から親に咎められたことを思い出したかららしい。なんでオレが怒られねーといけねぇんだ、という流川君の不服そうな気持ちが態度に表れていて、こういう一面も可愛いと思ってしまうのは、私に恋愛フィルターがかかっているからだ。と、冷静に自分を分析できるのに、肝心の私と流川君のバレンタインには一切触れずに無関係を貫いたまま、調子の良い会話を続けた。
「流川君さ、次のバレンタインは土曜だし、家に来る子、いたりするんじゃない?」
「今年は、、、。」
「今年は?」
流川君と私はいつものように校門に向かう。歩きながらの会話は、お互いを見たりはしないけれど、流川君が話を止めたから、私ははてなマークを携えて、流川君を見上げて聞き直した。流川君が言った。
「苗字先輩いるし。」
「え?、、、あ、、、うん。」
今こうやって私が流川君と二人で帰っているのだって、流川君に彼女がいるという設定にしておけば、外野が静かになってくれるだろうという狙いの下に始まったことだ。流川君の発言は、きっと私という盾の存在を意味したはずなのに、私ときたら、瞬間的に私がいれば十分だという攻めの意味で捉えてしまい、ドキリとする。この勘違いを飲み込むために、次に続く会話を始められない私が黙ると、二人の会話は当然に止まる。この沈黙を流川君はきっと、居心地が悪いだとか、息が詰まるなんて感じたりしないのだろう。悔しいが、口火を切るのはいつも私だ。私は思い切って、自分達のバレンタインにも言及した。
「る、流川君、甘いもの好き?」
「いや、あんまり。」
「じゃあ、チョコ、渡さない方がいい?」
「、、、微妙す。」
「微妙、、、。は?微妙って何っ!?」
コンビニ前の赤信号で立ち止まる流川君のぐるぐるに巻いているマフラーを、私は笑いながらグイグイと強く引いて、流川君を揺らした。流川君は抵抗もせず、その振動に任せたまま揺れて、私のふざけたノリにも付き合ってくれるから、それがまた笑いを誘った。やっぱり流川君と一緒にいると楽しかった。
流川君は、子供っぽいかと思いきや、容赦なく言葉を発するはっきりさも持っている。優しさと冷たさを混在させたような人だと思う。そしてその温度差で私は風邪を引くみたいに恋をしている。早く治さなきゃいけないのに、私はずっと熱っぽいし、胸はグズグズなままだ。
部活中、隣のコートを走る流川君を見ながら、同じ部の友達が私の腕を組んで茶化してきた。
「もー、部活中にそんな話、しない!」
「えー、あんなカッコいい彼氏そうそう居ないよ?もっと見てあげなよ!羨ましい〜。」
今度は両肩を掴まれ、あからさまにバスケ部の方に体を向けさせられて、友達と二人で流川君を目で追いかける。彩子の笛が鳴る。パス練習の交代のタイミングでコート外に出る流川君と目が合った。
「あ!名前〜。流川君がこっちに気付いたっぽい。」
私にくっついたまま、友達は私の手を取ってフリフリと流川君に合図のように手を振った。
「おーい、流川くーん。君の彼女はここだよー。」
と、私にしか聞こえない声で友達はどんどん調子に乗る。もう、やめなって、練習中なんだから迷惑だよ!と私の手を操る友達を制しようとしたとき、私達はその場で釘付けになる。流川君がペコリと頭を下げたのだ。流川君は、すぐにフイっとバスケのコート側に視線を戻したが、流川君を見た友達が茫然として私に語りかけた。
「見た?頭下げちゃって。やっば!流川君、可愛い、、、。」
「見た、、、見ちゃった、、、。」
流川君が私に向かってただ頭を下げてくれただけなのに。慌てて口元を両手で隠すも、自分の気持ちは隠せない。胸の奥から迫り上がってくる気持ちは、嬉しさだった。そう思えた瞬間から、それはもう恋に形を変えて、私の胸に容赦なく訴えてくる。突然のことに気抜けして固まる私に友達が気が付いた。
「名前、何、ときめいちゃってんのよ。」
「や、やだ、別にそういうんじゃ、、、。」
口ではそう言いつつも、友達に言われたときめきは図星だった。流川君が挨拶をしてくれただけなのに、その仕草は新鮮で、刺激的で、私の胸はきゅっと収縮を始め、それから一定のリズムで柔らかな音を鳴らし始めたなどと。流川君から目が離せない。ずっと見ていたい。今すぐにでも、会話したい。近付きたい。そう心が動いたら、今度は頭が動き出した。私は流川君のことが好きなんだ。私は前髪をめくり、降参のポーズのように額に両手を当てた。
「今日も一緒に帰る約束してんの?」
ますますふざける友達のニヤニヤとした言葉に答えられるほどの余裕はどこにもなかった。
「ホラ、向こう行って!サーブ練するよ!」
そうやって友達をネットの向こう側に押しやった。私は首をブンブンと振り、大きく咳払いをする。うん、もう今日はバスケ部側のコートを見ないようにしよう。そう自分に言い聞かせながら、何度かボールを床に叩きつけて手元の感覚を調整する。弾むのはボールだけじゃない。まずいなあ。どんな顔でこの後流川君に会えばいいんだろう。だけれど口元は笑みを堪えるのに必死で、早く会いたいなってもう思ってる私がいる。
***
流川君のことを好きだと認めたら、毎日の生活が色めき立つし、華やいだ。片思いは基本的に楽しいものだと思う。相手の好きなことに興味を持ったり、二人だけの会話を反芻してなぞってみたり、彼と会わない時間もずっと片思いをしている。例えば今夜の晩御飯がカレーライスだとすると、流川君はカレーは好きかなあ?なんて、何かにつけて物事を彼に繋げて考えてしまうから、ただ息をしていても頭の中は好きな人でいっぱいになって忙しい。
そしてそんな思いを自分一人で抱えきれなくなると、恋は次の段階に入る。女友達に相談することで、この恋を自覚し、ますます相手にのめり込む。私は恋の基本パターンを忠実に守る人間だった。
「はぁ。好き。」
「え、嘘。マジ?どこが?」
残念なことに相談相手は決して私に寄り添ってはくれないけれど。昼休み。私は彩子とお弁当を広げた。
「そこはもう少し盛り上げるようなこと言ってよ、彩子。」
「あはは、ごめんね!だって、あの流川だよ!?まさか私もこんなことになるとは思ってないから。」
「はぁー。でもさ、これ以上親密度上げるの無理!流川君、多分私のこと、なんっとも思ってない。」
私は落ち込む気持ちを祓いたく、景気付けにお弁当の唐揚げを一口で食べる。私がモグモグと口を動かしている間に彩子が言った。
「そんなの分かんないわよ。一緒にいたら少しは情が湧くでしょ。少なくとも今、一番流川に近い女子って、名前なんだから。」
「情が湧く?嘘だぁ。流川君って、優しいけどそういうとこドライそうだもん。」
私はお行儀悪く、お箸を口に咥えたままぼやくと、彩子は目を丸くしたあとに、眉間にシワを入れるように目を細めた。
「私には流川が優しいってのが理解出来ないけどねぇぇぇ〜。」
「分かりにくいからこそ良いんじゃん。私だけが知ってるという特別感がね、輪を掛けてカッコよく見えちゃう。」
「はー、アンタ、それ完全に恋する女子じゃん。」
「だから恋してるんだってば!」
「ちょっと、花!飛んでるわよ!」
彩子はそう言って笑いながら、私の周りに散らしていたらしい、いくつもの花を手で追い払う真似をしたもんだから、私は文句しか出てこない。
「もう!何かアドバイスくらい頂戴よ〜。」
「だって、アンタもう彼女じゃない。」
「うわ、それ皮肉!誰きっかけでこうなったと思ってんのよ?流川君にはとりあえず二月まで、って最初に言われてるもん。そして付き合ってるっていったって、、、。二人で帰るくらいしかしてないし。」
「バレンタインにチョコでもあげたら?彼女らしく。」
バレンタインという恋愛ワードに色めき立つどころか、ため息をつく。その言葉の重みに沈むようにして、私は机に突っ伏しながら言った。
「バレンタインが終わったら、私の彼女業務ももうお終いなのよね、、、。」
「業務って、アンタね。」
彩子はこれ以上付き合ってくれないらしい。素早くお弁当箱を片付け始める。
「さーて、と!私、来月の体育館の使用申請の紙書いて先生のとこ、持ってかないといけないの!先に行くわ。」
そう言い残して彩子は席を立つ。私は自販機で買った紙パックのコーヒー牛乳を飲み干しながら彩子の背中を見送った。
いびつに始まったジェンガゲームは、上手に積み上がっていかない。塔が崩れたらまた最初から、なんていうわけにはいきそうもない。私は慎重に積み上げられそうなブロックを一生懸命に探すのだけれども、バレンタインはそのブロックの一つではないことを薄々感じていた。
***
「もう2月だね。毎日寒くて、暗くなるのも早いよね。」
流川君は駐輪場で自転車の鍵を開錠するために腰を屈める。そんな流川君の背中を見下ろしながら私は、いつものように話し掛ける。流川君の背中は何も言わないから、ねえ、何か喋ってよ!とふざけた気持ちを込めて、背中におぶさりたくなるのを、自分の役割を思い出して踏み止まる。甘えたいのに甘えられない。流川君との関係は楽しくて嬉しくもあるけれど、最近は少しずつ物足りなさまで感じ始めてきた。恋は増長して欲張りになる。相手の気持ちも全部欲しがってしまう。そう思う度に、それが叶いそうもない現実も津波のように襲ってきて、私を攫っていく。こうやって流川君と一緒に帰ることが出来るのも、バレンタインデーまでかなあ。そう思うと無意識に話題までそこに寄せてしまっていた。
「14日ってさ、やっぱ毎年チョコ貰ってたりするの?靴箱とか引き出しとかに詰め込まれたりするやつ。」
そんな漫画みたいなこと見たこともないけどね、なんて苦笑する私の隣で流川君は呟いた。
「いや、去年は、、、。」
「あ、そーか、そーか。去年中3で受験シーズンか!周りもそんな暇は無、、、。」
私が流川君との会話に納得しかけた相槌で返そうとするのを遮って、流川君は続けた。
「家に直接持って来られた。」
「ぶっ、、、!で、どうしたの?受け取ったの?」
「めんどくせーから居留守。」
「やりそー、流川君。あははは!」
不機嫌そうな口ぶりは、居留守なんて無愛想な対応を、後から親に咎められたことを思い出したかららしい。なんでオレが怒られねーといけねぇんだ、という流川君の不服そうな気持ちが態度に表れていて、こういう一面も可愛いと思ってしまうのは、私に恋愛フィルターがかかっているからだ。と、冷静に自分を分析できるのに、肝心の私と流川君のバレンタインには一切触れずに無関係を貫いたまま、調子の良い会話を続けた。
「流川君さ、次のバレンタインは土曜だし、家に来る子、いたりするんじゃない?」
「今年は、、、。」
「今年は?」
流川君と私はいつものように校門に向かう。歩きながらの会話は、お互いを見たりはしないけれど、流川君が話を止めたから、私ははてなマークを携えて、流川君を見上げて聞き直した。流川君が言った。
「苗字先輩いるし。」
「え?、、、あ、、、うん。」
今こうやって私が流川君と二人で帰っているのだって、流川君に彼女がいるという設定にしておけば、外野が静かになってくれるだろうという狙いの下に始まったことだ。流川君の発言は、きっと私という盾の存在を意味したはずなのに、私ときたら、瞬間的に私がいれば十分だという攻めの意味で捉えてしまい、ドキリとする。この勘違いを飲み込むために、次に続く会話を始められない私が黙ると、二人の会話は当然に止まる。この沈黙を流川君はきっと、居心地が悪いだとか、息が詰まるなんて感じたりしないのだろう。悔しいが、口火を切るのはいつも私だ。私は思い切って、自分達のバレンタインにも言及した。
「る、流川君、甘いもの好き?」
「いや、あんまり。」
「じゃあ、チョコ、渡さない方がいい?」
「、、、微妙す。」
「微妙、、、。は?微妙って何っ!?」
コンビニ前の赤信号で立ち止まる流川君のぐるぐるに巻いているマフラーを、私は笑いながらグイグイと強く引いて、流川君を揺らした。流川君は抵抗もせず、その振動に任せたまま揺れて、私のふざけたノリにも付き合ってくれるから、それがまた笑いを誘った。やっぱり流川君と一緒にいると楽しかった。
流川君は、子供っぽいかと思いきや、容赦なく言葉を発するはっきりさも持っている。優しさと冷たさを混在させたような人だと思う。そしてその温度差で私は風邪を引くみたいに恋をしている。早く治さなきゃいけないのに、私はずっと熱っぽいし、胸はグズグズなままだ。