つまはじきの冬磁石(三井)
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「今まで何回くらい告られたっけな、苗字から。」
三井君は、鶏の唐揚げに添えられたレモンを絞りながら、ごく自然なトーンで私に尋ねた。三井君は食事に行くと必ず唐揚げを注文する。昔は唐揚げにレモンをかけられるのが嫌で、私は自分が食べる分だけは、小皿に避けて確保していたのだが、三井君は私が取り分けるのを全然待ってくれないものだから、最近の私はこの爽やかな酸味と香りがする唐揚げの味にも慣れてしまった。私がこうやって三井君のやり方を受け入れて慣れていくように、三井君も私の恒例行事のような告白にも慣れっこだ。
「そうだねえ。もうかれこれ100回くらいは言ってるんじゃないかなぁ。最近はあんまり言わないようにしてるけど。でもね、三井君のこと、ホント好きすぎて。」
「いや、言ってんじゃんよ。」
「じゃあ、今ので101回目だ。あははは。」
呆れを通り越した三井君は、お酒が入って陽気になった私を無視して唐揚げを齧った。決して食べ方がキレイなわけではないけど、三井君の豪快な食べ方は見ていて気持ちが良いから、私は三井君の食事風景を見守るのも好きだ。
「そうだ、ねえ、三井君の話もしてよ。三井君の思い出も聞きたいもん。三年の時の全国行った時の話も!大学の時のリーグ戦、初めてスタメンに選ばれたあの試合の話も!」
「いーよ、もう。何?そんなに楽しいか?オレの話。」
「うん、楽しい。凄い好き。特にバスケの話をする時の三井君が好き。」
三井君は二個目の唐揚げを頬張り、ビールで流し込んだ。私の言う事をいちいち心にとめる様子もなくて、三井君はメニュー表を私から取り上げて、眺め始めた。
以前、三井君はどうしてバスケでプロに行かなかったの?と聞いたことがある。そんな簡単なもんじゃねーんだよ、と三井君は言った。続けて、オレ、飽き性だから長くストイックにやれねーもん、と答える。けれどもバスケや選手の話になると「あいつ、高校ん時、試合やったことあるけど、大したことなかったけどな。オレの方が上手かった。」とか「大学ん時、一個下だったんだよあいつ。ディフェンス良くなかったけど、こないだ見たとき、上手くなっててビビった。やっぱディフェンスが良くなるとテンポも良くなるし。でもオレの方が、、、。」なんて饒舌に語るもんだから、バスケに関しては全然飽きてないじゃない、と私は心の中で三井君に言い返すのだ。私は三井君が大好きだから、三井君の話は全部鵜呑みにする。本人談の才能だって、実力だって、物凄くあったんだと思うし、プロでも大活躍してたはずだと信じてやまない。だからいつもいつも、三井君勿体ないよ、と感想を漏らした。けれど三井君は、大学バスケでやり切った、と目力強めに答えるから、これがきっと三井君の偽らざる本心なのだろう。三井君はこうして、バスケットには一区切りをつけたみたい。
しかし私はどうだろう?思い描いた形を実現できる人なんてほんの一握りで、それは選ばれた人なんだ。私は三井君がとてもとても好きだけれど、大好きだけれども、それだけで三井君は私を選んではくれない。そんな現実を受け止めようと、私だって、自分の気持ちに抗ってみたこともあった。何度か別の人を好きになってもみるのだが、結局は三井君に気持ちが舞い戻ってきてしまうことも経験済みなのだ。長年の三井君への片思いは、しっかと私の心に根を張り、びったりと体に染み付いてしまった。諦めもつかないし、でも三井君に好かれない。そのうちに、その中間を取って三井君に毎度振られながらも片思いをする私、という構図が定着して今がある。定着は安定に繋がる。この状況に収まっていることに居心地が良くなっているのかもしれない。私も、そして三井君も、だ。
「また、好きとか、、、懲りねえよな。んでもって、お前さ、そう言う割に大学ん時も普通に彼氏いたじゃねーか。しかもさ、バスケ部のさ、オレの知ってるとこでさ。ほんっと訳わかんねぇわ。」
と、喋りながらも三井君は、忙しく店内を歩き回る店員さんを呼び止めて、すんません、ハイボール、とオーダーをしたので、あ、私もぶどうサワーを、と加わった。そして、思い出すように会話に立ち戻る。
「三井君だって彼女いたもん。」
「はぁ?何だよ、その当て擦る感じ。」
三井君とは高校の卒業式の日にも告白するが、そこでも振られて、高校卒業と同時に一旦は親交が途絶えた。もちろんその間も私は地熱発電のようにふつふつと三井君への思いを抱きつつも、心機一転、新たな人間関係を作り、私は大学生活を楽しんでいた。それなのに、私が大学二年生に上がった春。現役で推薦が取れなかった三井君は一浪の末、あろうことか一般入試で私と同じ大学に入学してきたのだ。こうなるとただでさえ思い込みが激しく、勢いで行動しがちな私は、運命だと思わざるをえない。暇さえあれば体育館に足を運んだ。三井君が属するバスケ部の練習も試合も、三井君を一目見たいが故の行動だったのだが、そこで同じバスケ部の男の子に声をかけられて、話をする内に仲良くなって、慕われて、付き合った。当時、三井君には彼女がいた時期で、確かに三井君がさっき言ったように、当て擦ったかのような行動を取ったように見えたかもしれないが、私は私なりにその彼のことを好きであったし、誰かに好意を持たれる経験が初めてだったから、全てが新鮮だった。ずっと三井君に振られ続けてきた一方通行の思いしか知らなかった私にとっては、楽しくもあり、切なくもあったが、思い出というものは良い意味で平均化される。だから今でも優しい記憶として刻まれていた。
「元彼と連絡取ったりしてんの?」
「え?うん。たまにね。来年結婚するんだって。って、それ三井君だって聞いてるでしょ?同じ学年だったんだし。」
「ん、ああ。まあな、、、。」
と言って、三井君が何か言葉にしかけたところに、お待たせしました〜、と店員さんは私と三井君の間に割り込んで、ハイボールとぶどうサワーを置いて行った。三井君は何かを飲み込むようにして、ジョッキに口をつけ、それから途切れた会話の中からどうやら別の言葉を見つけて私に話しかけた。
「苗字って、人間関係丸っこいよな。」
「ま、丸っこい、、、?何それ〜。」
「尖ってないっつーか。簡単に他人と縁、切れたりしねーよな。それ、すげーよ。」
三井君が目の前のだし巻き卵の一切れを、一口で食べた。美味しそうに見えたもんだから、私も釣られて箸を伸ばす。大学に上がると、こうやって互いに異性との付き合いを経験し、これまでの私からの一方的な告白の度にぎこちなくなっていった私と三井君の関係も少し大人になり、脱皮するように飛躍する。私は三井君への気持ちを止めることなんて出来ないけれど、押したり引いたりの駆け引きの一つもできやしないから、それならばと三井君の近くにいる友達の一人として居心地のいい場所を探り当てた。三井君は三井君で、そんな私とも適度な距離感を保てるようになり、私の気持ちを軽くいなすことを覚えた。そうすると三井君とは会話が増えていく。互いに地元を離れて進学したため、高校が同じという事が大学に入って顔馴染みの存在に変化してくれたのか、こうしてゴハンに誘ったらたまに会ってくれるようになった。そして私は、先ほどの三井君の言葉を翻すように答える。
「そんなことないと思うけど。私はあんまり人の気持ちとか変化に敏感じゃないから、のんびり付き合ってくれる人とは続くだけだよ。」
「そういうもんかね?」
「うん。だからね、三井君とも。三井君に見放されなければ、私、ずっと三井君のこと好きだと思う。えへへ。」
そう言って、私もだし巻き卵を口に運んだ。暖簾に腕押し、とはよく言ったものだ。もしくはけんもほろろとでも言い表せばいいのだろうか。邪険にされないだけでもマシかな、なんて思うのはやっぱり私が三井君のことを好きだから。三井君は私の言葉なんか全く気にする素振りもなく、これ、うめぇな、とお箸を持った手でだし巻き卵を指差す。三井君はだいたい何を食べてもそう言う人だから、私は、三井君、絶対食レポとか出来ないよねって、突っ込んで笑った。
三井君は、鶏の唐揚げに添えられたレモンを絞りながら、ごく自然なトーンで私に尋ねた。三井君は食事に行くと必ず唐揚げを注文する。昔は唐揚げにレモンをかけられるのが嫌で、私は自分が食べる分だけは、小皿に避けて確保していたのだが、三井君は私が取り分けるのを全然待ってくれないものだから、最近の私はこの爽やかな酸味と香りがする唐揚げの味にも慣れてしまった。私がこうやって三井君のやり方を受け入れて慣れていくように、三井君も私の恒例行事のような告白にも慣れっこだ。
「そうだねえ。もうかれこれ100回くらいは言ってるんじゃないかなぁ。最近はあんまり言わないようにしてるけど。でもね、三井君のこと、ホント好きすぎて。」
「いや、言ってんじゃんよ。」
「じゃあ、今ので101回目だ。あははは。」
呆れを通り越した三井君は、お酒が入って陽気になった私を無視して唐揚げを齧った。決して食べ方がキレイなわけではないけど、三井君の豪快な食べ方は見ていて気持ちが良いから、私は三井君の食事風景を見守るのも好きだ。
「そうだ、ねえ、三井君の話もしてよ。三井君の思い出も聞きたいもん。三年の時の全国行った時の話も!大学の時のリーグ戦、初めてスタメンに選ばれたあの試合の話も!」
「いーよ、もう。何?そんなに楽しいか?オレの話。」
「うん、楽しい。凄い好き。特にバスケの話をする時の三井君が好き。」
三井君は二個目の唐揚げを頬張り、ビールで流し込んだ。私の言う事をいちいち心にとめる様子もなくて、三井君はメニュー表を私から取り上げて、眺め始めた。
以前、三井君はどうしてバスケでプロに行かなかったの?と聞いたことがある。そんな簡単なもんじゃねーんだよ、と三井君は言った。続けて、オレ、飽き性だから長くストイックにやれねーもん、と答える。けれどもバスケや選手の話になると「あいつ、高校ん時、試合やったことあるけど、大したことなかったけどな。オレの方が上手かった。」とか「大学ん時、一個下だったんだよあいつ。ディフェンス良くなかったけど、こないだ見たとき、上手くなっててビビった。やっぱディフェンスが良くなるとテンポも良くなるし。でもオレの方が、、、。」なんて饒舌に語るもんだから、バスケに関しては全然飽きてないじゃない、と私は心の中で三井君に言い返すのだ。私は三井君が大好きだから、三井君の話は全部鵜呑みにする。本人談の才能だって、実力だって、物凄くあったんだと思うし、プロでも大活躍してたはずだと信じてやまない。だからいつもいつも、三井君勿体ないよ、と感想を漏らした。けれど三井君は、大学バスケでやり切った、と目力強めに答えるから、これがきっと三井君の偽らざる本心なのだろう。三井君はこうして、バスケットには一区切りをつけたみたい。
しかし私はどうだろう?思い描いた形を実現できる人なんてほんの一握りで、それは選ばれた人なんだ。私は三井君がとてもとても好きだけれど、大好きだけれども、それだけで三井君は私を選んではくれない。そんな現実を受け止めようと、私だって、自分の気持ちに抗ってみたこともあった。何度か別の人を好きになってもみるのだが、結局は三井君に気持ちが舞い戻ってきてしまうことも経験済みなのだ。長年の三井君への片思いは、しっかと私の心に根を張り、びったりと体に染み付いてしまった。諦めもつかないし、でも三井君に好かれない。そのうちに、その中間を取って三井君に毎度振られながらも片思いをする私、という構図が定着して今がある。定着は安定に繋がる。この状況に収まっていることに居心地が良くなっているのかもしれない。私も、そして三井君も、だ。
「また、好きとか、、、懲りねえよな。んでもって、お前さ、そう言う割に大学ん時も普通に彼氏いたじゃねーか。しかもさ、バスケ部のさ、オレの知ってるとこでさ。ほんっと訳わかんねぇわ。」
と、喋りながらも三井君は、忙しく店内を歩き回る店員さんを呼び止めて、すんません、ハイボール、とオーダーをしたので、あ、私もぶどうサワーを、と加わった。そして、思い出すように会話に立ち戻る。
「三井君だって彼女いたもん。」
「はぁ?何だよ、その当て擦る感じ。」
三井君とは高校の卒業式の日にも告白するが、そこでも振られて、高校卒業と同時に一旦は親交が途絶えた。もちろんその間も私は地熱発電のようにふつふつと三井君への思いを抱きつつも、心機一転、新たな人間関係を作り、私は大学生活を楽しんでいた。それなのに、私が大学二年生に上がった春。現役で推薦が取れなかった三井君は一浪の末、あろうことか一般入試で私と同じ大学に入学してきたのだ。こうなるとただでさえ思い込みが激しく、勢いで行動しがちな私は、運命だと思わざるをえない。暇さえあれば体育館に足を運んだ。三井君が属するバスケ部の練習も試合も、三井君を一目見たいが故の行動だったのだが、そこで同じバスケ部の男の子に声をかけられて、話をする内に仲良くなって、慕われて、付き合った。当時、三井君には彼女がいた時期で、確かに三井君がさっき言ったように、当て擦ったかのような行動を取ったように見えたかもしれないが、私は私なりにその彼のことを好きであったし、誰かに好意を持たれる経験が初めてだったから、全てが新鮮だった。ずっと三井君に振られ続けてきた一方通行の思いしか知らなかった私にとっては、楽しくもあり、切なくもあったが、思い出というものは良い意味で平均化される。だから今でも優しい記憶として刻まれていた。
「元彼と連絡取ったりしてんの?」
「え?うん。たまにね。来年結婚するんだって。って、それ三井君だって聞いてるでしょ?同じ学年だったんだし。」
「ん、ああ。まあな、、、。」
と言って、三井君が何か言葉にしかけたところに、お待たせしました〜、と店員さんは私と三井君の間に割り込んで、ハイボールとぶどうサワーを置いて行った。三井君は何かを飲み込むようにして、ジョッキに口をつけ、それから途切れた会話の中からどうやら別の言葉を見つけて私に話しかけた。
「苗字って、人間関係丸っこいよな。」
「ま、丸っこい、、、?何それ〜。」
「尖ってないっつーか。簡単に他人と縁、切れたりしねーよな。それ、すげーよ。」
三井君が目の前のだし巻き卵の一切れを、一口で食べた。美味しそうに見えたもんだから、私も釣られて箸を伸ばす。大学に上がると、こうやって互いに異性との付き合いを経験し、これまでの私からの一方的な告白の度にぎこちなくなっていった私と三井君の関係も少し大人になり、脱皮するように飛躍する。私は三井君への気持ちを止めることなんて出来ないけれど、押したり引いたりの駆け引きの一つもできやしないから、それならばと三井君の近くにいる友達の一人として居心地のいい場所を探り当てた。三井君は三井君で、そんな私とも適度な距離感を保てるようになり、私の気持ちを軽くいなすことを覚えた。そうすると三井君とは会話が増えていく。互いに地元を離れて進学したため、高校が同じという事が大学に入って顔馴染みの存在に変化してくれたのか、こうしてゴハンに誘ったらたまに会ってくれるようになった。そして私は、先ほどの三井君の言葉を翻すように答える。
「そんなことないと思うけど。私はあんまり人の気持ちとか変化に敏感じゃないから、のんびり付き合ってくれる人とは続くだけだよ。」
「そういうもんかね?」
「うん。だからね、三井君とも。三井君に見放されなければ、私、ずっと三井君のこと好きだと思う。えへへ。」
そう言って、私もだし巻き卵を口に運んだ。暖簾に腕押し、とはよく言ったものだ。もしくはけんもほろろとでも言い表せばいいのだろうか。邪険にされないだけでもマシかな、なんて思うのはやっぱり私が三井君のことを好きだから。三井君は私の言葉なんか全く気にする素振りもなく、これ、うめぇな、とお箸を持った手でだし巻き卵を指差す。三井君はだいたい何を食べてもそう言う人だから、私は、三井君、絶対食レポとか出来ないよねって、突っ込んで笑った。