とっておきのリクエスト(三井)
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「あっちじゃない?」
「前来た時、ここ曲がった気がすんな。」
「あ!あそこのマンション?」
「ああ、そうそう。そんな感じ。」
「もう!テキトー言わないで、電話して聞いてよ、寿。」
日曜日の昼下がり。私と寿は、コインパーキングに車を停めた後、地図アプリで検索しながら目的地へ向かって歩を運んだ。これから寿の高校の同級生のお宅に向かう。バスケ部の友人で、私も寿と付き合うようになってから、何度か顔を合わせたことがある。今日は、同じくバスケ部で一緒だった、木暮君も来るそうだ。
***
「おう、よく来たな。上がれ。木暮はもう来てるぞ。」
玄関先で、こんにちは、ご無沙汰しています、と私が挨拶をして見上げると、一段上がったところから赤木君は礼儀正しく挨拶を返してくれた。リビングに案内されると、すぐに目に入るのはベビーベッド。隣にオムツが綺麗に積んであり、壁沿いにおもちゃが並ぶ。子供のいる家庭ならではの優しい匂いがする。
「パパ、、、、っ!赤木がパパ、、、、!まだなんか慣れねぇんだよな。ぐはは!」
玄関からリビングに向かう廊下からすでに、口元を手で隠しながらも笑いを抑えきれずに赤木君を指差す寿に対して、もう少し大人になってよ、と彼女として若干恥ずかしく思った。
「バカめ、笑われたところで、痛くも痒くもないわ。」
今日は赤木君に二人目のお子さんが生まれたということで、木暮君と寿とで予定を合わせて会いに来たのだ。先に到着していた木暮君がこちらを向いて、安定の笑顔で声をかけてくる。
「おー、三井。久しぶりだな。名前さんも、こんにちは。」
「木暮、久しぶり。これ、赤木にもう渡していいか?」
「ああ、うん。手配してくれてありがとな。」
寿は、さっさと用事を済ませようぜ、と言いたげに、手に持っていたデパートの紙袋を木暮君に掲げて見せる。寿はこういうところが短気なのか、人様のお宅にお邪魔して早々に、次の行動に出ようとする。もう少しタイミングを見て渡せばいいのに、そういう気遣いが出来ない残念な寿に、事前に私から一言注意しておけば良かったなと、みんなの笑顔の裏で、私はため息をついた。まあ、こういう直球な性格も分かりやすくて可愛いかな、なんてつい寿に甘くなってしまう自分へのため息も含んでいたけれど。
「赤木、これ。オレと木暮から出産祝い。」
「おお、すまんな。ありがとう。木暮はまだしも、三井が用意してくるとは。」
「何だその言い方!オレ、一人目の時もちゃんとお祝い渡しただろ!渡したよな?なあ、木暮?!」
「分かっとるわ!まあ、そこ座れ。」
赤木君の寿の性格を分かった上での嫌味と、すぐに突っ掛かっていく寿、そして笑ってやり過ごす木暮君の三人をみていると、きっと高校時代もこんな調子で部活をやっていたんだろうなと、大人になっても変わらぬ関係性に、当時を知らない私でも自然と笑みが溢れる。リビングに腰を下ろす前から、こんなみんなのやりとりに、私が寿の後ろでくすくすと笑っていると、赤木君の奥さんがお子さん二人を連れてリビングに入ってきた。
三ヶ月になるという下の男の子の授乳を終えた奥さんから、赤木君が赤ちゃんを受け抱えた。奥さんは私達との挨拶もそこそこに、お茶出しますね、とキッチンに消えていく。残ったのは、赤木君に抱かれた赤ちゃんと、上の女の子。
「おー、上の子も大きくなったな。あーちゃん、こんにちは。何歳になったの?」
木暮君にあーちゃんと呼ばれた女の子は、シャツを握って、赤木君の大きな背中から顔を出して、こちらをチラチラと気にしている。
「さんさい、、、。」
自信なさそうに指を一つ一つ折り曲げながら、三本にした指を私達の前に示してきたあーちゃんに、寿はケラケラと明るい声で言った。
「赤木に似なくて良かったな!ゴリラ女子はきっついよな!」
ちょっと、、、!何でアンタはそんなことをズケズケとよその子に言っちゃうのよ!と、頭を小突きたくなったけれども、赤木君、木暮君の手前、それも憚られて、ただただ話題を、今日の主役の赤ちゃんへ切り替えるだけが精一杯だった。
「あの、、、赤ちゃん可愛いね。赤木君に抱っこされてると、ますます小さく見えるよね。」
抱っこしてみます?と赤木君の奥さんがお茶とお菓子をトレイに乗せてキッチンから出てくる。じゃ、じゃあ、、、と私は、おそるおそる赤木君から、男の子を自分に引き寄せて胸元に近付けた。
「う、、、わぁ、、、。可愛い。泣かないのね。なんて良い子〜。はぁ〜、新生児の匂いする〜。」
少しいびつな体勢になりながらも、左腕で首と頭を支える私の左側から、胡座をかいた寿が首だけで覗き込んでくる。
「新生児の匂い?どんな?って名前、なんか変なところに力入ってね?緊張してんじゃねーか。」
「そりゃ、するよ!赤ちゃんだもん!抱っこに慣れてないからヒヤヒヤするよ〜!」
「首、まだ微妙に据わってないからな。」
自分の人差し指を赤ちゃんの手に近付けて、お、握った!握った!なんてそれだけで喜んでいる寿は、赤木君の言葉に質問を返した。
「あん?赤木、据わってないってどういうこと?」
そこに、木暮君が会話に加わる。
「赤ちゃんは、首を支えながら抱っこしないと、グニャグニャなんだよ。」
「マジかよ、、、。オ、オレはいいわっ!オレが抱っこしたら、どうかしそうで怖ぇよ!」
「お前にうちの子を抱っこさせてやるとは一言も言っとらんぞ。」
「ぬ、、、ムカつくけど、何も言えねぇ、、、!」
「まあ、最初はみんなそうだよな。オレも新生児は怖いもん。」
木暮君があはは、と笑い出すと、その場にいるみんなも赤ちゃんを見ながら、和やかなムードに包まれた。
***
赤木君から奥さんに、寿が持ってきた出産祝いの紙袋のことが伝えられる。ああ、どうもわざわざすみません。と言われた寿は、
「あ、いや、こんなん全然何買っていいか分かんなくって、名前が一緒に選んでくれて。助かったわ。」
と話を振られる。赤木君達がラッピングされた包み紙を大事に剥ぎ取りながら、中身を取り出していくのを私もドキドキして見守る。いつだって、贈り物というのは緊張してしまう。
「二人目ときいたから、色々赤ちゃんグッズは持っているかと思って。ガーゼタオルとお洋服にしました。ガーゼタオルはお昼寝でも使えるし、抱っこ紐に巻いてもいいし。お洋服は上の子が女の子だとおさがりもあまり無いでしょう?すぐに小さくなると思ったので、来年用で80にしてるよ。多分そっちの方が長く着れるはずだし、、、。」
気に入ってくれるかどうか分からなくて、緊張を打ち消すように、ついつい饒舌になってしまう。この様子を見て、寿は親指で私を指差して言った。
「ほら、めっちゃ詳しいんだよ、こいつ。謎に。」
「謎にって、、、私の同級生も結構子供産んでて、出産祝いを買いによくデパートに行くのよ。その時にお店の人に接客受けて色々話聞くから。それで、だよ。」
暗に私達の年齢は、そういう年齢なんだぞっていう気持ちが漏れ出てしまったことを、発言の後に気付く。赤木君への出産祝いを買いに行った際、寿も勿論付いてきたのだけれど、
「オレ、分かんねーから、名前に任せるわ。」
と言った。その上で一人でいる時に販売員に声を掛けられたくないのだろう、私の後ろにほぼぴったりくっついきたのは笑えたけど。興味あるのか無いのか分からない風で、値札を見てはボソボソと、イイ商売してんな、オイ、とか、最近の子供の名前って漢字読めねーよな、とかどうでもいいことを耳打ちする。
寿と付き合って長いのだけれども、結婚のけの字が出てきたことはない。世の中的には適齢期を迎えているはずなんだけれども、私達は、付き合いと年齢を重ねるごとになんだか他人の話題は口に出来ても、自分達のこととなると、この類の話題を意図的に避けている気がする。付き合い立ての頃は、もうちょっと気軽に、私も早く結婚したーい!なんてふざけて会話が出来てた気もするんだけどな。
「おお、男の子の服ってなんだか新鮮だな。」
包みを開いて、赤木君の奥さんが洋服を赤ちゃんにあてがう赤木君が言った。赤木君の家族を見ながら、隣に座る寿は今どんなことを考えているのだろう。誰に責められるわけでもないのに、お互いを責め合っているわけでもないのに、私達はどうも縮こまって、現状維持。
***
リビングで私達をせっせとおもてなししてくれたのは赤木夫婦だけではなく、実はもう一人いた。
「あーい。ごはん出来ましたよー。どうぞー。」
「わぁ、ありがとう。いただきまーす。」
赤木君の娘である、3歳のあーちゃんは、来客に喜び、ままごとセットでひたすらに料理をして、もてなしてくれる。あーちゃんの一番近くにいた木暮君が、向き合って、相手をしていたのを寿が横から話しかける。
「木暮、めっちゃ馴染んでんな。」
「オレ?ああ、親戚の子でこれくらいの子が多いからな。慣れてるかもな。パクパク。ハイ、全部食べたよー。美味しかったです。ごちそうさまー。」
あーい、と言って、あーちゃんは料理の乗ったお皿を受け取って、また新たな食べ物を乗せてくるので、その夢中な様に苦笑する木暮君。そして彼はやはり子供の扱いに慣れている。
「ほら、あーちゃん、隣のおじさんもお腹が空いたーって言ってるから、何か作ってあげて。」
「え、オレかよ!?」
いいですよー、少しお待ちくださーい、と元気良く返事をしたあーちゃんのターゲットが、木暮君から寿に移った。
「魚と同じ皿にショートケーキ乗ってんぞ。すげえ、組み合わせだな。」
「イチゴとメロン一個のサイズがなんで一緒なんだよ。」
などと、子供が目の前に持ってくる食べ物にいちいちブツブツ言いながら受け取る寿。そんなもんだよ、と木暮君が笑えば、ままごとにいちいちリアリティを求めるな、と赤木君が突っ込む。徐々にままごとの空間に溶け込む寿の順応性に笑った。というよりも、寿はあくまでも寿のままで参加するところが、彼らしさ全開だった。
「ゆで卵には塩かけるだろ。おい、あーちゃん、塩ちょーだい、塩。」
「はーい!お塩でーす。どぞー。」
「サンキュー。やっぱゆで卵には塩がないとな。モグモグ。うめぇ!」
「おかわりもありまーす。お塩かけますかー?」
「おー、かけて、かけて。」
「はいー。パッパッパ!お塩かけましたー。まだまだありますよー。ゆで卵どぞー。」
「またぁ?!ゆで卵、もういいよ。オレお腹いっぱいだって。、、、、なあ、おい、これいつまで続くもんなんだ?」
私達の方を振り向いて、寿は聞いてくる。赤木君がお茶を飲みながら、無表情で当たり前のように言う。
「エンドレスだ。直に何とも思わなくなるぞ。慣れだ。」
「マジかよ。赤木、お前すげぇな。」
「あははは。三井もなかなかサマになってるじゃないか。」
木暮君が笑い、あーちゃんは今日何個目かのゆで卵を寿に渡した。ご丁寧に塩を振り掛ける真似をして。
***
赤木君の家を出て、電車で来たという木暮君とはマンションの前で別れた。私と寿は元来た道を辿って、車に乗り込んだ。シートベルトをして、バックミラーに手をかけながら、寿は言う。
「ああいうの、良いよな。子供欲しくなるわ。」
「え、寿って子供好き?」
「、、、?普通に好きだと思うけど?」
付き合いが長くなると、自分達の先を連想させるような会話はなくなる。言葉に責任を伴うということを知るからだ。相手を思っているからこそ、無責任な言動で相手を惑わせることはしたくない。大人になるって、厄介だ。歳を取れば取るほど言葉を選んでとても臆病になる。だから私は、結婚や子供の話になると、上澄みの部分だけをすくったような会話をしてしまうのだ。
「今日のままごと、横で見てて面白かったよ。ああいうことも出来るんだね。」
「お前な、オレのポテンシャルを舐めんなよ。」
「ふふっ、何ポテンシャルよ?!」
私がシートベルトを装着したのを確認して、車は走り出す。
「それにしても、赤木の娘、ホント嫁さん似で良かったよな。」
「まだそれ言う?!もー、あんなこと言っちゃ駄目だよ!失礼でしょっ。」
「遺伝って怖えなあ。女の子だったら、名前に似た方がいいな、オレ。」
「え。」
車内の会話が止まる。咄嗟のリアクションがとれなくて、しばし間をあけてしまった。思い付く言葉をかき集めて、何か言わなければと思ったのに、この沈黙の間が湿度と重力を持ち始め、取り返せない空気を作り出した。そして言葉は私の喉に引っかかったまま、これ以上出てくることはなかった。
寿の頭の中で描く、今より先の場所には私がいたらしい。これは喜んでいいのか、驚くべきなのか、いくつかの感情を掻き集めても、どれも的確な気持ちを表せなくて、愚かに動揺した私をあばかれまいと、窓の外を眺めるフリをして寿から顔を背けた。そして車の窓に映る寿をひそかに観察すると、運転席の窓側に首を傾げ、顎を触りながら前を向いていた。寿も自分の発言の意味をようやく飲み込んだらしく、私と同様に無言を貫いた。ここが車内で良かったと思う。会話がなくてもそれとなく成立する空間だからだ。寿はハンドルを握っていればいいし、私は窓の外の流れる景色をぼうっと眺めているだけでいい。二人を乗せて車は走る。
「まもなく高速道路出口です。」
カーナビの音声案内は家路を辿ろうとしているというのに、私達自身は二人のこの先を設定できないまま走っている。画面は、私達の現在地を静かに示しているだけだった。
***
高速を降りて、一般道に入る。ブレーキのタイミングが遅くて、寿が、あ、悪ぃ。と言い、ガクンと前のめりに揺れる私が、うん、と答えるようなやりとりを除けば、私達の間には会話が無くなっていた。決して嫌な雰囲気ではなかったが、だけども不自然な雰囲気であることに違いはなく、それは寿も同じ気持ちだったらしい。何かを変えたかったのか、カーラジオのスイッチを押した。FMから流れてきたのは、有名な結婚ソングで、さすがにこのことをやり過ごせる私達ではなかった。
「ぶふっ、、、、!」
寿は窓側に顔を背け、咳払いをして誤魔化す素振りをしたが、明らかに体を震わせて笑っていた。なんというタイミングでなんという選曲だろう。今、私達が最も口に出来ないフレーズが、キャッチーなメロディと共に流れる。そしてそれを黙って聞く羽目になってしまった、先程から妙な緊張感を持った私達。このシチュエーションのちぐはぐさがあまりにも滑稽で居た堪れなくなった。寿も私と同じ感想を持ったのだろう。寿が笑ったのをきっかけにして、私もとうとう両手で口元を抑える。シートベルトの抵抗も気にせずに前屈みになって、くふふと笑って話しかけた。
「ねぇ、ちょっと。笑ってるでしょ。寿。」
「いや、えっと、このタイミングは、、、。お前さ、笑うしかないだろ、、、、。」
お互いにこぼれた、掠れた笑いを一つに集めるかのように息を吸い込み、ふぅ、と吐いて寿は続けた。
「あのさ、さっきのやつな、オレ、早とちりした。気にすんな、つっても名前、気にすると思うけどさ、えーと、気にすんな。」
「ふふ、何それ、気にするに決まってるよ。」
「、、、ですよね。」
寿は、バツが悪そうに、しかも堅苦しく姿勢を正すような返事をする。ちょうど車は右折レーンに入るところで、会話は途切れる。下げられたウインカーのカチ、カチ、カチ、という音がまるでカウントダウンをするみたいで、私はじっと寿の言葉を待った。
「こういうの、勢いで言わないからな、オレ。」
「、、、言うって、何を?」
「色々とオレも考えてんだよ。」
「その色々が分かんないから聞いてるの。」
「だぁから!もうちょい待って。」
「、、、それでも不安になるの。」
「、、、あー。」
赤信号で停車すると、寿の左手が私の右手を取って静かに掴む。手は二人の間のちょうど良い位置にあるシフトレバーの上で重ねられた。手の甲に寿の温度を感じると、じわりと胸に伝わって熱くなった。
結婚だとか、出産だとか。周りの変化に、近頃の私は心に寂しさや焦りを広げていたかもしれない。加えて、色んなことを振り返りすぎたり、考えても仕方のないことをいつまでも考えすぎたりと、同じ場所にとどまりやすい私なのだけれど、こうやって現実には、隣に寿がいるというだけで、私の精神は助けられているのだと気付く。私の指の隙間に寿の指が埋められ、寿の自由の利く親指が私の手の甲をスリスリと撫でつける。寿の珍しく熱っぽい仕草に不覚にもときめいてしまって、私は心の中で咳払いをした。慮るようにそっと重ねられた寿の手が嬉しい。厚く広い手の甲を見つめながら、私はこの人が好きだと改めて思った。
信号が青に変わるのを合図に、寿と親指は、私の薬指の付け根を擦るように撫でて応え、ハンドルに戻っていった。前の車が走り出すに従い、私達の会話も滑り出す。
「名前、お前、今日、グイグイ詰めてくるな。」
「今日は詰めていいのかなと。ははは、寿、何も考えてないのかと思ってた。」
「んなとことねーよ。今日だって一緒に赤木んトコの子供見に行ったんじゃねーか。オレだって、名前をあんなバリバリに家族を意識させるような場所に連れてくほど無神経じゃねーよ。」
「そっか。うん。、、、そっか、そっかー!うふふふ!」
勢いで言わないからな、なんて言っていたけれど、ほぼ言ってるようなもんじゃないかと、寿の言動に短絡的な性格が表れていて、つい笑ってしまった。そして浮かれてしまう自分にも。こういった私の態度に、寿もよく思ったのかもしれない。寿はいつもに戻って軽口を叩く。
「とりあえず、アレだ。帰ったら、今夜は練習だな。」
「は?練習?何の?」
「子作りのだよ。」
「バッ、、、バッカじゃないの!寿!ホント、マジでバカ!アホすぎ!」
「あ、やべ、こんな話ししてたら、半勃ち、、、。」
はぁ、と呆れたポーズを取りつつ、私も負けじとからかって返す。
「、、、元気だね。触ってあげようか?」
「やめろよ!運、転、中!」
「ふっふっふっふっ!」
「名前、ほんっと下品だよな!」
「どっちが!!」
アハハと転げるような大声で二人は笑い合った。私達の笑い声の後ろでは、つけっぱなしのラジオもやれやれと苦笑いしているようだった。
「さて、爽やかなラブソング特集。新郎が花嫁に永遠の愛を誓うような歌詞が人気を集めましたよね。家族になって、未来に向かって歩いていく、そんな二人にぴったりの一曲です。あなたのHAPPYを叶えて下さいね。それでは続いてのリクエスト、、、、」
「前来た時、ここ曲がった気がすんな。」
「あ!あそこのマンション?」
「ああ、そうそう。そんな感じ。」
「もう!テキトー言わないで、電話して聞いてよ、寿。」
日曜日の昼下がり。私と寿は、コインパーキングに車を停めた後、地図アプリで検索しながら目的地へ向かって歩を運んだ。これから寿の高校の同級生のお宅に向かう。バスケ部の友人で、私も寿と付き合うようになってから、何度か顔を合わせたことがある。今日は、同じくバスケ部で一緒だった、木暮君も来るそうだ。
***
「おう、よく来たな。上がれ。木暮はもう来てるぞ。」
玄関先で、こんにちは、ご無沙汰しています、と私が挨拶をして見上げると、一段上がったところから赤木君は礼儀正しく挨拶を返してくれた。リビングに案内されると、すぐに目に入るのはベビーベッド。隣にオムツが綺麗に積んであり、壁沿いにおもちゃが並ぶ。子供のいる家庭ならではの優しい匂いがする。
「パパ、、、、っ!赤木がパパ、、、、!まだなんか慣れねぇんだよな。ぐはは!」
玄関からリビングに向かう廊下からすでに、口元を手で隠しながらも笑いを抑えきれずに赤木君を指差す寿に対して、もう少し大人になってよ、と彼女として若干恥ずかしく思った。
「バカめ、笑われたところで、痛くも痒くもないわ。」
今日は赤木君に二人目のお子さんが生まれたということで、木暮君と寿とで予定を合わせて会いに来たのだ。先に到着していた木暮君がこちらを向いて、安定の笑顔で声をかけてくる。
「おー、三井。久しぶりだな。名前さんも、こんにちは。」
「木暮、久しぶり。これ、赤木にもう渡していいか?」
「ああ、うん。手配してくれてありがとな。」
寿は、さっさと用事を済ませようぜ、と言いたげに、手に持っていたデパートの紙袋を木暮君に掲げて見せる。寿はこういうところが短気なのか、人様のお宅にお邪魔して早々に、次の行動に出ようとする。もう少しタイミングを見て渡せばいいのに、そういう気遣いが出来ない残念な寿に、事前に私から一言注意しておけば良かったなと、みんなの笑顔の裏で、私はため息をついた。まあ、こういう直球な性格も分かりやすくて可愛いかな、なんてつい寿に甘くなってしまう自分へのため息も含んでいたけれど。
「赤木、これ。オレと木暮から出産祝い。」
「おお、すまんな。ありがとう。木暮はまだしも、三井が用意してくるとは。」
「何だその言い方!オレ、一人目の時もちゃんとお祝い渡しただろ!渡したよな?なあ、木暮?!」
「分かっとるわ!まあ、そこ座れ。」
赤木君の寿の性格を分かった上での嫌味と、すぐに突っ掛かっていく寿、そして笑ってやり過ごす木暮君の三人をみていると、きっと高校時代もこんな調子で部活をやっていたんだろうなと、大人になっても変わらぬ関係性に、当時を知らない私でも自然と笑みが溢れる。リビングに腰を下ろす前から、こんなみんなのやりとりに、私が寿の後ろでくすくすと笑っていると、赤木君の奥さんがお子さん二人を連れてリビングに入ってきた。
三ヶ月になるという下の男の子の授乳を終えた奥さんから、赤木君が赤ちゃんを受け抱えた。奥さんは私達との挨拶もそこそこに、お茶出しますね、とキッチンに消えていく。残ったのは、赤木君に抱かれた赤ちゃんと、上の女の子。
「おー、上の子も大きくなったな。あーちゃん、こんにちは。何歳になったの?」
木暮君にあーちゃんと呼ばれた女の子は、シャツを握って、赤木君の大きな背中から顔を出して、こちらをチラチラと気にしている。
「さんさい、、、。」
自信なさそうに指を一つ一つ折り曲げながら、三本にした指を私達の前に示してきたあーちゃんに、寿はケラケラと明るい声で言った。
「赤木に似なくて良かったな!ゴリラ女子はきっついよな!」
ちょっと、、、!何でアンタはそんなことをズケズケとよその子に言っちゃうのよ!と、頭を小突きたくなったけれども、赤木君、木暮君の手前、それも憚られて、ただただ話題を、今日の主役の赤ちゃんへ切り替えるだけが精一杯だった。
「あの、、、赤ちゃん可愛いね。赤木君に抱っこされてると、ますます小さく見えるよね。」
抱っこしてみます?と赤木君の奥さんがお茶とお菓子をトレイに乗せてキッチンから出てくる。じゃ、じゃあ、、、と私は、おそるおそる赤木君から、男の子を自分に引き寄せて胸元に近付けた。
「う、、、わぁ、、、。可愛い。泣かないのね。なんて良い子〜。はぁ〜、新生児の匂いする〜。」
少しいびつな体勢になりながらも、左腕で首と頭を支える私の左側から、胡座をかいた寿が首だけで覗き込んでくる。
「新生児の匂い?どんな?って名前、なんか変なところに力入ってね?緊張してんじゃねーか。」
「そりゃ、するよ!赤ちゃんだもん!抱っこに慣れてないからヒヤヒヤするよ〜!」
「首、まだ微妙に据わってないからな。」
自分の人差し指を赤ちゃんの手に近付けて、お、握った!握った!なんてそれだけで喜んでいる寿は、赤木君の言葉に質問を返した。
「あん?赤木、据わってないってどういうこと?」
そこに、木暮君が会話に加わる。
「赤ちゃんは、首を支えながら抱っこしないと、グニャグニャなんだよ。」
「マジかよ、、、。オ、オレはいいわっ!オレが抱っこしたら、どうかしそうで怖ぇよ!」
「お前にうちの子を抱っこさせてやるとは一言も言っとらんぞ。」
「ぬ、、、ムカつくけど、何も言えねぇ、、、!」
「まあ、最初はみんなそうだよな。オレも新生児は怖いもん。」
木暮君があはは、と笑い出すと、その場にいるみんなも赤ちゃんを見ながら、和やかなムードに包まれた。
***
赤木君から奥さんに、寿が持ってきた出産祝いの紙袋のことが伝えられる。ああ、どうもわざわざすみません。と言われた寿は、
「あ、いや、こんなん全然何買っていいか分かんなくって、名前が一緒に選んでくれて。助かったわ。」
と話を振られる。赤木君達がラッピングされた包み紙を大事に剥ぎ取りながら、中身を取り出していくのを私もドキドキして見守る。いつだって、贈り物というのは緊張してしまう。
「二人目ときいたから、色々赤ちゃんグッズは持っているかと思って。ガーゼタオルとお洋服にしました。ガーゼタオルはお昼寝でも使えるし、抱っこ紐に巻いてもいいし。お洋服は上の子が女の子だとおさがりもあまり無いでしょう?すぐに小さくなると思ったので、来年用で80にしてるよ。多分そっちの方が長く着れるはずだし、、、。」
気に入ってくれるかどうか分からなくて、緊張を打ち消すように、ついつい饒舌になってしまう。この様子を見て、寿は親指で私を指差して言った。
「ほら、めっちゃ詳しいんだよ、こいつ。謎に。」
「謎にって、、、私の同級生も結構子供産んでて、出産祝いを買いによくデパートに行くのよ。その時にお店の人に接客受けて色々話聞くから。それで、だよ。」
暗に私達の年齢は、そういう年齢なんだぞっていう気持ちが漏れ出てしまったことを、発言の後に気付く。赤木君への出産祝いを買いに行った際、寿も勿論付いてきたのだけれど、
「オレ、分かんねーから、名前に任せるわ。」
と言った。その上で一人でいる時に販売員に声を掛けられたくないのだろう、私の後ろにほぼぴったりくっついきたのは笑えたけど。興味あるのか無いのか分からない風で、値札を見てはボソボソと、イイ商売してんな、オイ、とか、最近の子供の名前って漢字読めねーよな、とかどうでもいいことを耳打ちする。
寿と付き合って長いのだけれども、結婚のけの字が出てきたことはない。世の中的には適齢期を迎えているはずなんだけれども、私達は、付き合いと年齢を重ねるごとになんだか他人の話題は口に出来ても、自分達のこととなると、この類の話題を意図的に避けている気がする。付き合い立ての頃は、もうちょっと気軽に、私も早く結婚したーい!なんてふざけて会話が出来てた気もするんだけどな。
「おお、男の子の服ってなんだか新鮮だな。」
包みを開いて、赤木君の奥さんが洋服を赤ちゃんにあてがう赤木君が言った。赤木君の家族を見ながら、隣に座る寿は今どんなことを考えているのだろう。誰に責められるわけでもないのに、お互いを責め合っているわけでもないのに、私達はどうも縮こまって、現状維持。
***
リビングで私達をせっせとおもてなししてくれたのは赤木夫婦だけではなく、実はもう一人いた。
「あーい。ごはん出来ましたよー。どうぞー。」
「わぁ、ありがとう。いただきまーす。」
赤木君の娘である、3歳のあーちゃんは、来客に喜び、ままごとセットでひたすらに料理をして、もてなしてくれる。あーちゃんの一番近くにいた木暮君が、向き合って、相手をしていたのを寿が横から話しかける。
「木暮、めっちゃ馴染んでんな。」
「オレ?ああ、親戚の子でこれくらいの子が多いからな。慣れてるかもな。パクパク。ハイ、全部食べたよー。美味しかったです。ごちそうさまー。」
あーい、と言って、あーちゃんは料理の乗ったお皿を受け取って、また新たな食べ物を乗せてくるので、その夢中な様に苦笑する木暮君。そして彼はやはり子供の扱いに慣れている。
「ほら、あーちゃん、隣のおじさんもお腹が空いたーって言ってるから、何か作ってあげて。」
「え、オレかよ!?」
いいですよー、少しお待ちくださーい、と元気良く返事をしたあーちゃんのターゲットが、木暮君から寿に移った。
「魚と同じ皿にショートケーキ乗ってんぞ。すげえ、組み合わせだな。」
「イチゴとメロン一個のサイズがなんで一緒なんだよ。」
などと、子供が目の前に持ってくる食べ物にいちいちブツブツ言いながら受け取る寿。そんなもんだよ、と木暮君が笑えば、ままごとにいちいちリアリティを求めるな、と赤木君が突っ込む。徐々にままごとの空間に溶け込む寿の順応性に笑った。というよりも、寿はあくまでも寿のままで参加するところが、彼らしさ全開だった。
「ゆで卵には塩かけるだろ。おい、あーちゃん、塩ちょーだい、塩。」
「はーい!お塩でーす。どぞー。」
「サンキュー。やっぱゆで卵には塩がないとな。モグモグ。うめぇ!」
「おかわりもありまーす。お塩かけますかー?」
「おー、かけて、かけて。」
「はいー。パッパッパ!お塩かけましたー。まだまだありますよー。ゆで卵どぞー。」
「またぁ?!ゆで卵、もういいよ。オレお腹いっぱいだって。、、、、なあ、おい、これいつまで続くもんなんだ?」
私達の方を振り向いて、寿は聞いてくる。赤木君がお茶を飲みながら、無表情で当たり前のように言う。
「エンドレスだ。直に何とも思わなくなるぞ。慣れだ。」
「マジかよ。赤木、お前すげぇな。」
「あははは。三井もなかなかサマになってるじゃないか。」
木暮君が笑い、あーちゃんは今日何個目かのゆで卵を寿に渡した。ご丁寧に塩を振り掛ける真似をして。
***
赤木君の家を出て、電車で来たという木暮君とはマンションの前で別れた。私と寿は元来た道を辿って、車に乗り込んだ。シートベルトをして、バックミラーに手をかけながら、寿は言う。
「ああいうの、良いよな。子供欲しくなるわ。」
「え、寿って子供好き?」
「、、、?普通に好きだと思うけど?」
付き合いが長くなると、自分達の先を連想させるような会話はなくなる。言葉に責任を伴うということを知るからだ。相手を思っているからこそ、無責任な言動で相手を惑わせることはしたくない。大人になるって、厄介だ。歳を取れば取るほど言葉を選んでとても臆病になる。だから私は、結婚や子供の話になると、上澄みの部分だけをすくったような会話をしてしまうのだ。
「今日のままごと、横で見てて面白かったよ。ああいうことも出来るんだね。」
「お前な、オレのポテンシャルを舐めんなよ。」
「ふふっ、何ポテンシャルよ?!」
私がシートベルトを装着したのを確認して、車は走り出す。
「それにしても、赤木の娘、ホント嫁さん似で良かったよな。」
「まだそれ言う?!もー、あんなこと言っちゃ駄目だよ!失礼でしょっ。」
「遺伝って怖えなあ。女の子だったら、名前に似た方がいいな、オレ。」
「え。」
車内の会話が止まる。咄嗟のリアクションがとれなくて、しばし間をあけてしまった。思い付く言葉をかき集めて、何か言わなければと思ったのに、この沈黙の間が湿度と重力を持ち始め、取り返せない空気を作り出した。そして言葉は私の喉に引っかかったまま、これ以上出てくることはなかった。
寿の頭の中で描く、今より先の場所には私がいたらしい。これは喜んでいいのか、驚くべきなのか、いくつかの感情を掻き集めても、どれも的確な気持ちを表せなくて、愚かに動揺した私をあばかれまいと、窓の外を眺めるフリをして寿から顔を背けた。そして車の窓に映る寿をひそかに観察すると、運転席の窓側に首を傾げ、顎を触りながら前を向いていた。寿も自分の発言の意味をようやく飲み込んだらしく、私と同様に無言を貫いた。ここが車内で良かったと思う。会話がなくてもそれとなく成立する空間だからだ。寿はハンドルを握っていればいいし、私は窓の外の流れる景色をぼうっと眺めているだけでいい。二人を乗せて車は走る。
「まもなく高速道路出口です。」
カーナビの音声案内は家路を辿ろうとしているというのに、私達自身は二人のこの先を設定できないまま走っている。画面は、私達の現在地を静かに示しているだけだった。
***
高速を降りて、一般道に入る。ブレーキのタイミングが遅くて、寿が、あ、悪ぃ。と言い、ガクンと前のめりに揺れる私が、うん、と答えるようなやりとりを除けば、私達の間には会話が無くなっていた。決して嫌な雰囲気ではなかったが、だけども不自然な雰囲気であることに違いはなく、それは寿も同じ気持ちだったらしい。何かを変えたかったのか、カーラジオのスイッチを押した。FMから流れてきたのは、有名な結婚ソングで、さすがにこのことをやり過ごせる私達ではなかった。
「ぶふっ、、、、!」
寿は窓側に顔を背け、咳払いをして誤魔化す素振りをしたが、明らかに体を震わせて笑っていた。なんというタイミングでなんという選曲だろう。今、私達が最も口に出来ないフレーズが、キャッチーなメロディと共に流れる。そしてそれを黙って聞く羽目になってしまった、先程から妙な緊張感を持った私達。このシチュエーションのちぐはぐさがあまりにも滑稽で居た堪れなくなった。寿も私と同じ感想を持ったのだろう。寿が笑ったのをきっかけにして、私もとうとう両手で口元を抑える。シートベルトの抵抗も気にせずに前屈みになって、くふふと笑って話しかけた。
「ねぇ、ちょっと。笑ってるでしょ。寿。」
「いや、えっと、このタイミングは、、、。お前さ、笑うしかないだろ、、、、。」
お互いにこぼれた、掠れた笑いを一つに集めるかのように息を吸い込み、ふぅ、と吐いて寿は続けた。
「あのさ、さっきのやつな、オレ、早とちりした。気にすんな、つっても名前、気にすると思うけどさ、えーと、気にすんな。」
「ふふ、何それ、気にするに決まってるよ。」
「、、、ですよね。」
寿は、バツが悪そうに、しかも堅苦しく姿勢を正すような返事をする。ちょうど車は右折レーンに入るところで、会話は途切れる。下げられたウインカーのカチ、カチ、カチ、という音がまるでカウントダウンをするみたいで、私はじっと寿の言葉を待った。
「こういうの、勢いで言わないからな、オレ。」
「、、、言うって、何を?」
「色々とオレも考えてんだよ。」
「その色々が分かんないから聞いてるの。」
「だぁから!もうちょい待って。」
「、、、それでも不安になるの。」
「、、、あー。」
赤信号で停車すると、寿の左手が私の右手を取って静かに掴む。手は二人の間のちょうど良い位置にあるシフトレバーの上で重ねられた。手の甲に寿の温度を感じると、じわりと胸に伝わって熱くなった。
結婚だとか、出産だとか。周りの変化に、近頃の私は心に寂しさや焦りを広げていたかもしれない。加えて、色んなことを振り返りすぎたり、考えても仕方のないことをいつまでも考えすぎたりと、同じ場所にとどまりやすい私なのだけれど、こうやって現実には、隣に寿がいるというだけで、私の精神は助けられているのだと気付く。私の指の隙間に寿の指が埋められ、寿の自由の利く親指が私の手の甲をスリスリと撫でつける。寿の珍しく熱っぽい仕草に不覚にもときめいてしまって、私は心の中で咳払いをした。慮るようにそっと重ねられた寿の手が嬉しい。厚く広い手の甲を見つめながら、私はこの人が好きだと改めて思った。
信号が青に変わるのを合図に、寿と親指は、私の薬指の付け根を擦るように撫でて応え、ハンドルに戻っていった。前の車が走り出すに従い、私達の会話も滑り出す。
「名前、お前、今日、グイグイ詰めてくるな。」
「今日は詰めていいのかなと。ははは、寿、何も考えてないのかと思ってた。」
「んなとことねーよ。今日だって一緒に赤木んトコの子供見に行ったんじゃねーか。オレだって、名前をあんなバリバリに家族を意識させるような場所に連れてくほど無神経じゃねーよ。」
「そっか。うん。、、、そっか、そっかー!うふふふ!」
勢いで言わないからな、なんて言っていたけれど、ほぼ言ってるようなもんじゃないかと、寿の言動に短絡的な性格が表れていて、つい笑ってしまった。そして浮かれてしまう自分にも。こういった私の態度に、寿もよく思ったのかもしれない。寿はいつもに戻って軽口を叩く。
「とりあえず、アレだ。帰ったら、今夜は練習だな。」
「は?練習?何の?」
「子作りのだよ。」
「バッ、、、バッカじゃないの!寿!ホント、マジでバカ!アホすぎ!」
「あ、やべ、こんな話ししてたら、半勃ち、、、。」
はぁ、と呆れたポーズを取りつつ、私も負けじとからかって返す。
「、、、元気だね。触ってあげようか?」
「やめろよ!運、転、中!」
「ふっふっふっふっ!」
「名前、ほんっと下品だよな!」
「どっちが!!」
アハハと転げるような大声で二人は笑い合った。私達の笑い声の後ろでは、つけっぱなしのラジオもやれやれと苦笑いしているようだった。
「さて、爽やかなラブソング特集。新郎が花嫁に永遠の愛を誓うような歌詞が人気を集めましたよね。家族になって、未来に向かって歩いていく、そんな二人にぴったりの一曲です。あなたのHAPPYを叶えて下さいね。それでは続いてのリクエスト、、、、」
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