愛の形はハートだと、一体誰が決めたのか
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あの事件から数日が経った。
女の証言と警察の捜査により、東堂組は検挙され、事実上の解体。
そして、AXの撤廃も果たされた。
ファットガムから夏季に、ご飯のお誘いメールが来たのは、それから更に3日後のことだった。
事件があったあの日、夏季の事情聴取やらファットガムの協力要請やらで慌ただしくなり、彼らにはウヤムヤにしたままのものがある。
待ち合わせは、以前にも来たことがある居酒屋チェーン店。
忙しい日々が続いていたせいか、彼はローファットの姿のほうでやって来た。
話すべきことはあるが、そこではお互いに仕事の話ばかりで終わってしまった。
店を出て、夜道をゆっくりと歩く。
ファットガムの脳内では、マネルが口煩く注意してくる。
『ファット、何怖気付いてはるんです? 男ならガツンと言ってくださいよ。情けないですね』
あーもう、お前は俺のオカンか。
『サイドキックですよ』
ファットガムは、ふふっと笑って、足を止めた。
「どうしたの? 気分でも悪くなった?」
くるりと振り返った夏季は、心配そうに傍に寄ってきたが、ファットガムの真剣な瞳を見て、ピタリと足を止める。
「……俺、夏季が人質にされたって聞いたとき、怒りで何も考えられへんくなった。夏季を失ったらどないしよ、って不安になってん」
溜めていた想いを、一度口に出せば、後は流れるように言葉が溢れてくる。
「夏季を助けたい。それしか考えられへんかった。夏季はな、強いで。俺なんかが守る必要なんかあらへんくらい」
「そんなことないよ……」
あたしは、誰よりも弱い人間だ。
そんな言葉を遮るように、ファットガムは言う。
「せやけど、俺は夏季を守りたい。危ない目に合ってたら、すぐに駆けつけて加勢したい」
ここで、夏季は交戦しているという前提は如何なるものなのか。
「俺の仕事は、AXの取り締まりを手伝うことやった。でも、東堂組が解体された今、俺の仕事は終わり。もう夏季と一緒に仕事することはないと思う。でも……」
さあ、言え。
ファットガムは、ぎゅっと拳を握った。
「俺は、この仕事が終わっても、夏季を守らせてもらえる権利が欲しいねん」
熱い視線に、夏季は頭の中がぐるぐるして、言葉がまとまらない。
「あたしは……、強くなんかないし、向こう見ずで、一人で突っ走るし、可愛げなんかないし……。何より、あなたが守るほどの大層な人間じゃない。ファットには、もっといい相手がいるはず……」
最後のは、完全に強がりだった。
それを見抜いたかのように、ファットガムは叫ぶ。
「誰がええ相手かなんて、そんなの俺が決めることや! 俺は、夏季がええ!! 夏季のそういうところ全部引っくるめて好きやねん!!!」
独占欲丸出しの告白。
「恥ずかしい人……」
プイと横を向くも、短い髪から覗く耳は真っ赤に染まっている。
これが酒のせいではないことは明らかだ。
「……なぁ、俺じゃアカン?」
うるうると、今にも泣きそうな瞳で見つめられる。
夏季の心臓が、キュウと音を立てた。
「ファットは、あたしの個性を凄いと言ってくれた。私の生き方を笑わないでくれた」
それにどれだけ救われたか、きっとあなたは知らないでしょう。
「……ひとつ、聞いてもいい?」
何? と、少し身構えるファットガム。
夏季は、いたずらっ子のような目で尋ねた。
「この先、救える命がひとつだけだとしたら、あたしと市民、どっちを救う?」
ファットガムは迷わず答える。
「夏季と一緒に、市民を救う!!」
ああ、この人は、ちゃんとあたしを分かってくれている。
夏季は、ファットガムに屈むよう促す。
目の前にある、ふわふわの髪の毛を梳いた。
「これからも、あたしと一緒に、この街を守ってくれる?」
「約束する! 俺の命は、この街と、夏季に捧げる!!」
本当は、夏季だけを守っていきたいが、それは夏季が許さない。
そういうところを含めて、夏季なのだ。
「約束、ですよ」
ファットガムは、その言葉に誓いを立てるように、夏季の唇にそっとキスをした。
fin.
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