真実は誰の手に
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個性登録のデータベースから弾き出された一人の人物。
モニターに映し出されたのは、とある男性。
名前は完全 マネル。
職業はヒーローサイドキック。
初出しではあるが、この名前、ファットガムのサイドキックの本名である。
「の、残りの個性登録を見ましょうか? 」
震えそうな声を抑えて、夏季も頷いた。
「そうですね。急いで、調べましょう」
しかし、絶望的な真実がすぐそこまで迫っていた。
「お前ら、新しい情報や」
荻野巡査部長が神妙な面持ちで、夏季たちのいる部屋に入ってきた。
「防犯カメラを調べてたら、妙なモンが見つかったんや」
持参してきたパソコンを立ち上げて、荻野巡査部長はなにやら操作をする。
ほら、と見せてきたのはファットガム事務所周辺の防犯カメラの映像だった。
「これ、ここのところよく見ときや」
彼が指さしたのは、事務所の斜向かいにあるビルの一角。
カメラのギリギリに映っているので少し見にくい。
あるところで、荻野巡査部長は映像を止める。
ビルの角から現れた人物を拡大して、夏季たちに見せた。
「これが誰か分かるか?」
夏季たちは画面に顔を近づけて目をこらす。
画素は荒いが、それがあるヒーローのコスチュームであることが分かった。
夏季の嫌な予感はどんどん膨れ上がる。
「ファットガムのサイドキック……ですよね?」
「あたり。せやけど、問題なんはこっちや」
荻野巡査部長は別の映像を映し出す。
それは、斜向かいのビルを別の角度から映したもののようだ。
「さっきのと同じ時間の映像やねんけど……」
斜向かいのビルとその後ろに建っているビルの隙間から、サイドキックが現れてファットガム事務所の方向へ歩いていく。
「……これのどこが問題なんですか?」
「まあ落ち着けって。本題はこっからや」
そう言ってまた別の映像を見せてくれた。
今度は2つの画面がモニター上に映し出される。
こちらはビルの反対側から撮っていたもののようだ。
「これはどっちも、あの路地に繋がる道を映してんねん……」
数秒間映像が流れる。
夏季は心霊写真を見たときのような表情になった。
「サイドキックが……いない……」
最後の単語はちゃんと声になっていただろうか。
夏季は身体の芯から冷えるような悪寒を感じた。
「それで、次はコイツに注目してほしい」
映像を巻き戻し、今度はファットガム事務所から出てきたひとりの少年を示した。
聡い夏季は、上司が言わんとしていることはすぐに理解したが、自分の目で確かめるまでは黙っておくことにした。
「コイツはこの路地に入るねんけど……」
3つ目の映像に切り替える。
「道に出てこーへん。……代わりに、サイドキックが現れるんや」
どういうことか、分かるな?
と、荻野巡査部長は疑問形のような肯定文で言った。
もちろん、夏季は分かっている。
「ファットガムのサイドキックが、その少年になっていて、ファットガムに罪を被せようとしている、可能性が高いですね」
少し言葉を柔らかくしてみたものの、事実は変わらない。
凍りついた空気が夏季の心臓を穿いたように、息が苦しくなった。
それでも、警察官の公私混同は許されない。
事実に対して公平であれ。
それだけは、彼らが曲げてはいけない絶対のルールだ。
「荻野巡査部長、これの裏付けとして、ご報告します。コピーの個性登録者を探していたところ、完全模倣の個性の持ち主を発見しました。本名は完全 マネル。……ファットガムのサイドキックです」
なるほどな、と荻野巡査部長は顎の下に手をやった。
「何らかの方法でファットの指紋を付けたAXを、子どもの姿のときに置くことで、自分に疑いがかけられへんようにしたってことか」
「ファットガム事務所には近隣住民が多く訪れますから、怪しまれることもないですしね」
感情を押し殺すように、フゥと荻野巡査部長が息を吐いた。
「弾、最速で逮捕状取ってこい」
「了解しました」
夏季は敬礼をして、立ち去る。
「難儀やなァ」
荻野巡査部長は誰に言うわけでもなく、呟いた。
裁判所へ走る夏季はずっと考えていた。
心を許したサイドキックに裏切られたことを知ったら、ファットガムはどう思うのだろうか。
彼が抱く感情は、悲しみか、怒りか。
その時あたしは、彼に何と言葉をかけたらいいのだろうか。
夏季は、己の無力さに唇を噛み締めた。