THE BOY MEETS GIRL
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ヴィランの前に立ちはだかるように歩み出たファットガム。
それに気づいた荻野巡査部長が拡声器を構える。
「おい、兄ちゃん。危ないから早う逃げな!」
「ご心配なく! 俺はファットガムです!」
とは言っても、明らかに見た目の違う姿に戸惑いを隠せない様子の荻野巡査部長。
ファットガムは仕方なくポケットからヒーロー免許証を取り出した。
「ほら、これで分かってくれはりました?」
「確かにファットの免許証やなァ。せやけど……」
ファットガムの手から免許証を受け取った荻野巡査部長は顔写真とファットガムを見比べる。
完全体には程遠いフォルム。
にらめっこするように見ていたが、飽きたように、ポイっと免許証を投げて返した。
「まあええわ。弾が一緒ってことは、ファットなんやろな」
判断基準が少々おかしいが、ファットガムであることを認めてくれた。
疑いが晴れたところで、ファットガムは拳を突き合わせた。
「ほな、警察の皆さんは下がっててください!」
しかし、今のファットガムは無個性にも近い状態だ。
一体どうやって戦うのだろうか。
「お前は、たかが引ったくりやと思ってやったんかもしれへんけどなぁ、これは立派な犯罪やで!!」
バキリボキリと指を鳴らす。
「ウオオオオ!!!」
雄たけびを上げて突進してきたヴィラン。
ドムン!!
ファットガムは中途半端な脂肪にヴィランを沈めた。
そのままズルズルと押されていくのを、必死に踏ん張る。
しかし、このままでは近隣の建物に激突してしまう。
「俺は警察ほど優しくあらへんからな!!」
ファットガムは脂肪に沈みきらなかった胴体にパンチを食らわせた。
「グボェ!!?」
何発も、何発も、何発も。
ヴィランの無防備な体に拳を叩きこんだ。
逃げようともがいても、ファットガムの脂肪からは自力で抜け出すことはできない。
次第にヴィランの体から力が抜けていく。
同時に巨大化の個性も解けたようだ。
ぴくぴくと体を痙攣させている。
「ちょっと、ファット! 殺してないでしょうね!」
あまりのタコ殴りっぷりに、夏季はむしろファットガムを咎めるような表情で言った。
「だ、大丈夫やで……、たぶん」
「これのどこが大丈夫に見えるの!? やりすぎよ!」
しばらく夏季のお説教が始まる。
前言撤回。
警察の中でも夏季だけは怖いわ。
心の中でそう思うファットガムであった。
動かなくなったヴィランを警察に引き渡したところで、
「いやー、協力ご苦労さん! 助かったわ!」
荻野巡査部長がにこやかに手を振りながらやって来た。
「お疲れさんです! お役に立ててよかったです」
「まさかファットがおるとは思わへんかったわ」
「俺も事件に遭遇するとは思ってませんでしたよ」
荻野巡査部長はキョロキョロと辺りを見回した。
「あれ、弾はどこ行った?」
「夏季ならさっきまでここに……あれ?」
同じようにキョロキョロと夏季の姿を探す。
と、コソコソと野次馬に身を隠そうとする黄色いスカートを見つけた。
「あ、おーい夏季! 何で逃げるん!?」
「いや、ちょっと……」
「弾。そんなに俺に合うのが嫌やったんか?」
ニヤニヤと近寄ってくる荻野巡査部長は、なぜ夏季が逃げようとしているのか気づいている。
「まあ、嫌じゃないと言ったら嘘になります」
「ホンマそういうとこやで」
荻野巡査部長はやれやれとため息をついた。
「ま、今日の働きに免じて、この格好のことはあいつらに黙っといてやるわ」
ガハハハと笑う上司に、あなたも本当そういうとこですよ、と言い返したくなるのを堪えた。
「ほな、デートの邪魔して悪かったな。あとは若いモンで楽しみや!」
荻野巡査部長は、どこぞの仲人のようなセリフを残して、未だ気絶しているヴィランを連行してパトカーに乗り込んだ。
「もう、ほんとあの人は……!!」
赤くなった顔を隠すように、パトカーに向かって叫んだ夏季。
その後ろから見ていたファットガムがボヤいた。
「この姿は、俺だけが知ってたかったわぁ」
ファットもファットで、なんでそんなこと簡単に言えるのよ!
行き場のない、何に対してなのかも分からない怒りを発散させるように、
「ケーキバイキング、行くよ!!!」
「おう!」
今度は、夏季がお店に向かってずんずんと歩き始めた。
──その日のネットニュースは、大盛り上がりだった。
ファットガムの不完全体、通称“ローファット”が取り上げられるとともに、夏季に説教される姿が載ったとか。
その上、ファットガムの白昼堂々のデートが取り上げられたりとか。
夏季にはモザイクがかけられているが、見る人が見れば夏季と分かるだろう。
つまり、夏季の隠してきた趣味嗜好が、全国的に知れ渡ってしまったのだ。
実際知られて困るのは同僚たちに対してだが。
それでも、これを見た夏季が、白目を向いて卒倒しかけたのは言うまでもない。