潜入捜査開始!
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通勤ラッシュは通りすぎた平日の午前中、時間通りに電車は到着した。
しかし快速列車ということもあってか、電車はそれなりに混んでいて、ふたりは入口付近に立っておくことにした。
「すみません、座れなくて。ここから10分程度で着きますので……」
申し訳なさそうな顔で、夏季は腕時計を確認した。
「いやいや、こんくらい大丈夫やって」
ファットガムは吊革も持たずにヘラっと笑う。
伊達に鍛えている訳では無い。
少々の電車移動など、日々の書類仕事より簡単である。
そのはずなのだが。
ガタン!!
線路の繋ぎ目で一際大きく車体が揺れた。
乗客も同じように大きくふらついた。
夏季は咄嗟にドア横の手すりを持ち、ファットガムは突っ張るようにドアに手をついた。
──いわゆる、壁ドンの構図である。
「おお、すまん……」
「いえ……大丈夫です」
男のような見た目である自覚はあるが、女子の憧れるシチュエーションにトキめかないわけではない。
翳って見えるファットガムの顔は、夏季をドギマギさせるのには十分だった。
仕事に余計な感情は持ち込まないようにしているのだが、これは反則甚だしい。
夏季はふうっと小さく深呼吸した。
「……あの、多分ですけど、このままだと変な誤解されますよ?」
ただでさえボーイッシュな夏季が、男装しているのだ。
ある1部の女子には大層オイシイ状況になっていることだろう。
「あ、ああ。ほんまやな!」
[#dn=1#k]に言われ、バッと両手を吊革にかけたファットガム。
彼は彼で、気恥ずかしさを紛らわすためか、いつもより大きな声になっている。
そうして電車に揺られること10分。
目的の駅に着いた。
北口を出て左に曲がり、ビル街の通りを歩いて行く。
徐々にビルの背は低くなっていき、比例するように辺りは薄暗くなっていった。
「最終確認です。今回の任務はAX所持の証拠だけ。戦闘はできるだけ避けてください。……いいか、豊満?」
最後のセリフは完全に男の声。
突然役に入り込まれて少々面食らったが、
「おう! 任しとき弾!」
と、勢いよく夏季の背中を叩いた。
その力強さに身体がぶっ飛ばされそうになったのは、言うまでもない。
同じようなビルが立ち並ぶ中で、頭上に掲げられた看板を頼りに目的の事務所へやってきた。
「ここですね」
夏季は隣に立つファットガムを見上げる。
「最悪の場合は、自分の身を一番に考えてください」
「夏季こそ、無茶すなよ」
ごつん、とふたりは拳を突き合わせた。
階段を上がり、「●●組」と荒々しい字で書かれた紙が貼り付けられたドアの前に立つ。
ドンドンと荒っぽくノックをして、夏季は一気に扉を開いた。
「こんにちはァ!!!」
こちらは警察だ! とでも言いそうな勢いに、ファットガムはひとり心臓を跳ねさせる。
この度胸はどこから来るのだろうか。
事務所にいた人々は、カチコミかと思い鋭い目を向ける。
「なんじゃいワレぇ!!? ここがどこか分かっとんのか!!!」
いかにも! な男たちが鬼の形相で夏季に大股で寄ってきた。
しかし、そんなものに怯むような夏季ではない。
「初めまして! 弾と言います! この組に入らせてください!!」
挨拶! と夏季に足を踏まれ、ファットガムも頭を下げた。
「初めまして! 豊満です! お願いします!!」
夏季と同じように大声で挨拶したのだが、なんせファットガムは地声がデカい。
「うっさいねん!!!」
と、拳を振り上げた男。
「お前、デカいなァ! 叩きにくいやろ! 屈め!!」
よく分からない難癖だが、素直に従うファットガム。
初対面にも関わらず頭を叩かれる。
少しは気が落ち着いたのか、男は脇にあるソファーにどかりと腰を下ろした。
「まあ、話だけなら聞いてやらへんこともない」
男は、夏季とファットガムに上から下まで視線を滑らせた。
「お前らを雇うメリットは?」
「強いです!」
夏季が即答した。
「そんなふわっとした理由はいらへんねん!!」
男は目の前のテーブルを蹴り上げた。
何故なのだろう。
ファットガムには分かってしまった。
次に彼女が何を言い出すか。
「じゃあ、今からここにいる人達全員倒してみせます!!」
殺気が事務所中に蔓延した。
夏季の挑戦的な発言を聞いて、組員たちが全員立ち上がった。
「おい、坊主。今ならまだ間に合うんやで。俺が間違ってましたって」
男たちはバキリボキリと指を鳴らす。
「間違ってないんで大丈夫です!」
またもや即答する夏季に、ファットガムが耳打ちした。
「こんなに煽っといて、ホンマに大丈夫なん?」
「だって、事実じゃん」
しれっと言ってのける夏季。
ファットガムも腹を括った。
せやな。夏季はこういうやつや。
「お手柔らかに、頼みますよ」
ニヤリと口角を上げるのを合図に、大乱闘が始まった。
夏季は飛んでくる拳をかわす、かわす。
そしてカウンターの右ストレートを顎に1発。
ファットガムは力に任せた大振りを右、左。
そして回し蹴りで周囲の相手をなぎ倒す。
劣勢になると組員たちは、武器を持ち出した。
「オトナ舐めたらアカンで!!」
ビュっとナイフが空を裂く。
折り畳み式の小型ナイフだが、切れ味抜群のようだ。
「こう見えて俺たち成人してるんですよ」
しかし夏季は、難なく相手のナイフを叩き落として、背負い投げ。
「もうそろそろ実力分かってくれたんとちゃいます?」
ファットガムのパンチは見事に相手の顔面にクリーンヒットした。
そして残るは、最初に話していた男だけになった。
夏季とファットガムは半身になって背中を合わせる。
「どうします? 止めます?」
夏季はまだまだやる気である。
しかし男はやはり、大人であった。
「止めや止め! こんな不毛な戦い出来るかっちゅーねん。ったく、こんなに伸してもーて。……認めるほかあらへんがな」
「ありがとうございます!!」
ふたりは声を揃えて礼を述べた。
まずは、第一関門突破である。