潜入捜査開始!
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ファットさんがコミットさんとなった翌日。
「お疲れさまです! ファットガムはいますか!?」
まるで道場破りにでも来たかのような勢いで、夏季が事務所に入ってきた。
ファットガムはたこ焼きを食べる手を止めて立ち上がり、ソファーに座るよう促した。
「どないしたん? 連絡もせーへんで来るの珍しいやん」
縦の大きさは変わらなくとも、横幅は大きく減ってしまったファットガム。
丸みもなくなってしまい、可愛さよりも力強さが目立つ姿に、夏季は緊張気味になる。
「すみません。急用でしたので」
ガサゴソと持参した紙袋を漁って中のものを取り出した。
「今から、私と潜入捜査です」
テーブルの上に置かれたのは、スーツ一式。
中のワイシャツは白ではなく、ド派手な柄物だ。
ファットガムは手に取って広げてみた。
「……なんでサイズ合ってんねん」
この姿のスリーサイズは公表していないはずだ。
警察の諜報力にむしろ恐怖を覚えていると、
「あ、それ俺が教えました」
横からサイドキックが口を挟んだ。
「いやん、えっち」
ボケるファットガムをスルーして、
「以前から“AX”の転売ヤーとしてマークしていた組があるんですが、中々現場を抑えられないので、今回潜入捜査で証拠を掴んでこい、との話になりました」
相変わらず、夏季は淡々と手短に任務内容を説明する。
「今のファットガムの姿なら、素性がバレるはずが無い、ということで荻野巡査部長からの命令です」
「いやー、協力せなアカンことは分かってんねんけど……、今の俺は捕り物に弱いで?」
自分で言っておいてだが少々悔しい。
悔しさを紛らわすために、ファットガムは頬をかいた。
しかし、夏季は気にすることなく答えた。
「大丈夫ですよ。今回は取り扱いの現場だけ確認できれば良いので」
使えないことを前提にされているのも少し悲しいのであった。
「思ってんけど、警察って潜入捜査してもええのん?」
頭の上にクエスチョンマークを浮かべるファットガム。
ああ、と夏季は笑った。
「私たち麻薬取り締まり班だけは例外的に認められているんです」
「なーるほど」
ポンと手を叩く。
と、ここでファットガムは夏季の言葉を思い出した。
“私と潜入捜査です”
「今は女の人も暴力団におるんやな〜」
そんな物騒なとこにわざわざおらんでも、と考えていると、
「どういうことですか?」
夏季は真剣な顔で聞き返してきた。
「だって、潜入捜査やろ? 夏季が潜入できるってことは、暴力団にも女性がおるから……」
やんな? と最後までは言えなかった。
ファットガムは気づいてしまったのだ。
夏季の男前すぎる性格に。
「何言ってるんですか」
案の定、夏季は不敵に笑ってみせた。
「私も、男として潜入するに決まってるじゃないですか」
そうして短い髪をサラリとかき上げる。
「いやいやいや、無理やろ!!?」
「でも、現に分からなかった人いますしねぇ?」
いたずらっ子のような目で見られて、ファットガムは夏季と初めて出会ったときのことを思い出す。
確かに、自分は夏季を男と間違えたのだ。
これほど説得力がある話はそうそうない。
「それはホンマにごめんやで……」
「まあ、そんなことより。早く着替えましょう。細々な説明は移動中にしますので」
と、警察官を象徴する黒のベストを脱ぎ始めた夏季をファットガムが慌てて止める。
「え、夏季もここで着替えるん!? ちょ、それはホンマにアカンって!!」
顔を逸らし手をワタワタと振る姿に、夏季は盛大に吹き出した。
「人を痴女みたいに言わないでよ! このシャツの上に羽織るだけだから大丈夫!」
うっかり素が出てしまっているが、夏季は気づいていない。
黒いベストの下は青色のシャツだ。
そこに、持参した黒のスーツジャケットを着る。
「ファットこそ、早く着替えてきてくださいよ」
夏季に尻を叩かれて、慌てて社長室に駆け込むのであった。
5分ほどして。
「着替えたで〜」
ひょこっと、社長室から顔を出したファットガム。
「おお〜、似合ってますよ」
「ほんま? 俺あんま柄シャツとか着ぃへんから不安やってん」
へへっと、照れくさそうに柄シャツの襟を触る。
「これなら、あなたがファットガムって思われることはなさそうですね」
行きましょうか、と夏季は事務所の外へ向かった。
暴力団の事務所へは電車で行くとのことだ。
最寄り駅への道中、夏季は今回の任務の詳細を説明し始めた。
「いいですか。私とファットは無個性がゆえにグレて道を踏み外した青年で、ヒーローの監視が厳しくなり、少数では動くのが厳しくなったので組へ入りたくて来たという設定です」
「ほお」
「名前ですが、私のことは名字だけで呼んでください。ファットはどうしますか? 偽名使いますか?」
「いや、俺も本名でええよ。公開してないし」
「分かりました。じゃあ、任務中は豊満と呼ばせていただきますので、ご理解お願いします」
俺の本名覚えとったんやな、とファットガムは目を丸くしたが、夏季なら覚えているほうが納得がいく。
「おっけおっけー。ファットさんに任しとき!」
ドンと胸を叩いたファットガム。
夏季は鋭い目付きでファットガムを見上げた。
「もうダメじゃないですか!!」
「えっ、あ、ごめんて! もう癖になってもうてん」
「……気をつけてくださいよ。あ、後、私とファットは昔からの仲間という設定なので、タメ口で失礼します」
「それはええよ。てか、いっつもタメ口でもええんやで?」
「私、オンとオフはきっちりしたいタイプなので」
ファットガムの提案をバッサリと切り落とす夏季。
「相変わらずやな〜」
ファットガムは大きな口を開けて笑った。