日記
双葉コーヒブレイク(幸和小話)
2026/01/17 17:45小話
こんにちは、生徒会書記の、双葉了一だよ。僕のことは双葉ちゃんって呼んでね。
心のなかでナレーションをしながら、双葉は自販機のコーヒーのボタンを押していた。
双葉は缶コーヒーより、断然カップ派だ。会長の遠野なんかに言ったら、
「衛生的に云々」
だのなんだの言うんだけれど、あいつは図体のくせにみみっちいよねーと思う。
湯気の立つそれをぐび、と飲む。口の中が焼けそうに熱くなるが、死ぬほど眠いので、わざとだった。
「ぶっちゃけ、コーヒーって、鼻先に匂い感じるときに一番目覚めるよねー……」
独り言をぶつくさ言う。口を動かしていないと、眠りそうなのだ。はあ、と息をついて壁に凭れる。
疲れた〜……。もう今すぐ帰って寝てえよ。
「和希ちゃんがいたら、手伝ってもらうのに……」
「何をだ?」
大きく息をついて、がっくりと項垂れたとき、隣から声が降ってきた。
「げっ……」
「おつかれ、双葉」
会計の間地が立っていた。自分と同じく忙殺されているはずなのに、疲れを感じさせないはきはきとした様子で、自販機の前に立つ。
「かなり参ってるな。大丈夫か?」
「へいへい。何ともありませんよう」
「はは。何拗ねてんだよ。変なやつ」
……しんどいから話させるなっつうの。
自販機のコーヒーが注がれる時間が、こんなに長く感じることはない。
こいつがこんな手近でコーヒーブレイク済ませるということは、和希ちゃん――こいつの想い人は帰ってきてないんだろうな……。
双葉は「はあ〜」と何度目かのため息を付いた。
「もう、疲れた〜早く帰りたいよ〜」
「仕方ないだろー? 皆忙しいんだから」
「わかってるけどぉ」
この学園はお祭り騒ぎが大々々好きだ。
特に今年度は、創立100周年ってことで大々的に記念パーティをやるから、縦横の連携が本当に忙しい。OBも死ぬほど訪れるわ、OBとして出向かなきゃいけないわ。
っていうかなんでこんなにも僕たち生徒が持ち回るわけ、とは思うんだけど、これも校風ですから。
間地ががーっとコーヒーを傾けたかと思うとすぐにゴミ箱に放り込んだ。
「えっ、もう行くの?」
「ああ。仕事が残ってるからな」
「ふーん」
「お前も早く戻れよ。また風紀から書類きてたぞ」
「げーっ」
さっさと戻られて、僕はうなだれた。
あの野郎〜エナジードリンクみたいにコーヒー飲みやがって。絶対に見張りに来たな。
僕が、逃げたんじゃないかって〜!
「ナメんなくそっ」
ていうか風紀がきてたなら言えよ。絶対僕に会いに来てくれてただろ!?
恋人の姿を、双葉は思い浮かべる。双葉の恋人は風紀の幹部なのだ。互いに忙殺されてて会えないけど、こうして用事を見つけてはきてくれる。和希ちゃんなら絶対に引き留めておいてくれるのに。
「くっそ〜あいつ……! 自分は毎日会えるからって……」
ぬるくなったコーヒーをあおってゴミ箱に入れた。超まずい。
怒りで目が覚めた。頬を叩くと、すたすた歩いて風紀室に向かう。こうなったらひと目だけでも会ってから生徒会室に戻ってやる。
◇
「うっぜ〜〜……」
見事に空振りだった。
火照った気持ちの冷めやらなさから、ときおり壁を拳で叩きながら、双葉は生徒会室に戻っていた。
「んも〜……」
購買で、何か甘い物でも買っていこう。癒されないとやってられないよ。
寄り道に寄り道を重ね歩いていると、購買前で、見慣れた姿が。
「和希ちゃん」
「あっ双葉さん。お疲れ様です」
和希だった。
「応対おつかれ〜。どうだった?」
「概ね満足いただけたと思います。講演の時間をもう少し伸ばせないかと」
「ええ、これ以上〜?」
言いながら和希は、さっきまで飲んでいたエナジードリンクを、さりげなく隠している。白い顔は青ざめているし、疲れてるんだろうな。副会長ってこういうとき、忙しいから。
「双葉さんこそお疲れ様です。どうですか?」
「聞いてよ〜いつまで経っても終わんなくて、書類も増えるばっかだよ。泣きたい」
「でしたら、お手伝いしますよ。今日の仕事は終わりましたから」
「いいの!?」
「ええ」
「ありがと〜っ」
双葉は飛び上がって抱きつく。
「ちょっと待っててね。甘いの買ってくるから」
お礼も兼ねて、和希の分もお菓子を買う。仕方ないから遠野と間地の分も。
和希が手伝ってくれるなら百人力だ。これなら、間地も「和希のため」って自分を手伝ってくれるだろうし……早く終われば、会いに行けるかも。
「はい! 和希ちゃんの」
「いいんですか?」
「手伝ってもらうんだし、当然だよ〜」
和希は、口元をほころばせた。綺麗にかたどった笑みが柔らかくなる。
「さっ、いこ〜職務怠慢ってリコールされちゃう」
「ふふ、そうですね」
和希の腕を組んで、双葉は歩き出したのだった。
《完》