ケーキの向こうのお前が泣いた

別れを切り出したら、逆に向こうから綺麗に終わられた。
どんなに最悪な気持ちでも、朝はやってくる。日常も待ってくれない。
熱っぽい顔をどうにか宥めて、受けは学校に向かう。
攻めが有名なため、注目というほどではないのだが、攻めとの寮で起こした騒ぎは学校で話題に上っていたらしい。
「ただならない様子だった」とじわっと受けを取り巻く気配がざわついてる。
「昨日、大丈夫だった?」と好奇の目で聞かれる。居心地が悪くて廊下に出ていたら、「大丈夫か」と声をかけられた。
中等部のとき一番仲良かった奴だった。高等部に上がってクラスが分かれてからは、「それぞれ別のグループでがんばろう」と互いの今の友人関係を大切にしてきて、攻めと付き合ってからもいい距離感で付き合えてた貴重な友達だ。
友達の自分への気遣いが身に染みる受け、友達から「微妙にうわさになってる」と改めて聞く。困ったことになったな、と滅入る受け。ただでさえ振られて傷心なのにと思って、「振られたんだな」と実感。
だったら関係ないか。と心配してくれる友達に「いろいろあって、友達やめただけ」と嘘を貫くことにした。
「なんかあったら話せよ」と受けの肩を叩いて言うので「ありがとう」と笑った。
友達とこうしてふざけるのも、久しぶりだった。
始業ぎりぎりに、攻めが教室に入ってきた。こっちを見た気がするけど、気のせいだと思った。

「受け」

授業が終わると、攻めがやってきた。

「昨日のことなんだけど」

と言い出すので、受けはカッとなって席を立った。

「待ってよ」

と追ってくるが、受けは「もう終わった話だから」と突っぱねた。

「終わってない!」

と、攻めが手をつかんでくる。クラスのみんなが、さりげなくこちらを意識しているのがわかる。受けは、努めて落ち着いた風に、

「終わったろ。もう話しかけないでくれ」

とだけ言った。攻めがすごく傷ついた顔をしたけど、見たくなかった。もう、心を揺らされたくなかった。
そっちだけ綺麗に終わらせたくせに、なんで言いつのるんだ。幼馴染が「攻め」とやってきたので、逃げた。



それから受けは、攻めとのことを聞かれるたびに、「ケンカして友達やめただけ」と言った。攻めがずっと言いつのってくるけど、無視した。正直、意味がわからなかった。

「受け、話聞いてよ!俺、まだ納得してない」
「だから、話すことなんかないって」
「受け――」
「おーい、何してんの?」

攻めに腕を掴まれて、逃げられないでいると、友達がやってきた。受けが友達の名前を呼ぶと、攻めが目を見開く。

「誰、こいつ」

攻めの声がうつろになる。怖い空気に、思わず固まったところ、友達の明るい声が割って入った。

「ども。受け、飯食いに行こうぜ」

そう言って、友達が引き離してくれた。攻めは呆然と固まっていた。

「悪い。なんか困ってるなって思ったから割って入ったけど」
「ありがとう。助かった」

受けは、友達のグループに入ることになった。皆知った仲だし、攻めの防波堤になってくれていた。

「受けさん、ひどいよ」

幼馴染にすごい剣幕で怒られた。

「攻めのこと、なんでもない風に言って、自分だけ楽しそうにして。攻めがどれだけ傷ついてるか、わかってる?」

腹が立ったけど、立ちすぎると、逆に落ち着くみたいだった。ただじわっと痛い。顔も見ないで「さあ」と言った。

「俺にはもう関係ないから」
「――最低。その程度の気持ちだったの?受けさんを信じて攻めを任せたのに」

軽蔑したみたいに言われて、なら皆にどう言えばいいんだと思った。自分たちの関係を知っているのは幼馴染だけだ。攻めが勝手に話したから。
「攻めのために黙ってた方がいいかも」ってそのとき、幼馴染だって言ったのに。何だ、最初から間違ってたのかな。
すごく疲れて、離れようとするのに、くっついてくる。さすがにうんざりして、みじめな言葉が口を突いて出た。

「幼馴染くんが慰めてあげなよ。そしたら元気になるよ」

幼馴染が顔を真っ赤にしたとき、友達がやってきた。「受け」と引っ張っていってくれる。

「助かった」
「気にすんなよ」

肩を叩いて、友達が笑う。心底ありがたくて、友達たちに報いたいな、と思った。
どんなになっても日常がくることが辛かった。でも、今は新しい日常に守られてる。
攻めにそれをぶち壊されたのは、そのすぐ後のことだった。
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