ケーキの向こうのお前が泣いた
受けとは、高等部から仲良くなった。今までつるんできた友達とは毛色が違うのに、なんだか馬が合った。
始業式、後ろの席の受けと、気づいたら先生が来るまでずっと話してた。こんなに気が合う子も、一緒にいて楽しいと思った子も初めてだった。
攻めにとって今まで友達って言ったら、教室でだけの付き合いで、たまに遊んだとしてもたいてい二回続けばいい方だった。
向こうも当たり障りない付き合いでいい友達ばっかりだったし、攻めも求めたことはなかった。教室外でつるむなら、気の置けない幼馴染がいたし、気を遣ってまで遊ぶ意義を感じなかった。
けど、受けとは三回目があった。攻めも、「もっと受けと遊びたい」と思った。自分から誘ったのは初めてだった。
受けは喜怒哀楽がはっきりしてて、言葉の裏を読まなくて済んだ。言いたいことは言ってくれて、すぐに仲直りしてくれた。何も不安なんてなかった。
受けと一緒にいると楽しくて、すごく許されてる気がした。幼馴染に対する慣れた感じとは違う、安心がずっと胸にあった。
「攻め、最近スマホばっか見てるね」
幼馴染以外とは、面倒だったメッセージのやりとりなんてものも、楽しかった。受けはまめな性格で、いつもすぐに返事をくれたし、返事をしなくても一回怒って許してくれた。
「こんなに一緒にいて楽しい子ってはじめてだ」って幼馴染に話したら、幼馴染もすごく喜んでくれた。幼馴染をまじえて仲良くするようになった。
幼馴染が受けを気に入ってくれたのも、受けが自分たちの仲間に入ってくれたのも嬉しかった。
幼馴染は攻めにとって手のかかる弟みたいなものだから、受けが幼馴染を気にかけてくれると、いっそう受けと距離が近くなった気がしたのだった。
何か楽しいことがあったら、受けに話したいし、困ったことがあったら受けに聞きたかった。受けのことだけは、幼馴染に相談した。
受けに聞いてもよかったけど、なんだか気恥ずかしかった。幼馴染は甘えるのが好きだから、「受けさんばっかり」と結構な頻度ですねて大変だった。
くるくる、日常は楽しく回った。
ある日、受けに告白された。そんな風に考えたことはなかったけど、受けの真っ赤な顔に応えることに抵抗はなかった。
受けって俺のこと、好きなんだ。そう思ったら、信じられないくらい浮かれた。絶対に断るなんて考えられなかった。
付き合ってから、そんなに生活は変わらなかった。恋人っぽい何かを考えたけど、受けは何も言わなかったし、そういうものかって。
でもときどき、「俺たち付き合ってるんだから」と怒ってくるのは嬉しかった。友達のときにはなかった、甘い感じがあった。
ほんのちょっとでも、恋人を意識したことをすると、すごく楽しくて。受けも、見たことない顔で笑ってくれた。
楽しかった。ずっと、こんな日が続けばいいって。
続くって当たり前みたいに思ってた。
けど。
「受け……」
受けは、今、攻めのもとから消えた。「お前が大嫌いだ」って、泣きながら去っていった。
何もかも、信じられなかった。信じられるわけがなかった。何もかも、夢なんだ。目をつむって、痛みに耐える。
受けがいなくなることなんてありえない。だって。
――こんなに楽しかったことしか、思い出せないのに。
始業式、後ろの席の受けと、気づいたら先生が来るまでずっと話してた。こんなに気が合う子も、一緒にいて楽しいと思った子も初めてだった。
攻めにとって今まで友達って言ったら、教室でだけの付き合いで、たまに遊んだとしてもたいてい二回続けばいい方だった。
向こうも当たり障りない付き合いでいい友達ばっかりだったし、攻めも求めたことはなかった。教室外でつるむなら、気の置けない幼馴染がいたし、気を遣ってまで遊ぶ意義を感じなかった。
けど、受けとは三回目があった。攻めも、「もっと受けと遊びたい」と思った。自分から誘ったのは初めてだった。
受けは喜怒哀楽がはっきりしてて、言葉の裏を読まなくて済んだ。言いたいことは言ってくれて、すぐに仲直りしてくれた。何も不安なんてなかった。
受けと一緒にいると楽しくて、すごく許されてる気がした。幼馴染に対する慣れた感じとは違う、安心がずっと胸にあった。
「攻め、最近スマホばっか見てるね」
幼馴染以外とは、面倒だったメッセージのやりとりなんてものも、楽しかった。受けはまめな性格で、いつもすぐに返事をくれたし、返事をしなくても一回怒って許してくれた。
「こんなに一緒にいて楽しい子ってはじめてだ」って幼馴染に話したら、幼馴染もすごく喜んでくれた。幼馴染をまじえて仲良くするようになった。
幼馴染が受けを気に入ってくれたのも、受けが自分たちの仲間に入ってくれたのも嬉しかった。
幼馴染は攻めにとって手のかかる弟みたいなものだから、受けが幼馴染を気にかけてくれると、いっそう受けと距離が近くなった気がしたのだった。
何か楽しいことがあったら、受けに話したいし、困ったことがあったら受けに聞きたかった。受けのことだけは、幼馴染に相談した。
受けに聞いてもよかったけど、なんだか気恥ずかしかった。幼馴染は甘えるのが好きだから、「受けさんばっかり」と結構な頻度ですねて大変だった。
くるくる、日常は楽しく回った。
ある日、受けに告白された。そんな風に考えたことはなかったけど、受けの真っ赤な顔に応えることに抵抗はなかった。
受けって俺のこと、好きなんだ。そう思ったら、信じられないくらい浮かれた。絶対に断るなんて考えられなかった。
付き合ってから、そんなに生活は変わらなかった。恋人っぽい何かを考えたけど、受けは何も言わなかったし、そういうものかって。
でもときどき、「俺たち付き合ってるんだから」と怒ってくるのは嬉しかった。友達のときにはなかった、甘い感じがあった。
ほんのちょっとでも、恋人を意識したことをすると、すごく楽しくて。受けも、見たことない顔で笑ってくれた。
楽しかった。ずっと、こんな日が続けばいいって。
続くって当たり前みたいに思ってた。
けど。
「受け……」
受けは、今、攻めのもとから消えた。「お前が大嫌いだ」って、泣きながら去っていった。
何もかも、信じられなかった。信じられるわけがなかった。何もかも、夢なんだ。目をつむって、痛みに耐える。
受けがいなくなることなんてありえない。だって。
――こんなに楽しかったことしか、思い出せないのに。