のちに恋人になる二人
だらだら喋りながら、受けはドーナツを頬張る。攻めはだらっと返してくれるので話しやすかった。攻めが尋ねてくる。
「それうまい?」
「思とったより濃い。ちょっと食う?」
「うん」
半分割って差し出してやると、「そんなええよ」とちょっと驚かれた。
「ええて。ある程度食べな味わからんやろ」
「そうか? ならもらうけど」
紙を手に取り、攻めはドーナツを受け取る。紙でつつむ男はじめてみたわ、と思いつつ、綺麗にドーナツを食べる攻めを見る。アイスコーヒーを口に含んだ。
「確かに甘いな」
「やろ」
「まあ、勉強の時にはちょうどええんちゃう」
「それ用やったんか」
「それ用ではないやろ」
攻めが笑うので、受けも笑った。攻めは、コーヒーを差し出した。
「飲み」
「ええん?」
「甘いやろし、虫歯なるやろ」
いや、あとで飲むし、ならんけど。と思うが気遣いがありがたい。冷たいそれを受け取る。
「ありがとうなあ」
「がっといってええで。お礼やから」
笑う攻めに、受けも「ほな」と飲む。
「めっちゃうま。ありがと」
「ほんまにいくなあ」
笑いながら攻めが受け取る。
攻めが、ラーメンを食べるのを再開したのを見て、受けもまた、ドーナツをかじりだす。
「なんか不思議やなあ」
「なにが?」
「いや、おれら今まで話したことなかったやん?」
「せやな」
「けど、同じ路線で毎日毎日顔合わしとったやん。なんか他人の気せんかったんよ」
攻めを見る。攻めも、受けをじっと見ていた。
「それが今、話しとるで、めっちゃ変な感じ」
言ってから、受けは、ちょっと距離感ミスしたなと思った。攻めは、目を伏せて頷いた。
「わかるかもしれん」
「あっほんま?」
「俺も、受けくんは初めて話すんと違う気するわ」
その言葉のトーンが自分と同じくらいウェットで、受けはホッとする。思いの外のってくれたな。
「それでかな、いま楽しいわ」
「ほんま?」
「うん。めっちゃ話しやすい」
「おれもそう。けっこう人見知りやねんで」
「わかる気するわ」
受けと攻めは、笑う。たがいに少し、前に寄っていた。
それから、受けは攻めといろんなことを話した。
ドーナツ屋に、大きな時計がなければ、電車をまたのがしていたかもしれない。
電車に乗っているときも、二人は話を弾ませた。
まだ話足りない、というところで、受けの最寄り駅についてしまった。
「ほな」
「また明日な」
攻めが、当たり前みたいに言った挨拶に、受けは破顔する。このときだけの楽しさだけじゃないって、なんとなくわかったから。
受けは過ぎてく電車に手をふる。
明日顔合わせたら、「おはよう」って、言おう。
それが何だか、嬉しかった。
《完》
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