ツイノベ集


「だって俺、空飛んじゃうんだよね」

意味わからんことを言われて、あんぐりする受け。ちなみに喧嘩中で、浮気した攻めの胸ぐら掴んで、拳振り上げた瞬間だった。

「……は?」

受けがつい聞き返してしまったのをいいことに、軽く上げていた両手を下ろして、ぺらぺらしゃべってくる攻め。

「子供の頃に発症したんだけど。風船みたいに飛んでってさ。NASAが今でも俺を研究しようとしてやってきてる」
「あのさ、嘘つくならもう少しマシなのついてくれん?」

怒りたいのに、こんな時にこんなアホな嘘をつく攻めにもつかれる自分にも情けなくなり、震える受け。
しかし、これは実際にある事例だったのだ。
攻めは小学校の帰り道、ひとり飛んでいった恐怖から、一人でいることを極度に恐れるようになった。
なので、登下校は絶対に一人ではいや。そういうことらしい。

「じゃあ、同級生さんとは何ともねーの?」
「ないし。ていうか、隣歩いてくれるなら誰でもいいんだわ」

滅茶苦茶最低だなこいつ。受けは脱力した。
まあ確かに、女の子と一緒に手繋いで帰ったくらいで騒いで悪かったかな。と言う気持ちになってきた。まあその女の子はどうあがいても攻めを好きだし、自分がやめてくれと言ったのに10回目の事だとしてもだ。

「傷つけてごめんな。でも、本当に、怖いし。馬鹿じゃねーのって受けに言われるのはキツくて言えなかった」

そう言ってしゅんとされると痛む良心だ。何もないときに言われたら、言わない自信がない。
それでこいつ、俺が放課後部活居残りするの嫌がるのか、というか俺も勝手だったかな……と反省する受け。
手、繋ぐのは、自分にとっては結構特別で、ショックだったけど。

「悪かったよ。ひとりで抱え込んでたんだな」

受けが攻めの手を握る。攻めは「受け」と感激する。

「でもさ、あの子はやめてくれよ。お前のこと好きなんだしさ」
「でも、俺に気のない子に手繋いでとか頼むと、結構引かれるし……」

だから、気のあるやっとやるってか!?やっぱこいつやべーぞ、と引く受け。
悩んだ末に「わかった」と言う。

「部活、やめるわ。一緒に帰ろう」

ものすごく後ろ髪は引かれるけど、仕方ない。こいつが大気圏まで飛んでいったときの俺の顔を想像すると、こっちのほうが正しい選択とわかる。

「そんなことしてほしいわけじゃないよ」

としぶる攻めに、「2人のことだろ」と言う受け。

「お前とずっとやってきたいから、手つなごうぜ」

そう言って、手を差し出した受けに、攻めは抱きついた。

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