ケーキの向こうのお前が泣いた

今日は攻めの誕生日。
さっきまで一緒に祝ってた幼馴染を送っていった攻めを待つ。
喧騒が残る散らかったテーブルに、頬杖ついた手が冷たい。もう冬が来ていて、外に雪がちらついてる。
冬生まれって、なんとなく攻めらしくて好きだ。じっと手をつないできたっけ。
そんなことを考えてたら、攻めが帰ってきた。
「ただいま」なんてさ。そっちを見て「おかえり」って笑う受け。

「あいつずっとごねて、困った」

って笑って言って、隣に座ってくっついてきた。
その少し冷えた温かさに、一度だけもたれる受け。肩を抱き寄せられたけど、そっと身を離す。
待ってる間に、持ってきてたケーキを、小さな冷蔵庫から取り出す。
喜ぶ攻めに、「待ってて」って、ろうそくの準備をして、カーテンを閉めた。
ふたり、向かい合って座りなおす。薄暗がりに、攻めの顔がふわりと照らされて、浮かんでる。泣きたいくらいきれいで、受けは笑った。
「誕生日おめでとう」と言うと、「ありがとう」と、幸せそうに笑う。
ずっとこうしてたい。けど、もう駄目だから。

「別れよう」

受けはひとこと、そう告げた。
攻めは、何を言われたか、わからないみたいだった。え、とつぶやいて受けを見る。

「攻めのこと、全部いやになった。だから別れよう」

テーブルの下、固く手を握り合わせて、笑顔で言った。言えた。攻め、目を見開いたまま固まってる。こんな時さえ、好ましかった。
こんな振り方してごめん。
でも、こうでもしないと、俺は、お前と付き合ってた恋人AかBになっちゃうんだ。
「もっといい人いるよ」って幼馴染くんがなぐさめてくれたら終わっちゃうみたいな。そんなのは嫌だ。
せめて、お前の中に、何か残りたいよ。
ケーキ見るたびに、俺のこと「そういや誕生日に振ってきた最悪なやつがいたなあ」って思い出して。
そんなのも、過ぎた願望かもしれないけど。
受け、「じゃあ」って立ち上がろうとする。

「いやだ」

攻めの声。受けの動きが止まる。テーブルにのった攻めの手が、震えている。かたかたテーブルが揺れるくらいで、思わず攻めを見た。

「別れたくない。絶対にいやだ」

攻めが、目を見開いたまま、泣いてた。いつも笑ってる攻めの泣き顔なんて見たことなくて、固まる。そしたら、手を取られた。

「絶対やだ。別れたくない。いやだ」

痛いくらいの力で手首をつかんで言う。そんなことされたことなかった。

「離して」
「いやだ。絶対離さない」

攻めの目から、ろうそくの光の揺れる涙が、あとからあとから落ちる。受けは、どうしようもなくなった。
今、いろいろ別れる理由をつけることはできる。けど、それじゃ、意味がないんだよ。
なんで、最後にこんなことするんだろ。なんで、最後くらい、思い通りにさせてくれないんだろ。

「……受け」

結局、受けは泣いてしまった。攻めの手が、思わず緩む。
その隙に、手を振り払って。

「お前なんか、大嫌いだ」
「受け!」

受けは、部屋を後にした。
部屋に帰って、むちゃくちゃ泣いた。ドアを何度も叩かれたけど、連絡もずっと来てたけど。
全部無視して泣き続けた。ずっと、大好きだった。攻めの特別になりたかった。
だから、さよなら。
雪はずっと振り続けていた。

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