お前と向かい合う夏


 そして、高校三年。
 攻めと受けは向き合っていた。
 何の因果かまた同じクラスで、教科係になって一緒に行動することになったのだ。
 もう、受けと攻めが一緒にいても不思議がる人はいなかった。
 とんでもない喧嘩別れをした関係だけど、まあ仕方ない。

「ノート俺集めて持って行くから、次の準備頼める?」
「わかった」

 話すと、思いの外、普通に返ってきたので、受けは驚いた。攻めは静かな調子で、受けに接する。
 攻めは、ちょっと雰囲気が変わってた。女子からの人気は相変わらずだったけど、前みたいにたくさんの人とつるんでなくて、一人で過ごすことが多いみたいだった。ちょっと影のある様子で、本を読んでる。
 ちょっと思うところがあったが、まあ自意識過剰か、と思い直した。

「受けーまだ?」
「悪い、先食べてて!」

 友達に声をかけられ受けは返す。攻めはそんな受けのことを、じっと見てた。怒りとも、何とも言えない表情で。

「楽しい?」

 攻めがぽつりと呟いた。受けが振り返る。受けの顔を見て、攻めは笑った。

「楽しいんだね」
「攻めくん」
「よかった」

 受けは見上げる。影のある目は、何を思っているかわからない。受けは、少し思案した。流したほうがいい。
 でも、これが最後の機会だろう。

「俺、謝らないよ」

 攻めが怪訝な表情を浮かべる。今にして思えば、言い過ぎたかもしれないけど。

「本心だし、撤回しない」
「受けくん」
「友達と思ってたよ」

 じゃ、と去ろうとして攻めに肩を掴まれる。

「待ってよ。自分だけ、被害者面しないでよ」

 つらそうな顔で、受けを睨んだ。

「あんな風に言われて、俺がどんな気持ちで……」

 それ以降は言葉にならなかった。受けは、しばし黙って、攻めを見上げた。

「そっか」

 色々思うことはある。それに、こういうことを話すのは、本当は自分じゃないかもしれない。ここでさよならが正しいだろう。
 けど、まあ、とりあえず。これが最後の機会かもしれないなら。どんな形でもいい。終わりをもう少しだけ伸ばしたいと思った。

「お前の話を聞かせてよ」

 攻めの見開いた目を、受けは見つめ返した。

「俺の話も聞いてほしい」

 この関係が、本当に終わるとしても。
 まだお前が、俺に話したいことがあるとするなら。全部聞いて、話してからにしよう。
 夏が、近づいていた。

 《完》
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