お前と向かい合う夏


「攻めくん、俺のことすごい好きなんだね」
「えっ、それは、まあ……」

 その目が、ほんの少し揺れたのがわかった。無自覚の揺れだ。

「なら、放課後以外も一緒に話そうよ」
「えっ……」

 受けは逃がすまいと見据える。攻めは困った顔で、受けを見返した。

「前も言ったけど、俺、受けくんのこと独り占めしたいんだ」
「うん」
「受けくんは俺の聖域だから」

 受けは頷いた。

「なら俺だけいればよくない?」
「え?」
「俺が一番大事なら、俺とつるんだら良くない?」
「それは、だから……」
「向こうのほうが友達なんでしょ」
「違うよ! 俺は……!」

 攻めが声を荒げる。

「どうして今日はそんな意地悪ばかり言うの!?俺に友達なんていない! 皆うわべだけで……! 受けくんだけが友達で……! 受けくんなら、俺のことわかってくれると思ってたのに……!」

 悲痛な叫びは本物だった。受けは笑った。笑いしか出なかった。

「まだ向こうのほうが大事な方がましだよ」

 受けは攻めを見つめた。

「攻めくんは、馬鹿にしてる人としか付き合えないんだね」

 攻めが目を見開いた。

「攻めくんが大好きなのは、自分の見栄だけじゃないか」

 攻めが息を呑み、綺麗な顔を歪めた――次の瞬間には頬を打たれていて、受けは歯を食いしばる。

「ふざけるな……! 俺は受けくんのこと好きだったのに……!」
「こっちのセリフだよ」
「ずっと気にかけてあげたのに! 誰より大事だって言ったのに……!」
「だからなんだよ!?お前がくれたもんなら何でもありがたがれってか! どんだけ偉いんだよ!」
「何でそんな考えしかできないの! 皆不満あっても、我慢して付き合ってるのに……! そんなんだから一人になるんだよ!?」
「いいよ、わかってくれるやつと付き合えれば! 大きなお世話だ!」
「ふざけんな……!」

 肩を引っ掴んできた。受けは退かなかった。強い目で睨み返す。

「こんな恩知らずで勝手だと思わなかった! お前みたいなやつ、誰が友達になるかよ! 皆、馬鹿にして、都合よく使ってるんだ!」
「そうだな、お前みたいにな!」

 その言葉に、攻めは息を飲んだ。伝わらないという悲しい顔をして、手を下ろす。

「違う、俺は、俺だけは、本当に……」
「わからないならいいよ。俺は向き合えるやつとつるむから」
「意味わからないよ、受けくんひがみっぽすぎるよ……!」
「そうだな。だからこれきりだ」
「――待ってよ!」

 去ろうとする受けの肩を、攻めが掴む。

「謝ってよ。俺、受けくんが言うような人間じゃない」
「はは」

 受けは笑った。手を外して返す。

「嫌だよ。そしたら、お前すっきりしちゃうもんな」
「な、」
「少しはムカついて、自分の人格見直せば」

 そう言って受けは、攻めとわかれた。

 受けは、件の彼の縁で、友達を作った。移動や弁当を友達と過ごすのは久しぶりで、楽しかった。
 攻めが一度、一人の時に声をかけてきた。

「何」
「よかったね。友達できて」
「おう」
「俺のこと、あいつらに言ったんだ? それで――」

 受けは失笑した。

「話すほどのことでもないじゃん」

 攻めの顔が固まる。次いで、屈辱に赤くなった。ちっともわかってないんだな。そんなことで、友達になんかなれないのに。
 受けは去った。攻めは、そこに立ち尽くしていた。

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