お前と向かい合う夏


 放課後、攻めがやってきた。

「お昼はごめん。嬉しかったんだけど、上手く返事できなくて」

 手をあわせて謝ってくる。受けは「いいよ」と手を振ると、攻めは安堵の表情を浮かべ言う。

「受けくんは俺の聖域なんだ。皆にはばれたくない」

 独り占めしたいから。
 そういう攻めの顔は照れくさそうで、本当のことを言ってる顔をしていた。
 受けは、「うん」と頷いた。
 どこか物寂しいものを覚えながら。
 そしてそれからも、受けと攻めの時間は続いた。
 攻めは嬉しそうに受けに「日常」を話す。受けは黙ってそれを聞いていた。

 ある時、また別のクラスの人気者が、受けと話す仲になった。それは中学の時の友達と塾が同じだったとか、そんな些細な縁だったけど、馬があった。

「よー」
「おう」

 それ以後、廊下で行きあうと声をかけ、笑いあう仲になった。

「誰?」
「友達〜」

 なんてことない風に言われるそれが、すごく身にしみた。そして、自分が現状に堪えていることがわかった。

「あいつと仲いいの?」

 攻めが放課後、硬い表情で尋ねてきた。受けは、なんてことのないように、「うん」と答える。

「友達の友達でね。それから」

 攻めは「ふうん」と返して、俯いて黙り込んだ。受けは、どうしたのかな。と答えを待つ。

「あまり、俺以外と仲良くしてほしくないな……」
「えっ?」
「ごめん。勝手だよね。でも、俺は受けくんだけだからさ」

 受けはきょとんとする。

「攻めくん友達いっぱいいるじゃん」
「うん、皆も友達だけど、そうじゃなくて……本当に特別で、大事な友だちっていうか」

 攻めはすごく照れくさそうに、言葉を続けてる。本来なら、嬉しい言葉なのかもしれない。けど、それは釈然としなかった。攻めもそれに気づいたのか慌てて弁解する。

「もちろん、こんな言い方皆に失礼だよね。でも、本当なんだ」
「はあ……」

 受けは黙り込んだ。攻めは「はあって」と言いながら、受けが納得したと思ったらしい。機嫌を直して、饒舌になった。

「あいつとは同じ中学だったからわかるんだけど、すごい自己中で、受けくんのことからかってるんだと思う。だから信用しないほうがいいよ」

 受けは唖然とした。攻めの目には善意しかなかった。

「あのさ、あいつは俺の友達なんだけど」
「えっ?」
「悪く言わないでほしい」
「いやでも、だからそれは――」

 攻めは少し傷ついたような顔をした。反論が来るなんて、思わなかったみたいだった。弁解する言葉にたしなめるような苦笑が混じってて、それにも嫌になる。

「攻めくんは、俺が馬鹿にされるようなやつって思うの?」
「え」
「俺のこと馬鹿にしてるのは攻めくんじゃない?」

 攻めは意味がわからない。ただ傷ついたって顔をしてた。受けがすごく気難しい被害妄想を起こしたみたいな、そんな不可解な顔。

「ごめん、ただ俺心配で……馬鹿にしてないよ」
「うん、わかってる」
「受けくんがあいつに取られないかって思ったのかな……」

 困ったみたいに笑う攻めに、受けも笑った。攻めの言葉に、嘘はないんだろう。もうさすがに、限界だった。


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