忘却魔法をかけてって言ったのはお前でしょうが!


 おそろしく低い、地を這うような声が、部屋に響いた。ん? 受けは顔を上げる。攻めが俯いていて、月光のもとでは影になり表情が見えない。

「師匠は私のことがお嫌になったのですか」
「いや、そんなことは」
「だったらどうして!」

 攻めに肩を掴まれて、倒された。月光を背負い、見下ろす攻めの瞳は真っ赤だった。

「私をお捨てになるのですか」
「攻め」
「ずっとあなたに尽くしてまいりました。心を捧げてまいりました。それをいらないとおっしゃるんですか」

 い。いやいやいや。そんなスケールの話、今私した? ちょっと経験積みなさいよって話で。というか、私だって寂しいのに、何。親の心子知らずってこのこと!?

「あのね、攻め」
「師匠は私にずっと忘却魔法をかけてくださいましたよね」
「ん?」
「優しさからだと思っていました。違ったのですか?」

 はい????
 受けは固まる。お前がかけろって頼んできたんじゃないのかな!?何、この千年のあいだに、どこでどう認知が狂ったの!?そりゃ最近は、理由も聞かずにかけてたけど! 逆恨みにもほどがないかい!?

「いや、優しさだよ。まあ……」

 そりゃ怖かったのもあるけど……言い淀んでいると、攻めが自嘲した。

「師匠は私のことがお嫌だったんだ。そうなんですね?」
「そんなわけないだろう!」

 咄嗟に即否定する受け。攻めは目を細める。

「なら、私のことをどこにもやりませんよね」
「そ、それは……」
「嫌です。どこにも行きません。師匠から死んでも離れませんから」

 ぎり、と肩を掴まれて肩が軋む。
 も、もしかしてこの感じ……。受けは攻めの顔を恐る恐る見上げる。攻めは察したらしく笑う。

「今回は頼みませんから」

 うわーーーーーーーーーー!! 既視感!! のはずなのにズレた!!! 解釈ズレた!!!
 受けの叫びが、夜の闇に消えた。

 その後受けは、攻めの千年かけて発酵した想いをその身で思い知る羽目になるのであった。

 《完》


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