忘却魔法をかけてって言ったのはお前でしょうが!
そんなある日、受けの兄弟子がたずねてきた。兄弟子は豪放磊落ないい人で、受けの肩を抱いて「積もる話もあるし、今日は夜通しのもう」と宣言。悪い人じゃないし尊敬してるけど、こういうところがなー……と思うが、ありがたく聞く受け。
攻めに差配を頼んで、兄弟子の話を聞く。攻めはじとっとした目で、兄弟子を見るが、支度にいった。
「なんだあの坊主。まだお前のところにいたのか」
「まあ……」
「駄目だろ。お前の隠棲趣味に付き合わせたら」
「わかっておりますとも。兄さん、酒でもどうぞ」
「真面目な話だ。何なら俺の一門に引き取ってやろうか? 年頃の女もたくさんいるぞ」
「あー……」
それはあり……かもしれない。黙り込む受けに、兄弟子は頷いて酒を傾けた。
「お前も肩の荷が下りるだろう」
「そんなこと……! あの子は私にとって」
「なら余計、外に出してやれ。お前の都合で縛り付けるな」
受けは俯く。兄弟子は受けの頭をぽんぽんと撫でる。
「さみしいと思うならいい兆候だ。お前ももっと弟子をとって世に尽くすか、伴侶でも得ろ」
そうかも……受けはすごく沈んだ気持ちで、酒を飲んだ。
正直、ものすごく気が重かった。面倒を見てくれる兄弟子とはまあ話せるけど、受けの付き合い下手さはぐんを抜いていた。
「魔法の才はすごくとも、お前についていくものなどいない」と一門から総スカンをくらってから、ずっと隠棲している。
攻めは、そんな時に拾った子だった。行き倒れていて、自分のような変人に育てられたのに、まっすぐいい子に育ったと思う。たぶん。
攻めは、自分のような気難しい師匠を、ずっと敬愛してくれた。魔法の才は自分をとうに凌ぐのに、ずっと自分の面倒を見てくれている。
……寂しいからと、縛り付けていたのは私か。
外に出してあげれば、攻めのちょっとおかしいところはなりを潜めるだろう。
自分のような人間より、素晴らしい人が外にはたくさんいるのだから。
受けは決意した。
「師匠」
兄弟子を部屋に案内した攻めが、受けのところに報告に来た。
受けは酒をまだ飲んでいた。酒は好きだが、こんなに酔えないのも初めてだった。
「そんなに過ごしてはなりませんよ」
「いいんだ。今夜だけだから」
杯をあおる。攻めが、酒を遠ざける。受けはむっとして手をのばした。
「駄目です。体に悪いですから」
「いいよ。私は簡単には死なないもの」
「師匠」
手から杯を奪われた。力も背ももう攻めの方が上で、取り返せずふてくされる。
「いつからこんなに偉くなったのだか」
「師匠こそ、どうなさったのです」
受けは黙る。それから、意を決したように、口を開いた。
「お前を兄さんに預けようと思う」
攻めが目を見開く。
「兄さんは信頼できる人だ。お前も知っているだろう? そこで修行を積みなさい」
「師匠」
「私がお前に教えることはもうない。仲間を作り、切磋琢磨しなさい」
自分が楽しくなかったことをすすめるのはきまりが悪いが、この弟子が自分と同じとは限らない。行ってみれば楽しいかも。
「……師匠は、どうなさるんです」
「私も、弟子を――いや、伴侶をえてもいいと思う」
攻めが息を呑んだ。受けは床を見ていた。
そうだ。もっと早くにこうしていれば、攻めも千年も狂うことはなかったのに。自分に相手がいれば、懸想なんてしようがないではないか。まして攻めの慕情は敬愛と人恋しさなのだから。
「というわけだから、さっそく明日、兄さんに――」
「何故です?」