忘却魔法をかけてって言ったのはお前でしょうが!


「師匠……私に忘却魔法をかけてください」

 と、弟子の攻めが超神妙な顔をして受けに頼んだのは、受けが攻めお手製のお菓子を食べているときだった。

「なんでまた」
「師匠のこと、好きになってしまったんです」
「はあ。ありがと」

 いつも聞いてることだな、と流して菓子にかぶりつく受けに、攻めが気色ばむ。

「そういう意味じゃなくて! 抱きたいんです師匠のこと!」

 受けは思いきり吹き出した。攻めは慌てて受けの背中を擦ってきた。手を上げて大丈夫と示す。

「お前、なにをまた」

 年頃なのかな? 受けの心配の目に、攻めは真っ赤な顔で、伝えてくる。

「だから! 私は師匠に懸想してしまったんです! そういう意味で!」

 いや、そんなことを言われても。

「こんな人里離れたところにこもってるから、人恋しいのかい? なら今度――」
「そうじゃなくて!」
「いや、絶対そうだよ。師匠に任せなさい。いいところに連れてってあげる」
「私の師匠たるかたがそんな下劣なこと言わないでください!」

 怖っ!! 瞳孔かっぴらいた攻めに、受けはたじろぐ。前から思っていたけど、自分に対する理想化がエグすぎる。
 とうとうここまで来たか……と受けは嘆息し、攻めに向き直る。

「あのね、攻め。お前は幼い頃から私のところにいて、人を知らないから。ようやく人恋しい年頃になって」
「師匠以外私の目には入りません!」
「最後まで聞きなさいよその師匠の話を。だからね、お前は敬愛の情とか人恋しさがごっちゃになってるんだと思うよ。経験値がなさすぎて」

 まあそれについては、自分も反省するところがある。厭世的で人里離れたところで魔法をねっていて、この子から人と通じる機会を奪ってしまった。今後はおつかいとかいろいろ外に出してあげよう。攻めはすねたようにぼそぼそ異論を唱える。

「でもそれは……」
「いや絶対そうだよ。ちょっと落ち着きなさい」
「じゃあ、敬愛の情を持ってる相手に、師匠は〇〇したり、✕✕して△△させたいとか思うんですか!?」

 うわーーーー! 受けは耳をふさいだ。そこまで生々しいことは聞いてないよ! っていうか私でそんな妄想できるとかすごいな! 怖い怖い。
 これは絶対にちゃんと恋などさせてやって、気持ちをそらしてあげないと。
 攻めは顔を真っ赤にして机を拳で叩く。

「そんなことは許されないんです……! 敬愛する師匠にそんなそんな……私の流儀に反します! だから、忘却魔法をかけてください!」
「いや、今度」
「お願いします! あと体は汚したくありません!」

 汚すて失礼な。大事な経験だというのに。

「お願いします、このままでは私は――」
「わかったわかったわかった! かけるかける!」

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