ケーキの向こうのお前が泣いた
それからも、ずっと受けの友達は、攻めと受けの間に割って入ってきた。
「そろそろテストだけどさ、」
ちゃんと受けだけでなく、攻めにも均等に話題を振ってくる。でも、受けと攻めを直接話させないようにしているのがわかった。
わかったから、楽しい返しなんてできるわけがない。なんでお前が仕切ってんの、およびじゃねえんだよ。
なのに、怒るわけにいかなくて。ずっと、あいまいな返事を繰り返してた。ただ、受けと二人きりになりたい。そればっかりを願ってた。
なのに、それはずっと、友達に阻まれ続けた。
今も、二人きりになっているのは、受けと攻めじゃなくて、攻めと友達だ。二人でフードコートの場所取りで座ってる。
注文を受けひとりに頼んでまで、自分を見張ってるんだ。消えてほしいしかなかった。
「なんか怒ってる?」
水を飲みながら、聞いてきた。わざとらしさに、攻めは顔をそむける。
「べつに」
「そうか?ならあんまり怒った顔しない方がいいぞ。受けが気にするし」
この野郎。とっさに顔をあげて睨むと、まっすぐ見返してきた。その顔は、「わかってますよ」とはっきり告げていた。
やっぱりこいつ、わざとだったんだな。さすような目で、攻めは友達を睨んだ。
「……割って入ってくんなよ」
「ああ、やっぱそれ、怒ってたんだ?ごめんな」
頬杖をついて、さらっと返してくる。ぶっとばしてやりたい。テーブルの下で、自分の手をつかみ合わせ抑えた。
「手伝いたい気持ちもほんとだけど、受けをあんたと二人でいさせたくないのが本音だったよ」
「なんで……!」
「だって気まずいだろ、どう考えても」
ぐっと言葉に詰まった。受け、そう思ってたのかな。こいつにそう言ったの?攻めはうなだれる。
「受けは何も言わなかったけどさ。俺が心配だったわけ。あんたが一人で来る保証もないし」
「……は?」
何言ってるんだろ、こいつ。意味がわからなくて、うろんな目で見ると、友達はじっと見てきた。
「でも、ひとりで来たんだな。驚いたわ」
「当たり前だろ!俺は……!」
この日をどれだけ楽しみにしてたか。それをお前が――言葉にならなかった。みじめすぎて。友達は「ふうん」と聞いた。
「楽しみだった?受けと一緒にいられると思ってさ」
屈辱に顔が真っ赤になる。我慢できず立ち上がって、胸倉をつかもうと腕を伸ばしたとき、「でもさ」
「誰だってそうなんだよ」
友達は静かに言った。その声音に、思わず止まる。それくらい、意味のある声だった。
「皆、楽しみで仕方ないんだ。約束がかなうのが。だから待つんだ」
友達は続ける。静かな、けれど強い目で、攻めを見ていた。
「受けだって、ずっとそうだったと思うけど」
攻めは目を見開いた。周囲から、音が消える。待ち合わせにやってきた自分を、笑顔で迎える受けが、脳裏に浮かんだ。
「あ」と漏れた声が、自分のものかも、わからない。
手をおろした。友達はもう、何も言わなかった。
「お待たせ」
受けがやってきた。何事もなかったかのように、友達が「ありがとな」と迎える。受けは頷いて、それから攻めを見て、「どうしたんだ?」と尋ねた。
友達が、攻めを見た。攻めは、ただ、呆然としていた。
受けが、自分を見ていた。その目に、確かに心配が浮かんでいる。それを見たとき。
攻めは、走り出していた。
「攻め!」
受けの声が、背に届く。ずっとほしかった声。なのに、走って、走った。
――恥ずかしくて、仕方なかった。