ケーキの向こうのお前が泣いた


待ち合わせに、友達と一緒にやってきた受け。
「え……」
攻めは言葉をなくす。上げかけた手が中途半端な位置で止まった。信じられなかった。
――なんで。どうして、受け。唇が震える。
自分の気持ちも知らず、受けの友達が「ども」と明るく笑う。
「途中で行き会ってさ。ふたりじゃ大変だろうから、俺も手伝おうと思って」
「な」と、受けを見る。なんてことないように言われて、何も言えなかった。言わないんじゃない、ただ停止していた。
受けが、ほんの少し安堵の混じった顔でその場にいるのを見て、胸の奥がざあっと冷たくなる。掴みかかって、心のままに、わめきたかった。
ひどいよ、受け!どうして、俺、ずっと楽しみにしてたのに。受けと一緒にいられると思って――なのに、なんでこんなことするの?
もう泣きそうだった。ぎゅっと拳を握りしめる。
そんなに俺と一緒にいるのがいやなの?なんで、こんなないがしろにするんだ。それなら、言ってくれたら――そこまで考えて、うなだれる。言われたくない、絶対に、そんなこと。
受けに思い切り怒って、なじりたい。なのに、喉元からそれはどうしても、出なかった。だって、そんなことしたら、また「嫌いだ」って言われる。せっかく、また話せるようになったのに。
受けが、自分を不安そうに見ているのがわかる。また、自分が我を失うのを恐れてるみたいな――その視線が、何より痛かった。
「攻めくん、どうした?」
友達が、尋ねてきた。自分と受けの間に流れてる空気なんて知りませんって顔で、あくまで同級生の立ち位置で聞いてくる。受けをかばうように、前に出て。
その瞬間、目の前が揺れるような怒りが、攻めの中で暴れた。胸が焼けるように熱くなる。
てめえ、許さねえ。絶対わざとだろ。なんでもない顔して、邪魔しやがって。
なんで、邪魔すんだよ!てめえはいつも、受けといられるくせに。いつも受けに笑いかけてもらってるくせに!
俺には、この日しかなかったのに。この日に、本当に本当に、かけてたのに――。
攻めは、友達を激しくにらんだ。気づかないはずないのに、友達は「もしかして、具合悪い?」と尋ねてきた。わざとだと確信した。
「とりあえず、行こうぜ。日が暮れちまうよ」
どうせだし、飯も食っていきたいよな。そんなふうに話しながら、友達は仕切って歩き出す。攻めから受けを守るように、二人の間を陣取って歩きはじめた。
ふざけんな。
攻めは怒りにいっそ呆然とした。今すぐ、こいつから、受けを引っ張って走り去りたい。受けを奪いたい。なのに。
――今の自分は、ついていくしか、できなかった。
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