ケーキの向こうのお前が泣いた


どうにか受けと一緒に過ごしたくて仕方ない攻め。
受けと話したい、二人きりになりたい。
かつてはあんなに簡単だったことが、ひどく難しい。どうしてだろう。
答えは頭によぎったけど、振り払った。考えたくなかった。だから受けと一緒にいるために、必死になった。

そんなある日、攻めにチャンスが訪れた。
文化祭の準備のための買い出しで、週末、受けと二人で町に降りることになったのだ。
受けはいつも、こういった手間を自ら買って出る。「俺行くよ」と手をあげたのを見て、「俺も!」とすかさず手をあげた。
受けは、驚いた顔をしたけど、何も言わなかった。攻めは、それがすごく嬉しかった。
話し合いの後、二人で向き合って、こそこそ当日の予定を立てる。それだけで、二人だけの会話をしてるって、浮かれた。

「じゃあ、十時に店の前で集合で」

そう言って、別れた。攻めは拳を握って喜んだ。
受けとふたりっきりだ!待ち合わせだ!
一緒にいる時間を少しでも多くしたいから、できたら寮から一緒に行きたかった。けど、受けは学校に用事があるらしい。すごく残念だけど、仕方なかった。
ちょっと時間は短くなるけど、受けと本当に本当にふたりっきりでいられる。
荷物は全部俺が持つし、何なら預ければいいから、ちょっとどこかに、寄り道できないかな。せっかく町に降りるんだし。
スマホで、近くの店を検索して、ひとりでわくわくする。どうしよう、何を着ていこう、何をしよう。

受けと待ち合わせ、いつぶりだろう。友達の時から――付き合ってからも、ずっと俺たちは待ち合わせだった。

「たまには寮から一緒に行かない?」

受けはそんな風に、聞いてくれたっけ。幼馴染のこと見てやらなきゃって思ってたし、受けが待っててくれるのが、嬉しかったから、「俺、待ち合わせが好き」って言ってたけど。
――バカだったな。
ふいに嬉しい以上に切なくなって、攻めは頭を振った。

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