ケーキの向こうのお前が泣いた

もっともっと、大切にしたらよかった。
ずっと浮かぶのは、さっきの受けの笑顔ばかりだった。久しぶりに、笑ってくれた。俺に。
こんなことになるってわかってたら、もっといっぱい、受けと過ごしたのに。受けとの時間を大切にしたのに。
何で、幼馴染なんかに時間を使っちゃったんだろう。さして楽しい時間でもなかったのに。いつまでも受けがいてくれるって思ってたから。習慣を優先して、本当は有限だった受けとの時間を浪費した。
考えるのは、受けのことばかりだった。受けは、いつも自分との時間を、大切にしてくれた。
「俺のことなんだと思ってるの」って言ってた。「恋人だけど」って当たり前に返した。その通りだと思った。思ってた。

受けは今頃、あいつと遊んでるんだろうな。あいつは受けのことばっかりってやつだから、一日中、誕生日の受けを独占するんだろう。
そう思うと、嫉妬で頭がおかしくなりそうだった。ずるい。それは、俺の特権だったのに。
唇を強くかむ。悔しくて、仕方なかった。受けは俺のものだったのに。それなのにどうして、受けは俺のもとから去ったんだろう。
何度も繰り返された問いだった。けど、最近はそれは空虚に響いて、別の言葉にすり替わろうとしていた。
どうして、俺は受けとの時間をもっと大切にしなかったんだろう?
受けに拒絶されるのが、こんなに怖くて。――受けに、笑ってもらえただけで、こんなにうれしくて。悲しいと嬉しいが、むちゃくちゃになってあふれてくるのに。それくらい、受けが好きなのに。どうして。どうして、あんなことができたんだろう。
だって、愛されてるって、確信してた。今は、こんなに遠いから。だから――

「攻めっ」

幼馴染がやってきた。幼馴染はのんびり寝たって顔で、お洒落をしていた。

「暇でしょ?連れ出してあげるから買い物付き合って〜」

行きたいお店あるんだー、ともう付き合うことは決定事項って感じでスマホを操作してる。攻めはそんな気持ちにはなれずに、「ひとりでいけよ」と言った。幼馴染は目を見開いて、「ひとりでなんて行けないよっ」と腕を引っ張る。

「付き合ってってばっ!いーでしょ!」
「うるさいな!お前の面倒なんか見てる気分じゃないんだよ!」

腕を思いきり振り払った。幼馴染が、二、三歩よろける。あ然としていたけど、眉をつりあげた。

「せっかく誘ってあげたのに!攻めの馬鹿!もう知らないっ!」

叫んで出ていった。思いっきりドアを閉めたらしい、けたたましい音が立った。それさえも耳障りで、攻めは唸った。イライラしながらスマホを操作して、受けと、受けの友達のSNSを見た。受けはあんまり写真とか上げないけど、友達はたくさん上げる。絶対嫌な気持ちになるのに、見ずにはいられなかった。
案の定、楽しそうな写真がすでにたくさん上がってた。肩を抱かれた受けが、画面越しに嬉しそうに笑ってる。
怒りで吐きそうになった。そこは俺の場所だったのに。俺の笑顔だったのに。
最悪の気持ちで、部屋にひとり、攻めはずっとうずくまっていた。

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