ケーキの向こうのお前が泣いた
それから、時が過ぎて、また春がやってきた。
年度もクラスもかわって、受けと攻めはまた、同じクラスになった。出会ったときと同じ、前後の席で。
友達も幼馴染も同じクラスだったから、すぐに二人がそれぞれやってきてしまうけど。
攻めは、後ろに感じる受けの気配に、ひどく切なくなった。これだけ、近くにいられたのはいつぶりだろう。
今は、振り返って話しかけることもできない。拒絶されるのが、怖すぎて。以前は、怖いなんて、少しも感じたことなかったのに。
プリントとか、ちょっとした連絡とか。ふとしたときに振り返ったら、受けと目が合う。
穏やかな目は、そらされることはなかった。何か渡したら、「ありがとう」と言ってくれる。
それだけで、ひどく嬉しくて。
受けの空気は、別れた時みたいにかたくなじゃなくて、ちょうど出会ったときみたいに、穏やかだった。それが泣きたいくらい切なかった。
「受け」
なんのてらいもなく、話しかけられる受けの友達がうらやましかった。受けが笑う声をじっと聴いた。同じクラスなぶん、二人が仲がいいのがはっきりわかる。幼馴染が、袖を引いたけど、じっと受けばかり見てた。
席がえがされて、受けと離れた。それでも、ずっと受けのことが頭から、離れなかった。
受けの誕生日が、近づいてきていた。カレンダーの通知が来る。「受けの誕生日!」はしゃいだ自分の言葉が悲しい。
去年は、一緒にお祝いしたな。そう思うと、苦しくて痛かった。来年も一緒に祝おうって言ったら、涙ぐんで笑ってくれた。こんなことになるなんて、思わなかった。
ケーキ、二人で食べた。確か、あの時は幼馴染とケーキを買いに行って、遅くなっちゃったっけ。こんなことになるってわかってたら、もっと長く過ごしたのに。
「ちょうど、週末だろ?どっか遊びいこうぜ」
「嬉しい!ありがとな」
友達が受けを誘うのが聞こえる。遠くにいても、会話が聞こえる。辛かった。受けは俺が誘ったら、嬉しそうに笑うんだ。本当に、いつもそうだった。いつも俺が遅れて、怒ってたな。
「ひどいだろ」って。でも、すぐに許してくれた。「仕方ないな」って、笑ってた。当たり前みたいに、手をつなげたし、笑いかけたら、笑い返してもらえた。
今は、ひどく遠くて。勇気さえ出なかった。
離れてる間、受けのことをひどいって思ったときだって何度もあった。俺だけ無茶苦茶にして、楽しそうで、許せなかった。なのに恨んでもすっきりしないのは、受けがいないから。
週末、出かけようとしてる受けとちょうど行き会う。
嘘だ。ちょうど行き会えるように、ずっと待ってた。攻めは、玄関に向かう受けに「あの」と声をかけた。受けは、振り返った。
「誕生日、おめでと」
たった一言を言うのに、どうしようもないほど勇気がいった。受けは、しどろもどろになる自分を、じっと見あげてた。
「ありがとう」
そう言って、笑った。攻めは、目を見開く。
受けは、背を向けて、歩いていった。攻めはただ、そこに立ち尽くしていた。受けが、笑いかけてくれた。俺に。
涙がこぼれていた。返事返してくれただけで、笑ってくれただけで、こんなに嬉しい。どうしようもないほど、やっぱり受けが好きだった。
受けの余韻の残る廊下で、攻めはひとり、立ち尽くして泣いていた。