ケーキの向こうのお前が泣いた
友達と笑いあって歩く受けを、焦がれるような気持で、攻めは見てた。
「攻め」
幼馴染が手を引く。それに、頷くけど、目が離せない。だってさっき、受けがこっちを見てる気がしたから。
あの時、受けのことを追いかけようとして、受けの友達たちに阻まれた。
「どけよ!」
突き飛ばしたけど、友達はひかなかった。
「さっき言ったこと本当でも嘘でも、受けのもとには行かせない!」
怒鳴りつけられ、カッとなる。思わずつかみかかったら、周りに抑え込まれる。
「離せよ!」
「落ち着け!」
辺りは騒々しくなって、幼馴染まで走ってきた。
「攻め、やめなよっ!」
後ろから抱き着いて、幼馴染が止める。振り払ったら小さい幼馴染は吹っ飛ぶ、そう思って咄嗟に力を緩めた。あたりが安堵した。
「もう……どうしたの?」
「ふざけんなよ」
幼馴染の言葉にかぶせるように、受けの友達が言った。ものすごい目で、攻めと幼馴染を睨んでいた。
「こんなときまで、あんた幼馴染優先か。それが答えなら、受けにかかわってくるな」
は、と攻めは眉をひそめる。またくだらない勘繰りをされた。今そんなことを話してる場合じゃないのに。
「何言ってるの?僕と攻めは――」
「アンタに話してねえよ。とにかく、お前に受けを好きっていう資格はない」
そう言って、受けの友達は、走っていってしまった。受けのところに行くんだ。阻止したいのに、皆に止められて、叶わなかった。
後で、くわしく事情を知った幼馴染に、「なんで言っちゃったの!」と怒られた。
「だめだよっ。いくら寛容なひとが多いからって」
「だって、受けが……」
「受けさんのせいなの?許せないっ!」
憤慨する幼馴染に「違う」と言った。「何が違うのっ」と顔を真っ赤にする。
「受けさん、ひどいよ!攻めにだけ恥かかせてっ……恋人でも、友達でも、ありえない!薄情すぎるよっ」
「やめてくれよ!」
「付き合ってる時だけいい人なんだ!ひどいっ……!」
泣きだした幼馴染に、返す言葉も持たなかった。攻め自身、受けのことがわからなくなっていた。どうして、受け。
それからも、受けは、攻めとの関係を否定し続けていた。それが、ショックだった。自分との関係は、受けにとって汚点か何かなんだろうか。
「攻めが好き」って、あんなに嬉しそうに、言ってくれてたのに。
そう思うと辛くて、追いすがれなくなった。周囲からの好奇の目線に、疲れたのもある。遠くで、見つめるしかできない。
どうして、受け。俺の知ってる受けは、俺だけひとりぼっちにしなかったよ。俺をおいて、笑ったりしなかったよ。
自分の見てた受けは、全く嘘だったのだろうか。幼馴染が言うとおり。
そう思えば、楽になれた。受けが、自分以外の奴に笑うのが、許せなかった。自分だけ苦しいところにおいて、楽しそうに。
「どうして……」
苦しくて、憎らしい気持ちでいっぱいになる。でも、どうしても受けを忘れられない。
あの一番仲いい奴と、もしかして付き合うの?そう思ったら吐きそうだった。どうしても、受けが好きだった。あの日々を信じたかった。
「攻め、元気出して」
幼馴染の言葉も遠い。だってそれで、なにか変わるわけじゃない。受けに、「嘘だよ、ごめん」って言って来てほしかった。
「攻め、元気だせよ」と、クラスの奴に声をかけられる。一度か二度、つるんだやつだ。
「まあ、友達に切られるのはつらいよなー」と、言われた。友達じゃない。けど、否定するのもつらかった。伏せて流してると、そいつが笑う。
「まあ受けくんは、お前とまじめに付き合ってくれてたもんな」
「え……」
思わず顔を上げると、そいつらが「まあな」と言う。
「今でも、お前のフォローはしてくれてるもんな。噂なくなったって思わね?」
聞けば、こうだった。攻めには直接聞けない分、受けに皆聞いていたが、受けは攻めを悪く言わなかったそうだ。この人たちも、受けに尋ねて、その時の態度を見て攻めに話に来たらしい。
「なんでそんなこと……」
「お前のこと、大事に思ってくれてるんじゃねえの?」
前向いてこうぜ。それだけ言って、去っていった。
わからない。そんなの。だって、受けは、俺のもとからいなくなったのに。「大嫌い」って言ったのに。なんでそんな希望を与えるんだろう。そんなことされたら、期待するのに。
「受け……」
それからも、攻めは受けを目で追い続けた。どうして、受け。幼馴染は「偽善」って怒ったけど、まだ期待したかった。
受け、話がしたいよ。もう一度、あの時の受けと。
攻めはずっと、焦がれ続けた。