ケーキの向こうのお前が泣いた
友達の前で、攻めに「自分たちは恋人だった」と暴露された受け。
あまりのことに固まる。その間に、攻めがやってきて、受けの手をつかんだ。
「俺たちは、ただの友達なんかじゃない、そうだろ!?」
と、引き寄せられる。友達の驚いた顔が視界に入る。とっさに「違う!」と叫んだ。
「付き合ってなんかない!俺たちは――」
「なんで嘘つくんだよ!俺とのこと、恥ずかしいの!?」
泣きそうな顔で言って、抱きしめてくる。動揺する。何考えてるんだよ、ここ、廊下なのに。
「やめろってば……!」
「お願いだから、なかったことにしないで……好きなんだ……!」
受けは、目を見開く。どうしようもなく泣きたくなった。どうしてこんな、切実な声で言うんだろう。幼馴染くんの方が大事なくせに。
「受け」
友達が、受けを呼んだ。その瞬間、我に返って、受けは攻めを突き飛ばした。そして逃げる。
「受け!」
背中に声がかかった。友達の声と――攻めの声だ。ごめん。謝りながら、受けは走った。
校舎裏で、一人になると、自分が泣いていることに気づく。もう、涙なんて出ないくらい泣いたと思っていたのに。「好きなんだ」って切実な、攻めの声がよみがえる。
「俺だって……」
だから、どうしようもないのに。お前の中に残りたいから。なのに、なんでこんなにずっと、気持ちを無茶苦茶にするんだろう。もうわからなかった。
これから、どうしよう。否定し続けるしかできない。友達の驚いた顔を思い出す。ずっと信じて、守ってくれたのに。ごめん。
教室に戻るのが怖くて、受けはうずくまっていた。
しばらくして、足音が近づいてきた。受けの前で止まった。
「受け」
顔を上げると、友達だった。受けは、目を見開く。友達はしゃがみこんで、目線を合わせてきた。手が、受けの頭にのせられる。
「心配すんな。わかってるから」
受けが、じっと見返すと友達は笑った。
「友達だろ」
受けの目が、見開かれて、涙がこぼれた。友達が、ぽんぽんと慰めるように、頭を撫でた。
「ごめん」
「謝ることなんかねえよ。水くせえぞ」
受けは首を振る。もう終わったことだし、攻めのためにも話すことはないって思っていた。
付き合ってるときだって、恋人がいるんだし適度に線を引かなきゃ、と思ってた。
けど。受け自身怯えていたんだとわかる。
ひかれるのも怖かった。攻めと同じことをしたくなかった。けど、何よりみじめな目にあってるって、友達に知られるのが怖かった。
本当はずっと誰かに話したかったのに。
「ありがとう」
泣く受けの肩を、友達が抱いた。そして、ずっとそばにいてくれたのだった。