ケーキの向こうのお前が泣いた

攻めと別れ、友達たちと新たな日常を過ごしだした受け。
幼馴染は相変わらず隙を見つけてはなじってくるし、攻めもやってくる。けど、友達がずっと防波堤になってくれてる。

「受け」

また、攻めがやってきた。友達たちがかばうと、攻めもにらみ返してる。こんな険のある目をする攻めは見たことないので、かなり戸惑う。

「話聞いて」
「行こうぜ、受け」
「あんたたちに話してない!」

攻めが怒鳴る。受けは、腹をくくった。「皆、ありがとな」そう言って、攻めに向き直る。

「わかった。話す」
「受け!」

友達たちが驚く。大丈夫と言う風に、受けは友達に笑う。攻めにはっきり言った。

「でも、この話し合いがすんだら、もう俺に関わらないでほしい」

攻めが固まる。嬉しそうな空気が、一気に霧散した。受けは、じっとそれを見つめる。何も聞かないで、自分を守ってくれる友達たちに報いたい。このままじゃ駄目だ。
攻めは全然わかってないから、一度話さないといけない。そして、今度こそ終わりにするんだ。

「俺は、こいつらとやっていきたいんだ」

もう、前を向かないといけない。自分を大切にしてくれるひとを、大切にするんだ。友達たちが「受け……」と安堵の声を上げる。友達が、受けの肩を叩いた。受けは笑い返す。その時だった。

「なんで?」

攻めが言った。冷たい声が、震えていた。攻めは蒼白になっていた。でもそれは、ショックを受けたとか、そういうのではなかった。
攻めが、受けの手をつかんで引きよせた。あまりの強さに、痛みに顔をしかめる。友達が、「おい!」と怒鳴る。

「やめろよ!」
「なんで、こんなやつらと……!なんで!?」
「こんなやつらじゃない!俺の大事な友達だ!」
「なんで、受け!?なんでそんなこと言うの?受けには俺だけでしょ!?」

肩をつかんで、揺さぶってくる。必死な様子に、心が動かされないわけじゃない。けど、怒りのほうが勝った。

「――俺にだって俺の世界がある!大事な友達だっている!馬鹿にすんな!」

攻めが、目を見開いて固まった。その隙に、友達が、二人を引き離した。受けは、痛む肩をさすって、息をついた。友達が、「もういいだろ」と言った。

「攻め君。受けの気持ち、考えてやってくれよ」

静かな声だった。攻めの固まっていた表情が、ぴくりと動く。

「受けは、簡単に縁切るやつじゃない。友達だったなら、わかるだろ」

行こうぜ、そう言って、友達は受けを促して歩き出した。ほかの友人も賛同するように、後に続く。受けの目に、涙がにじんだ。信頼が温かかった。

「友達。ありがとな」

そう言った時だ。
攻めが「友達じゃない!」と叫んだ。

「俺と受けは恋人なんだから……!友達ごときが、俺たちのことに口だすな!」

空気が凍った。

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