2026年GW企画SS
俺の家で、行事ごとといえば、いつもひな祭りだった。
「理央は、男の子なんだから、こどもの日がよくないか」
と父さんが言って、
「オメガだもの。いきおくれたら困るし、
と母さんが言ってた。
俺は、いつもちょっと不思議な気持ちで、二人の言葉を聞いてた。でも、父さんも母さんも、俺のことを思ってくれてるのがわかったから、嬉しかった。
母さんが買ってくれた大きなお雛様を、父さんとふたりで飾った。瀧も、手伝ってくれて、よく一緒に飾った。
「理央ちゃんはどのお人形が好き?」
「んっとね……この子」
お人形を掲げたら、瀧が名前を教えてくれて。
当日は、瀧のおばさんも、一緒にお祝いしてくれた。
「理央ちゃん、似合ってるわ」
母さんが用意してくれた可愛い着物を、おばさんが着付けてくれた。なんだかそわそわして、俺はじっと瀧を見てた。
「理央ちゃん、すごく可愛い」
……嬉しかった。
俺は、鏡の前で、自分の姿を見つめてた。
「……今年もおひなさま、するのかな」
伸ばした前髪を、ぐっと引っ張る。ぜいたくなこと、不安に思ってるのはわかる。でも。
去年は、ちょっと変でなんとか済んだ。でも、可愛い着物は、今年は絶対にもう、似合わない。
俺はもう、お雛様じゃないから。
父さんが出ていってから、おひなさまは飾ってない。一度、ひとりで飾りつけしたら、母さんが、「もういいでしょ」って。
代わりに、おばさんはいつも、「お祝いしましょう」って家に呼んでくれる。ひなまつりも、こどもの日も……。
瀧は、もう行事ごとには、参加してない。
受験を控えてて、塾が忙しいから、仕方ないんだけど。さみしい……でも、同時にホッとしてる。
「ガッカリするもんな」
似合ってない、おひなさまの自分を、瀧には見られたくなかった。
「理央ちゃん、すごく可愛い」
瀧が笑ってくれた日は、遠い。
どんどん伸びてく、自分の背と手足を、俺はじっと見つめた。
「止まって」
どうかこれ以上、離れないでほしかった。
《完》