2026年エイプリルフール企画SS


「なあ、帰りちょっと付き合ってくれよ」

 部活帰り、英里えいりが言った。校庭には、桜の花が咲き出してた。

「いいけど」
「サンキュ。明日のプレゼント選びたいんだよな」

 英里の言葉に、俺は曖昧に笑った。
 明日、英里とはなは、デートする。

「なあ、これとかどう?」

 店先で、英里がポーチを差し出した。淡いパステルピンクの、可愛いやつ。

「ちょっと甘いかも。あいつはこういうのが好きだと思う」

 俺は、オレンジ色のマグカップを手にとって見せた。

「いや、やっぱり可愛いのがいいだろ。女の子なんだしさ」
「はは……」

 ちゃんと笑えてるか、わからない。
 何が悲しくて、俺は好きなやつと妹へのプレゼントを選んでるんだ。強張る頬に、ずっと力を込めた。

「じゃあ、それでいいんじゃね」
「真面目に選んでくれよ〜! 俺、明日に賭けてんだから」

 肩をぐらぐら揺らされた。
 誕生日に一緒に遊んでもらえるなんて、それが答えだろ。俺は振り払いそうになる。
 でも駄目だ。そんなの、友達の距離感じゃない。

「わかったよ。ちゃんと協力するって」

 俺の言葉に、英里が笑った。

 結局、英里は最初に選んだポーチにした。

「やっぱり、俺がいいと思ったものを渡したい」

 って。
 家に帰って、ペンダントを見る。淡いピンク色のペンダント。英里の水色のとおそろいのもの。
 そんなの、俺が欲しいよ。お前がいいと思ったもの。ぎゅっと、ペンダントを握りしめてた。

 ◇

 週明けの部活、英里は遅刻してやってきた。

「遅いぞー」
「すみません」

 英里は頭を下げる。目線を合わせなかった。俺は、不思議に思う。
 どうしたんだろう。俺は英里に近づいた。

「どうした?」
「おう」

 英里は黙り込んでいた。いつになく、塞いでいるみたいで、心配になる。
 華とデートだったのに、何でだろう。じく、と胸が痛い。……落ち込むこともできない。俺は息を吸った。

「何かあったのか?」

 英里が、ぴくっと肩を揺らした。まずったか、と思ったけど、もう引けない。俺は拳を握った。

「ちょっと来てくれ」

 英里に手を引かれ、俺は校舎裏に連れてかれた。

「英里? どうしたんだよ」

 広くて高い背を、俺は見上げる。

さき

 英里の声が、俺を呼んだ。
 振り返って、英里が続ける。すごく、真剣な顔だった。

「お前のことが好きだ」

 目を見開く。

「お前のこと、やっぱり忘れられない。付き合ってくれ」

 ざ、と風が吹いた。桜の花びらが舞う。

「え……」

 俺は、言葉が告げなかった。ギュッと握られた手が熱い。そこから、急き立てられるみたいに、どんどん鼓動が速くなった。
 なんで。どういうこと?

「華と、なにか」
「お前がやっぱりいいって思ったんだよ」

 強い言葉に遮られる。英里の手の中で、俺の指がきしんでた。鼓動のせいで、視界まで揺れてる。
 英里が。そんな……。

「本当に……?」

 英里は黙ってた。服の中で、ペンダントの存在を、強く感じた。そっと服越しに触れる。
 なにか言わなきゃ。でも、胸が一杯で、言葉が出ない。

「あ、あの……俺、」

 言葉を必死に紡いだとき、英里がうつむいた。そっと、肩が震えだす。

「はははっ」
「えっ?」
「マジになんなよ。嘘だっつーの」

 英里が、俺の手を離した。腕組みをして笑う。

「今日、何日か覚えてねえの?」
「あ」

 ――四月一日。

「バカだな〜咲は」

 英里は笑った。俺は、固まって、それから体が熱くなった。

「そっか」
「驚いたか?」

 覗き込まれて、俺はおぼろげに頷いた。英里は得意げに笑って、額をついた。

「あのときの俺の気持ち、わかったか」

 英里の言葉に、俺は息を呑んだ。

『さぞ、楽しかったろうな』

 桜の下で項垂れ、俺を睨んだ英里の目が、蘇る。
 胸が刺されたみたいに痛くなった。

「――咲?」

 視界が揺れてる。瞬きしたら、英里がクリアになった。目を見開いて、俺を見てる。

「え、どうした」

 英里の伸ばされた手を、振り払った。そのまま、背を向けて、走り去る。

「咲!」
「英里なんか、だいっきらいだ!」

 涙を拭って、走った。校門を飛び出した。何も考えられなかった。
 桜の降る通学路を、俺はずっとずっと、走り続けた。

 《後編に続く》

 
3/4ページ
スキ