2026年エイプリルフール企画SS
可愛い弟弟子が小さくなった。
「う……?」
衣に埋もれ、
「これは……」
「し、しっしし師匠……」
「おい?」
あまりの挙動不審さに、雷落が声をかける。それより疾く、朱櫻は飛び出していた。
「師匠〜〜! 私の師匠……!」
ぎゅっと幼子を抱きしめる。花燐はびくっと体を震わせて「うぇ」と涙ぐんだ。
「お、おい!」
「はあ、可愛い、師匠……おいくつですか……?」
「ふえ」
「四つくらいかな……? ふふっ、ちょうど私が師匠と出会った頃くらいですね!」
「おい、こら!」
勝手に話を進める朱櫻の肩を、雷落は掴んだ。朱櫻は赤みがかった目に険をのせ振り返る。
「なんですか?」
「お前こそなんだ。花燐が嫌がってるだろうが」
「は? 嫌がってませんよ」
「ふえ〜……」
「ほら! 嫌がってる! 貸せ」
朱櫻から、花燐をひったくった。
顔をくしゃくしゃにして泣く弟弟子をなだめてやる。
「よーちよち、いい子だな〜」
「このデコハ……師匠を返してください!」
「なんか言ったか? おら、なんか飯でも作ってこい」
「いやです!」
「嫌です!? おま、俺はお前の師匠の兄役だぞ」
「師匠! 返してください!」
「いやだ、どうみてもお前に懐いてないだろうが!」
「このっ……」
雷落は花燐を抱っこして、屋敷中を駆け回った。「ふえ〜」と花燐が泣き出すまで、二人の追いかけっこは続いた。
◇
「師匠。可愛いですね」
「う……」
一刻後。
花燐は小さな衣に着替え、ちんまりと朱櫻の足の間に座っていた。髪を櫛で丁寧に梳かされている。うろうろ視線を彷徨わせていた。
「師匠の髪は綺麗ですね。極上の絹糸のようです」
「ん〜……」
「ああ、動いちゃ駄目ですよ。引っかかったら痛いですからね」
上機嫌の朱櫻を、雷落は胡乱の顔で見ていた。ちなみに衣は急ごしらえで、朱櫻があつらえた。買ってくるといったのに、執念じみている。
「できました。ほら、可愛いでしょう」
「う?」
髪を赤い紐で結い上げると、朱櫻は鏡に映してみせた。
確かに可愛い。不思議そうに、花燐は紐を引っ張っていた。
それにしても。
「小さくなっても鈍いなあ、お前」
花燐の頬を突こうとすると、恐ろしい速さで朱櫻が花燐を抱き上げ庇った。
「ささくれた手で師匠に触らないでくださいっ」
「はあ!?」
「う〜」
「すみません、師匠。驚きましたね」
打って変わって、甘い声でよしよしする。砂糖煮詰めても、こうならねえだろう。
「ふふ……可愛いなあ。師匠」
朱櫻の声は陶然としていた。頬を赤く染め、文字通り、目に入れても痛くないという顔で、花燐を見つめている。
「おい」
「嬉しいなあ……子供の頃の師匠に出会えるなんて」
「おい、坊主」
「もう私と師匠の間に秘密はないんだ」
「こら、戻ってこい!」
頭をひったたくと、朱櫻が睨んでくる。
「師匠に当たったらどうするつもりですか!」
「やかましい! 妄想もいい加減にしろ!」
「嫌です!」
「黙れ! こいつは俺のところで面倒見る! お前に任すとろくなことにならん!」
「はあ!?」
雷落は、花燐をぱっとさらった。
「ふざけるな! 返せっ!」
「うー……?」
花燐はきょろきょろと首を動かして、ぎゅっと雷落の衣を掴んだ。雷落が勝ち誇る。
「ほらな、花燐は兄がいいとよ」
があん、と石で打たれたように、朱櫻が固まる。
「そういうことだから、あばよ!」
大鳥を呼んで、雷落は飛び乗った。
「待てっ師匠……師匠ー!」
朱櫻は駆け出し、花燐に手を伸ばした。しかし、鳥はぐんぐん小さくなっていった――。
《後編に続く》
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