夜にひとりで落とす問い【8月企画SS加筆版】


 桜と空の青が重なる、春のはじまり。

「こんにちは」

 手提げ鞄を抱いて、俺はお隣の家を訪れてた。

「瀧(たき)、こんにちは」

 ドアを開けた瀧に挨拶する。瀧はふいと顔を背けて、中に促してくれた。俺は、

「おじゃまします」

 と言うと、中に入った。靴をそろえて脱ぐと、手を洗う。リビングのドアを開けて、「あ」と俺は声を上げた。

「理央(りお)」
「樹(いつき)くん」

 樹くんが、制服を着て立っていた。隣のおばさんが、にこっと笑う。

「理央ちゃん、いらっしゃい」
「あっ、おじゃましてます」

 おばさんは学生鞄を持っていた。にこにこ笑って、俺に尋ねる。

「似合うでしょう? 制服が届いたのよ」
「はい」

 俺はうなずく。樹くんは、紺色のブレザーに身を包んでた。大人っぽくて、なんだか知らない人みたいだった。

「あら! よかったわね、樹」
「よせよ」
「でも、こうして見ると、樹もまだ子供ね。着られてるわ」
「まったく。からかわないでくれ」

 ふふ、とおばさんが笑う。おばさんの目は、嬉しそうだ。おばさんと話してる樹くんは、いつもの樹くんで、俺はホッとした。俺と目が合うと、にこっと笑ってくれる。

「理央、すまない。すぐ着替えるから、部屋で待っていてくれ」
「うん」
「いこ」

 瀧が、俺を促した。後ろに来てたみたい。リビングを出ると、そっと指先を引かれる。

「すごいな。制服……」
「ふつうじゃない」
「そう?」
「制服なんて、時がくれば誰でも着るよ。理央も俺も」

 前をいく淡い後ろ髪を見て、俺はくすぐったくなった。何だかちょっと、励まされた気がして。

「うん」

 そっと瀧の手を握った。



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