半分こにしてたもの(あの日にまだ縋ってる)
おばさんに呼ばれて、瀧のお家にお邪魔したら、ふわりと甘い香りがした。
「待っててね! もう出来るから」
おばさんのいたずらっぽい目配せに、俺は頭を下げた。おろおろ、所在なくソファに座る。
おばさんが「瀧!」と呼んだ。
「懐かしいでしょう?」
「は、はい……! すごく」
出来上がったものを、お皿にのせてくれる。それは、揚げたてのドーナツだった。
熱々の生地に、砂糖がきらきら輝いてる。
「美味しそう。ありがとう、おばさん」
俺は手を合わせる。
すごく懐かしい。子供の頃に、よく作ってくれたドーナツだ……。
なんだか胸がそわそわして、俺は手を握り合わせた。おばさんは、にこにこと笑って、瀧のほうを見た。
「瀧は?」
尋ねる。
瀧は、静かな表情で、それを見下ろしてた。勉強してたのかな。何となく雰囲気が硬い。
「別に」
ひとこと、そう言うとそっぽを向いた。おばさんは、腰に手を当て、嘆息した。
「まったく」
そう言って笑い、背を向けると、キッチンに向かった。俺はその背に、おろおろする。
「た、瀧、うれしいな!すげー懐かしくね?」
瀧は、ふと目を上げる。かすかに眇められた目はすぐに逸らされた。俺は半分、俯く。
ドーナツの甘い香りが、ふわりとのぼる。きつね色のそれを見てると、本当に、懐かしくなる。ぎゅっと目をとじて、気合を入れた。
俺はドーナツを手に取ると、半分に割る。
「は、はい!」
瀧に半分を差し出した。
「半分こ……」
ドーナツ越しに、瀧を見る。瀧は、ドーナツを見て、それから目を伏せた。
「自分の分は、自分で食べてください」
俺は瀧を見つめた。瀧は目をそらした。
顔を俯ける。ざって、熱が顔中にのぼった。振り払うみたいに、俺はふざける。
「な、なんだよ! つまんねえやつ」
瀧は眉をひそめる。
「くだらないこと言わないでいいです」
そう言うと、立ち上がった。
「瀧」
「塾に行ってくる」
おばさんに言って、部屋をあとにした。バタンと扉が閉まる音が立つ。俺は笑みをわだかまらせ、それを聞いてた。
笑みを、そっと消して、割れたドーナツを見てた。
《完》
2/2ページ