2026年七夕企画SS
「あっ」
衝撃が伝わった。えっ、なに?
見れば、沙結兄が、不機嫌そうに那智くんの後ろに立ってた。不快そうに眉を寄せてる。
「那智。いつまで油を売ってる。とっとと車に乗れ」
「あっ、すみません。兄さま……」
に、にいさま!?
何それ那智くん! そりゃ婚約するなら義兄だけど、っていうか那智って何? 誰の許可得て那智くんを呼び捨ててんだテメエ! っていうか、さっきの揺れって、お前が殴ったせいか……! うっざ!
「那智くんに何すんだよ!」
「誰に口をきいてる?」
俺が食って掛かると、沙結兄の野郎は、目を眇めた。那智くんが、俺を庇って抱きしめる。あったかい。
「兄さま、希結を怒らないでください。俺がくっついてたんです」
「またか。いい加減に自覚を持て」
「す、すみません」
那智くんが沙結兄に謝る。沙結兄はふんと鼻を鳴らした。そうして俺たちの脇を通り過ぎていく。
「江利也家の出来損ないが。そこの雑種にくっついて出ていくと思うとせいせいするぜ」
「……! この、」
「待ってください、兄さま!」
あまりのいいように、カッとなった。けど、俺より早く、那智くんは沙結兄を追った。
「希結のことを悪く言うのはやめ――」
「だまれ」
「あっ!」
沙結兄のフェロモンが飛ぶ。ばちりと音がするみたいな勢いだった。もろに食らった那智くんが、地面にうずくまる。
「那智くん!」
俺は那智くんの背を支えた。くそっ、速くて全然庇えなかった。那智くんの背中は、冷や汗でぐっしょりだった。頭も回るみたいで、酷くえづいてる。沙結兄はその間に車に乗り、悠々と去っていった。
あの野郎……! 俺は、那智くんをぎゅっと抱きしめた。フェロモンで、一生懸命落ち着けてやる。
「なちくん、大丈夫だよ」
「きゆ」
けほっと咳込んで、那智くんが俺を見上げた。青ざめた顔は、涙にぬれて、目の焦点もうろうろしてた。
あんまり辛そうな様子に、俺まで泣けてきた。
「なちくん」
「ごめんな、また兄さまがお前に……」
「そんなのどうでもいいよ!」
俺は那智くんを抱きしめる。那智くんは俺に身を預けた。那智くんの体は冷たくて、ぶるぶる震えてた。
俺は悔しくて仕方がなかった。くそっ、くそっ! あのクソ兄貴……!