2026年6月企画SS
悲しい晩餐会が終わった。流石に先に立つわけにはいかないから、長い時間だった。
「ったく……世界一くだらねえ会だったな」
沙結がはあと息をつきながら廊下に出た。空気を悪くしていた筆頭なんだが……当人は気づいていないようだ。
「生まれただけで祝われるなんて、馬鹿らしい。本当に害しかねえよあいつは」
沙結のぼやきがくっついて回る。部屋の向きが一緒でなければ俺もこんな与太は聞こえない。
すたすた歩いてると、後ろから弾丸みたいに小さいのが飛び出していった。希結だ。
さっきまでの泣きべそはどこへやら。まとう空気ははつらつそのものだ。玄関に向けて一目散だ。
「
甲高いはしゃぎ声がすぐに届いてきた。
「またあの欠陥品が来たのか」
はあ、と沙結は嘲りと苛立ちの混ざる息をつく。
「あんなのとつるんで、江利也家をどこまで汚したら気が済むんだ。ったく、とっとと引き離さねえといけねえな……」
ぶつぶつ、忌々しげにつぶやいている。よくそんなに、どうでもいいことにエネルギー使えるな。俺は部屋に歩を進めた。
「おい、浮結! お前も少しは考えろよ。馬鹿みたいに肉を食ってないでよ」
そんな俺に業を煮やしたのか、俺の肩をわし掴んできた。切られた爪が食い込む。
さすがにうざったい。俺は手を退けながら、返す。
「兄貴こそ、母さんが用意してくれたんだからもっと食ってやれよ」
俺の言葉に、沙結は皮肉げな顔を浮かべた。
「俺に作られたものでもないだろ」
あ? 俺は嘆息したいのを抑える。
「ローストビーフは兄貴が好きだから、母さんがわざわざ作ってくれたんだろ」
だから、母さんも作ったんだ。「これなら希結だけでなく、沙結も嬉しいだろう」って。俺ならこんな気遣われ方をするなんて恥ずかしくて無理だけど、母さんの本心はそこだ。だというのにこいつら食べないんだもんな。
沙結を見れば、羞恥を覚えた様子もなく、ふいと目を伏せた。
「俺にじゃない。江利也の後継にだろ」
感傷的に吐き捨てて、足早に部屋に去っていった。
俺は謎の理屈に、首を傾げていた。後継イコール兄貴だろ。何が駄目なのか? 後継者の座を降りるつもりか? 時空でも超えたいのか?
希結も希結だけど、沙結も沙結だよな。ベクトルは違うけど、甘え方が斜め上だ。
アホくさい。時間をロスしたのは俺だ。
やっぱり飯は一緒に食べる人が物を言うな。
俺はあの夏、愛する人と一緒に食べた海の家の焼きそばを思い出していた。
俺はなすべきことをなすために、部屋に向かった。はやくまた、あの笑顔を前にして、美味しい食事をとるために。
《完》