2026年6月企画SS


 ちょっと話が逸れたか? そうでもないか。
 それで、今日は希結の誕生日の当日なんだけど。
 そういう過程で、この沈鬱な空気になってると思うだろ。ところが、そうではないんだ。それなら、沙結のやつは、少なからずご機嫌でいる。

「なら、ローストビーフでも作りましょうか?」

 って、希結を可哀想に思った母さんが、わざわざローストビーフを手作りで作ってくれたんだ。

「私が作りたくて作ったものならいいでしょう?」

 とちょっと理屈をつけて。
 当日までしょげ続ける希結も希結だけど、沙結も沙結だ、本当に。
 それを聞いて怒髪天をついて、大喜びする希結に蹴りを食らわせた。鞠みたいに転がる希結を、忌々しげに嘲笑って、

「甘ったれやがって。家柄以外何も持たない末っ子はお気楽でいいな」

 とさんざんに罵った。みそっかすとか、グズとか他にも言っていたが大体同上なので割愛だ。
 希結は壁にぶつかって丸まっていたが、よしときゃいいのに、沙結のことを睨みあげた。

「なんだよ。沙結兄なんか、後継者ってことしか価値ないくせに。可愛がられてないからっていちいち嫉妬すんなよな」

 あーあ。
 あとはもう言わなくてもわかるだろ。
 こうして希結は、食事の席でもずっと泣かざるを得ないぐらい、沙結に殴られ罵倒されまくったというわけだ。

 さて、目の前には出来たてのローストビーフがある。母さんが手塩にかけたそれは、希結のは表面が乾きそうだし、沙結は慇懃にたらたら食べてる。
 ……バカなのか、お前たちは。

「母様、おかわり頂いてもいいですか?」

 俺は、ローストビーフを示して、うかがった。母さんは、あっとこちらを見て、眉を下げた、

「ええ、いただいてちょうだい。皆、進んでないみたいだから……」

 笑顔の中に混じる寂しさに、俺はなんともいえない気持ちで応える。
 何をやってるんだ、お前たちは。母さんは、お前たちに食ってほしくて作ったっていうのにこの体たらく……。そのせいで、たいして食べても嬉しがられない俺が、空気を読まずに食う羽目になってるだろうが。

「いや、本当に美味いな。私ももう一枚頼む」

 父さんもまた、笑顔でお代わりを頼んだ。中年男でさえ、気遣って肉食ってるというのに、しゃんとしろよ……。俺と父さんはにこやかに笑みを浮かべ、ローストビーフを豚のように食べた。
 沙結はほとんど食べず、希結に至っては飯が喉を通ってなかった。
 じいやと目が合うと、「苦労しますね」とばかりに目配せされた。全くだよ。



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