半分こにしてたもの(あの日にまだ縋ってる)


「わあ……!」

 揚げたてのドーナツを前に、俺は歓声をあげた。ふりかけられた砂糖がきらきらして、甘い匂いがする。
 じっと見つめてると、たきがふふ、と笑った。

理央りおちゃん、ドーナツ好き?」
「うん!」

 俺は何度もうなずく。

「だいすき」

 おばさんがドーナツ作るって、瀧が呼んでくれたんだ。あったかい、お日様の入るお部屋で、おばさんがドーナツを揚げてくれるのを見てた。
 すごくとくべつな時間で。ぎゅっと手を握りあわせる。

「ありがとう、瀧」

 あんまり嬉しくて、うつむいてると、瀧はそっと自分のドーナツに手を伸ばした。
 ふわりと半分に割る。首を傾げて見てると、瀧がそれを俺に差し出した。

「はい」

 俺は目を瞬かせる。

「半分あげる」

 ドーナツのむこう、瀧が優しい目で、俺を見てた。俺は、ぽかんとして、それから、あわてる。

「えっ、でも。瀧の……」

 手をうろうろ動かす。瀧の目を見上げた。

「いいの?」
「うん」

 瀧はにこっと笑った。

「理央ちゃんが食べて」

 そう言って、俺の頬をつついた。

「あ、」

 俯く。頬が内側から、かっかって熱くなってくる。うろうろと指先を握り合わせた。

「ありがと……」

 ぎゅっと目をつむる。瀧からドーナツを受け取って、自分のお皿にのせる。ドーナツが、いっこと、はんぶん。

「えと、でも」

 俺はドーナツをじっと見てた。向こうでずっと、やさしい瀧を感じてる。
 ぎゅっとリボンを結ぶみたいに、気持ちに力をいれた。
 俺は、自分のドーナツを半分にする。そうして、瀧に半分差し出した。

「瀧には、俺のあげる」

 瀧の目が、ちょっと大っきく開かれた。

「はんぶんこ……」

 俺は、瀧をじっと見上げてた。
 ふたりで、食べたい。瀧がくれて、うれしかった気持ちも、わけっこしたい。
 瀧は止まってた。俺は、眉を下げた。怒ったのかな。

「ひゃ」

 瀧が、俺の頬にキスをした。
 いきなりのことで、驚く。ぱあっと顔が熱くなった。

「瀧」
「真っ赤」
「だって……」

 頬を手で包んで、目を瞑った。瀧の目が見られない。胸がぎゅってなった。瀧はずっとにこにこしてた。

「美味しいね」
「うん」

 瀧と、わけっこしたドーナツは、すごく美味しかった。


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