俺だけいつも枠の外


「友。いちご蒸しパンいるか?」
「いただこう」

 攻めは半分、友の手にのせた。

「攻め、俺も……」
「あ? 卑しい野郎だな」

 聞いてた皆が、どっと笑う。友はもくもくと、ピンクの蒸しパンを食べてた。

「たんと食えよ」

 友が頷く。攻めは嬉しそうに見てる。
 ……いいな。

『受け、たんと食えよ』

 笑顔で俺の世話を焼く攻めを妄想する。優しい笑顔を俺に向ける……。
 ぶは。いや、ないない、ないか。
 さすがに突飛すぎて、照れてきた。

「どうした、受け」

 不審な俺に、友が尋ねる。友彼さんからのお弁当を、丁寧に食べてた。

「んーん」

 俺は、あいまいに笑って首をふった。友は、怪訝そうに首をかしげる。攻めが、目を眇めた。

「風邪じゃねえだろうな。早く休め」
「せ、攻め……!」

 もしかして、心配してくれたの? 気持ちが一気に浮上する。

「友に移しやがったら承知しねえぞ」

 封殺〜! あたまを押さえつけられたみたいに、うなだれた。

「うーい……」

 俺は、パンの袋をしまい、牛乳の残りを一気に飲んだ。

「俺、先行くね」

 とぼとぼと、その場を後にする。
 扉の前で振り返ったけど、攻めは、友と何やら熱心に話し込んでた。
 うん。わかってたけどね。

 攻めって、まじでなんで俺とつきあってんだろ。
 やっぱ、友が恋人できたからなのかな。
 俺は息をついた。

 ◇

 放課後、校門の前で車が停まってた。

「友彼!」

 友が顔を赤くして、駆け寄る。友彼さんは、ほほ笑んで、「お疲れさまです」って言った。

「受けさんと攻めさんもどうも」
「うちの友になんの用ですか?」
「もちろんデートです」

 友彼さんの言葉に、友が真っ赤になった。攻めも違う意味で真っ赤になってる。

「ふざけるな! 友の家の門限は七時だ!」
「心得ていますよ。ね、友さん」

 意味深に友彼さんが、友の肩を引き寄せた。わお、何だか照れちゃう……目をうろつかせてると、友が俺を見た。ので、割ってはいる。

「まあまあ、攻め。七時ならなおさらもう行かなきゃ」
「黙れ」

 ぺいっと投げられて、地面に横向きに倒れ込む。攻めは友彼さんにずっと牽制かけてた。

「いい加減にしろ! 行くぞ友彼!」

 堪忍袋の緒が切れた友が、友彼さんの腕を引いて、車に向かった。

「友!」
「お前は俺の父親か!?追いかけてきたら絶交するからな!」

 そう言って、車に乗ってしまった。友彼さんは、「失礼します」と勝ち誇った笑みを浮かべ、運転席に座ると、車を走らせた。

「あや〜……」

 友が。なんだかおとなになったんだな、って思う。ごめんね止められなくて……。と小さくなる車を見送ると、となりの攻めを見上げた。
 すごい落ち込んでるじゃん……。悄然って、こういうことを言うんだろうね……。

「友……」

 声がすごいウェットだよ。俺は攻めの背を叩いた。

「ドンマイ、攻め」
「うるせえ」

 ふい、と攻めは歩き出した。ものすごい不機嫌オーラに、ちょびっとひるむ。とはいえ長い付き合いだもんね。負けないぞ。俺は早足でついてく。

「まあまあ、大丈夫だって。友はしっかり者だし」
「のんきなこと言ってんな。真面目に考えろよ」

 めっちゃ凄まれる。目が怒りと真剣さに燃えてる。
 なんか、それが。

「攻め」

 俺は俯いた。うまく笑えてるか、わかんない。

「いま、俺たち二人きりじゃん?」
「だから? なんの得があんだよ」

 ぽいぽいと千切っては投げられる言葉に、俺は圧されて、でも踏ん張った。

「友彼さん、いい人じゃん。そりゃ、攻めにはちょっとキツイけどさ。そんなに目くじら立てなくったって……」

 攻めの拳が頭に落ちてきた。ごんっと音を立った。目を閉じた。あたまの中が一瞬白くなる。

「浮かれてんじゃねえ。俺は認めてない!」

 攻めは厳しい顔で、俺を見下ろした。拳を握って、続けた。勇者が冒険に出るときみたいな顔だね。

「友にはもっと相応しい男がいる!」

 その真剣な――輝くみたいに燃えてる目に、俺はすごく苦しくなった。拳をぎゅっと握りしめる。

「そ、それって攻めとか?」

 顔が見れない。すごい、みっともなくて、笑えてきて。でもそんな雰囲気じゃないから。

「な、なんちゃって」

 笑って、茶化して、誤魔化した。
 ちょっと弱々しい声に、自分のことながら、こいつ大丈夫かと思う。

「はあ?」

 攻めの声の勢いが増した。見上げれば、怒りに燃えてる。握った拳は、もう一発飛んできそう。

「俺と友で、汚い妄想すんじゃねえ」

 攻めの言葉に、俺は固まった。

「汚いって……」

 あんまりな言い方に、流石に胸がつんとする。

「じゃあ、なんで俺と付き合ってるの」

 口をついて出た言葉は、あんまり女々しくて嫌になった。けど、もう引き返せない。

「は?」

 攻めはきょとんとしてた。けど、俺がじっと見つめてると、腕組みをして、顔をそらした。

「そんなの、暇つぶしに決まってるだろ」

 俺は目を見開く、そこから接着剤はられたみたいに、顔が動かない。

「友と関係維持のためにも、都合がいいしな」

 ふんと鼻を鳴らして、地面を見ながら攻めは言った。なんだか、自分の影が、心と一緒に揺れて、大きく伸びた気がした。
 頬がふるえる。下まぶたが痛い。


 俺の方に無造作に向き直った攻めが、目を見開いた。固まって俺を凝視してる。
 そこで俺は、自分が泣いてることに気づいた。頬が震えるままに、目をほそめたら、涙がぼろりとこぼれ落ちる。

「う、受け……」

 ひっ、と嗚咽が漏れた。一度堰が切れたら、もう戻れなかった。目を閉じて、肩を震わせて泣いた。

「お、おい――」

 攻めの手が伸ばされる。俺は視界に入ったそれを、振り払った。涙をぬぐって、カバンを背負い直す。

「帰る」

 出たのは、ひと言だけだった。俺は歯を食いしばって、涙をこらえながら、早足で歩いた。
 追ってこないのは、わかってる。なのに、そうせざるを得なかった。

 家につくまで、ずっと。



 《完》


4/9ページ
スキ