俺だけいつも枠の外
「出来た!」
仕上げにフライパンをじゃじゃっと振って、火を止めた。焼きそばの香りが辺りに立った。
いい焼き上がり!
俺は鼻歌を歌いながら、大皿に焼きそばをあけた。いきおいこんじゃって、ごんと皿とぶつかる。
ポテサラを盛り付けてた攻めが、眉を寄せた。
「あぶねえだろ」
「ごめん」
「っとにガサツだな。友、手伝いいるか」
「いらん」
皿を持ってきた友が、憮然と並べ出す。俺は、ちょっと肩を落としてフライパンと流しに向かった。
今日は調理実習。好きなものを作る課題だった。周囲も、ちらほら片付けムードだ。こういう賑やかなの、楽しいよな。
「友、マドレーヌの調子は」
「知らん、オーブンに聞け」
「甘い匂いしてきたよな」
スルー。まあ水音がするしね!
俺は、腹の虫と一緒にフライパンを洗った。
「いただきまーす」
皆で手を合わせた。俺はまず、自分の焼きそばに箸をつけた。味見はしたけど、一応ね。
「うまっ!」
「濃い」
俺の声と、攻めと友の声が重なった。
「ええっ、また?」
俺は箸をおいた。友が申し訳なさそうに俯いた。
「すまない。一般的には美味しいと思うのだが、俺は食いつけなくて……」
「全てにおいて多い。お前味わかってるか?」
「そ、そうか」
俺は眉を下げた。うーん、またやってしまった。ソース控えめにしたんだけど、まだ濃いか。
友がもそもそ食べてるので、俺は慌てて止めた。
「友、無理しなくていいよ。俺食うし」
「そうだぞ。ポテサラ食べろ」
攻めが、友にやさしく声をかける。超甘い声。友が頷くと、にこにことポテサラをよそう。表情筋ってすごい柔らかいんだね。
「ありがとう」
「たんと食べろよ」
「攻め、俺も――」
「自分で取れ」
……ま、いいですけども。
俺はポテサラをよそった。
「あんまとるな。友のぶんが無くなる」
「もー! わかりましたよ!」
周囲からも、笑いが起こった。俺は、席について、焼きそばをつついた。
美味しい。だからわからん……。まじでヤバいのかもしれん、俺の舌。
「うまい! 友、腕を上げたな」
「黙って食え」
マドレーヌを一口食べて、攻めが友の頭をなでる。友は、猫みたいにかわして、お茶を飲んでた。
俺はと言うと、やっと焼きそばを食べ終えたとこ。
いいな〜……。
友にかわされても、攻めはずっと嬉しそうににこにこしてる。あんな優しい顔、俺も向けられたい。
言っても仕方ないか。
俺は気を取り直して、マドレーヌを頂くことにした。
「ほんとだ! めっちゃ美味い」
一口食べて、俺は感動する。レモンがいい感じだし焼きたてでまだあったかい。食後にたまりませんな。友が、じっと俺を見てた。
「本当か?」
「うん! 何個でもいける」
友はふわっと顔を綻ばせる。わお、超かわいい。思わず見とれちゃうし、ため息があたりからも立つ。
ほくほく食べてると、攻めに頭をはたかれた。
「いった。な、なに〜?」
「べつに」
目がチカチカするくらいぶったね。舌噛むかと思った。
攻めはふんと鼻を鳴らして、マドレーヌの残りを食べてた。
「ごちそうさまでした!」
俺が手を合わせる。お腹いっぱい。
友が自分のとあまりをとってあるのに気づいた。攻めも気づいたらしい。
「友、食べないのか」
「いや、腹がいっぱいで」
「大丈夫か? 胃薬あるぞ」
「子ども扱いするな」
友の顔つきで、俺はピンときた。これはあれだな、友彼さんと食べるつもりだな。攻めは、ずいと身を乗り出した。
「なら、もらっていいか? 俺も受けもまだ腹が減ってる」
「えっ」
「いいだろ?」
「ちょ、攻め!」
「何だ」
「お、俺腹いっぱいだし!」
「ふざけんな、まだいけるだろ」
すごい睨まれて、おののく。怖っ。て、ていうか、駄目だって! 馬に蹴られちゃうよ。
「俺、ダイエット中だし〜、もう食べられなーい」
「ふざけんな。なら焼きそばなんて作ってんじゃねえ」
ぜーんぜん引いてくんない! 仕方ない! 俺は攻めの袖をひっぱった。ぐるんと攻めを巻き込んで、内緒話の体勢に入る。
「んだよ」
「だめだって。友彼さんと食べるんだよきっと」
「バカかお前は。わかってんなら協力しろ」
えー! わかってたのぉ!?
友を見ると、おろおろしてた。この感じ、理由は言いたくないとみた。俺は攻めにしがみついて、友にあごをしゃくった。
「友! 後は任せろー!」
「受け……!」
すまない!
マドレーヌを手に、友は去っていった。
ふう。俺は胸をなでおろす。
「さーて、片付けでも……」
攻めに思いっきり振り払われて、俺はお宮よろしく床に倒れ込んだ。痛っ! 尻もち痛い!
「お前ふざけんなよ」
「えっ? な、なに?」
攻めの背中に黒いオーラみたいなのが見えてる。ヤバいヤバい。
「お、怒んないでよ。いいじゃん、マドレーヌ……」
「ふざけんな! あんな美味しいもの渡したら友彼が増長するだろうが!」
「え〜」
い、いいじゃんか。付き合ってるんだし……とは、さすがに言えなかった。だって攻め、般若みたいな顔、してるじゃん……?
俺はさすがにしょぼくれた。確かに美味しかったけど……。
「ごめん……」
ふん、と攻めが腕組みし、息をついた。片付けを始める。
「何してんだ。動けオラ」
「はぁい……」
硬い顔を、じっと見つめてた。
◇
翌日。
俺はマドレーヌを手に、教室の前で気合を入れていた。
「俺だってお菓子作れちゃうもんね」
ぐっと拳を握り、いざ攻めを見る。ちょうどひとりだ。席に座って本を読んでる。いける、いけ! 俺!
「攻め〜」
攻めに近づく。攻めは眉を寄せて、俺を見た。おお、明らかに不機嫌ですね……。
まあそうか。友がすごいご機嫌だもんね……。俺は、マドレーヌを隠した。
今は駄目だ。どう考えても、煽りにしかならんもの。
「何だよ」
「いやぁ〜」
「はっきりしねえな。すっと喋れオラ」
額を指で突かれて、俺は仰け反る。どっちの骨の音!?てくらい響くんだけど。
じっと攻めの切れ長の目が俺を刺してる。鋭いね。
う、うーん。これは言わないと駄目なやつ……。俺は意を決して、マドレーヌを差し出した。
「これ、作ってきたっていうか……」
ずいと差し出すと、攻めは目を眇めた。
「なんだこれ」
「マドレーヌです!」
「知ってる」
「えっ?」
「どういうつもりだ」
やば、やっぱ煽りに思われてる? 慌ててると、周囲から笑い声がたつ。
「攻めくん、言ってやるなよ〜!」
「どう見ても昨日の友くんへの対抗だって」
助け舟に岸から落とされた〜!
俺は頬がかーっと火照った。けど、これは照れたら負けだ。ぐっと胸を張り、居直る。
「そういうわけです! 食べてみて!」
どっとあたりが盛り上がる。 こんな大ごとになるとは。
攻めは、はあ、とため息をついて、マドレーヌを割ってひとくち、口に入れた。
伏し目がちに咀嚼してるのを、俺はじっと見る。どきどき、胸の音が頭くらいまで響いてた。
「甘い」
攻めはふいと顔を背けた。俺は、手を合わせ、そっと窺う。
「えーと、それってつまり……?」
「まずい」
攻めの言葉に、周囲が笑った。
「厳し〜!」
「また負けたな、受け!」
皆に肩をたたかれる。 俺は、へら、と笑った。
「今回もだめかぁ」
これは、様式美。 今に始まったことじゃないんだ。
「頑張れ〜」
「受けが、友くんを越える日は来るのか!」
「は?」
けど。
なんかちょっと、遠かった。
《完》