俺だけいつも枠の外
「おい、受け。週末付き合え」
「え?」
「駅前、十時。遅れんなよ」
「へ」
「返事」
「わ、わかった!」
慌てて頷くと、攻めは去ってった。その背中を見送って、俺は頬に手をやる。週末、十時、駅前。
もしかして:デート
「うそ〜……!」
俺は頬を擦って、にやける口角を隠した。やばいやばい!
「ふんふん」
「ご機嫌だな、受け」
「まあね〜」
スキップでもしそうな俺を、友が不思議そうに見上げる。
「恋っていいよな。春だな」
「……急にどうした?」
「なんでも」
ふふ、と笑うと友は胡乱な目をした。俺は頭の中が春爛漫で、気にならなかった。
友と分かれて、ひとり雑踏の中歩いてると、ショップが目に入った。
ちょうど、新しい服が飾られてるとこで。足を止めて見守ってたら、店員さんが、俺に気づいて、にこって笑った。
俺はぴーんときて、地面を蹴った。
そして、週末。
待ち合わせの三十分前に、俺は駅前のビルをうろうろ、眺めてた。おろしたてのシャツを見下ろす。どうかなぁ。香水もちょっとふってみた。
「なんかいつもと違う」
って思ってくれるかな。腕時計をくるくる回転させる。スマホ見て、前髪を整えた。
攻めがやってきたのは、十五分後だった。
「おう」
「おはよ!」
俺は後ろ手に組んで、笑いかける。あー、目が合わせられない。うろうろ攻めの足元を見てた。
攻めはざっくりした黒のシャツに、デニムを合わせてた。いつも通りだけど、なんか違って見える……。攻めは、俺を見て、目を眇めた。
「なんだその格好」
「えっ?」
低い声で尋ねられ、聞き返す。一歩進めてくると、俺の後頭部を掴んだ。
「わっ」
「香水までつけやがって」
すんと匂いを嗅がれて、頬がざって火照った。ちっと舌打ちされて、「あれ?」と思う。
「あのぉ」
超渋い攻めの顔を見て、俺もうろたえる。
「可愛すぎて、罪みたいな……――うそうそ、ごめんなさい!」
すごい目で睨まれて、俺は両手を上げ、首を振った。攻めは俺の額を掴んで、一回ゆさぶった。
「あう」
「とっとと行くぞ」
言うなり、攻めは前を歩き出した。黒くて広い背が遠くなる。
「は、速い速い! もっとゆっくり――」
「時間ロスしてんだ。気合い入れて歩けオラ」
もしかして、俺との時間を惜しんでくれてる……ってコト?
とは流石に言えなかった。俺は小走りに、攻めの後についていった。
◇
「なあ、攻め。どこ行くの?」
「うるせえ、喋るな」
べちん、と口元を押さえられる。攻めが眉をひそめる。
「きめえな。リップクリームとかつけてんじゃねえよ」
手を拭われて、赤面する。だって、デートなんだし……そりゃ。
到着したのは公園だった。
公園デートか? にしても。
「なあ、なんで俺たち隠れてるの」
「少しは黙れねえのか」
ばっさりじゃん。眉をさげて、俺もだまる。攻めの言葉の圧が、さっきより強くなってるので。俺は、木の影に隠れ、攻めの見てる方を見た。
「あ」
俺は目を見開く。
友だ。友が、公園のベンチに座って、本を読んでた。
「おーい、と……」
「黙れ」
頭を思い切りはたかれ、頭を抱える。目がチカチカする……。
「ったく……もう待ち合わせの十分前だぞ。もたもたしやがって……」
ぶつぶつと攻めは低い声で唸っている。頭をさすりながら、俺も友をうかがった。
あ、と上がりそうになった声を抑えた。友彼さんがやってきた。友に声をかける。友はほのかに笑って、本をしまった。
「友のやつ、友彼さんとデートだったのか」
「ナメたこと言ってんな。友が可愛くねえのか」
攻めの蹴りが飛ぶ。高い高い、腰の横に当たった。
「あの野郎……友のやつはずっと待ってたんだぞ。当たり前にへらへら隣に座ってるんじゃねえ」
指の腹を噛んで、攻めが呟いてる。友彼さんは、友の頭を撫でて、笑ってる。友もほおを赤らめ、顔をそらした。
「友のやつ、可愛いな。あんな顔するんだ」
「黙れ。バレるだろうが」
もう一発、今度は膝を蹴られる。いいとこに入り、俺は草っ原に倒れ込んだ。
「ちっ、移動する気か――おい、早く行くぞ!」
「え?」
こそこそ、攻めは影から影へ飛び移りながら、ふたりの後を追う。俺はよたよたしながら、それについていった。
ひたむきな背を、じっと追いかける。
「くそっ! 肩抱いてんじゃねえ」
「あのぉ、攻め」
「っせえな、何だよ」
「この状況は一体……」
攻めはじっと友を見てる。穴が空くくらい見てる。
「見りゃわかるだろ。尾行だよ」
言いながら、目は真剣に友を追ってた。俺はその背に、「あの〜」と言い募る。
「そっとしておかない?」
「はぁ? お前、友が心配じゃねえのか」
凄まれて、俺は身をすくめる。そりゃまあ、そうだけど……眉を下げて言い募った。
「でも、恋人同士の時間じゃん」
「俺は認めてない。あいつ、ほっといたら友を誑かすに決まってる」
俺に怒る攻めの顔は、ガチで真剣だ。超カッコいい、と思ってしまうくらい。俺は、汗をかいた肌が、冷たくなってた。自分を励ますように、声も高く提案する。
「まあまあ! 俺等も遊ぼう」
「はあ?」
「いいじゃん、せっかくだし。な?」
俺は攻めを見上げる。
「そんなことなら、単語覚えてたほうがまだマシだわ」
「へ」
「何のためにお前呼んだとおもってんだよ。しっかりしろよ」
いいからさっさと行くぞ。
そうして、また早足で、友たちを追い出した。
俺は転がり込むみたいに、走って攻めの隣についた。「攻め」と囁く。
「今日って、友たちの尾行するためだったの?」
「他に何があるんだよ」
不思議そうに見下ろされる。
「なのに目立つ格好してきやがって」
頭をはたかれた。
友たちに向き直ると、また歩き出す。雑踏のなかに、攻めの背が、見えなくなった。
……そうか。
そりゃ、そうだよな。
思わず足が止まる。俺の影が、伸びた気がした。
もたもたしてたら、攻めが待ってた。
「早くしろ」
俺はへらっと頷いた。攻めは俺が追いついたのを見ると、また背を向けて歩き出した。
「ちっ、あの野郎……映画見るつもりか」
「恋愛映画かなぁ」
「ふざけんな! ベタ野郎」
攻めの隣を歩きながら、ずっと友と、友彼さんを見てた。
《完》