断片SS集
授業が終わって、次の授業の支度をしてたら、友達がつんつんと俺をつついてきた。
「また攻めくん来てるよ」
見れば、扉のところに可愛い姿が。じっとこっちを窺ってる。
「ほんと愛されてるね」
からかい混じりに背を叩かれて、俺ははにかむ。俺が駆け寄る前に、近くの男子たちが、話しかけてる。
「攻め、おまたせ!」
食い気味に割って入る。攻めは可愛いから、心配なんだ。あどけない顔で男子たちを見上げてた攻めが、俺を見て輝く笑顔を向ける。
「受けちゃん。会いたかったあ」
可愛いさに、息が詰まった。周囲もくらったみたいで、様子がおかしい。
「いつもありがとうな。授業大丈夫か?」
「うん。移動だし……」
そう言って、腕の中の教科書を示した。
「俺も移動だから、途中まで一緒に行こう」
「うん」
嬉しそうに頷かれて、俺は惚けてしまう。なんでこんなに攻めは可愛いんだろ。隣に歩いてるだけで、気持ちがふわふわする。攻めは腕をくんでもたれてきた。
可愛いな、ずっと傍にいたいな。でも楽しい時間はあっという間で、すぐに分かれ道になってしまう。手を握って、二人でしばしの別れを惜しんだ。さみしげな攻めにきゅんとなる。
「お昼に行くから」
「うん」
額を合わせて、手を振って別れる。教科書をぎゅっと抱きしめて、俺は鼻歌交じりに教室に入っていった。
◇
お昼が来た。お弁当を手に俺は攻めの教室に向かう。
「あ、まだ授業してたのか……」
ちょっと授業が押してるみたいで、先生の熱のいった指導の声が聞こえてくる。俺と一緒に、外で待ってる生徒も何人かいた。
邪魔しない程度に、そおっと窺う。
「誰もわからないのか。――じゃあ、攻め」
知った名前に、俺はどきっとする。緊張しながら見守った。
攻めは、静かな声で答えを言った。天気を確かめるくらいの、そんな温度だった。
先生が「うん」と頷く。周りの子達も、高揚してるけど当たり前って感じで、攻めを尊敬の目で見てた。
「めっちゃ攻めくんかっこいい〜」
「本当隙ないよね」
俺と一緒に、見てたらしい。可愛い女の子たちが、ため息をついてる。たしかに、頬杖をついてゆったり話を聞いてる攻めは、何だかいつもと違う。退屈そうっていうか余裕そうっていうか。
「受けちゃん、ここわかんない」
って、一緒に勉強してるとき、いつも聞いてくるのに。
「じゃあ、お疲れ様」
授業が終わって、生徒たちがわっとでてくる。
俺は慌てて脇に避けた。攻めに、数人の生徒たちが、「やっぱすげーな」って声をかけてた。攻めは、なんてことないように返事をしてた。
……なんだか、心細くなった。攻めの世界の広さっていうのかな。なんか、そういうのを感じて。
攻めの友達らしい子が、ふと俺を見た。そして、攻めをつつく。攻めが、
「受けちゃん!」
ぱっと顔を明るくした。飛ぶみたいに駆けてきて、胸に飛び込んでくる。
「来てくれたの?」
「うん」
「嬉しい」
にこにこ笑う。いつもの攻めだ。俺も笑った。皆が、じっとこっちを見てた。なんか目を見開いてて、怖かった。
「行こ?」
「あ、うん!」
けど、攻めに手を引かれて気を取り直す。
手を繋いで、食べる場所を探す。
「攻め」
「なに?」
「なんでもない」
もう少し勉強頑張ろうかなあ。
なんとなく、そう思った。
《完》