俺だけいつも枠の外
一夜明けて、俺は学校に復帰してた。
「受け、久しぶりじゃん」
「おはよー」
本当に久々の登校風景だよ〜、しみる。
「ふぁ……」
あくびを一つする。
友彼さんの言葉が引っかかって、あんまり安眠できなかったんだよね。えらいこと聞いちゃったよ。いや、大人、なんだろうけど……。
ちゃんと考えろ、かぁ。俺はどうしたいんだろ。そりゃ、もう限界かなあとは思ってたけど……。
クラスに入ると、友と攻めが振り返る。
「受け!」
友が嬉しそうに、俺のとこに駆け寄ってきてくれた。
「もう来れたんだな」
「うん。心配かけてごめんね」
「友達として当然のことだ」
友は胸を張る。攻めは座ったまま、俺を横目で見てる。
「ひ弱な真似しやがって」
ふん、とそっぽを向く。友はそんな攻めに、「やれやれ」と息をついた。
「許してやってくれ。あれで結構、心配してたんだぞ?」
そう友はいたずらっぽく囁いた。攻めは、
「おい。余計なこというな!」
と怒っている。友は、
「本当のことだろう」
と、くすくす笑う。
はえ……久しぶりに、こんなのどかな二人を見るや。本当に、わだかまりが解けたんだなあ。朝日を受けて笑ってる友は、ほんと綺麗。皆、超見惚れてる。
友が、耳に髪をさらりとかける。そのとき、右手の指輪がきらりと光った。
――攻めからの指輪。俺は、胸がちくっとなった。
「なに話してたのー?」
俺は目も、話もそらした。二人とも、なんかすごい楽しい雰囲気を引きずってたから。友は、「ああ」と合点がいった顔で、席に戻った。
「もうすぐ夏休みだろう? 旅行の計画を立てていたんだ」
友の笑顔に、今度は俺が合点がいった。
そか。たしかにもう、テストだけだもんね。友はいつも、夏休みは家族旅行に行くし。
「よかったねえ」
「ああ! それでな、今年は久しぶりになんと攻めも行けるんだ!」
友の言葉に、俺はかたまった。
「へ……」
「友彼のことを話したらな。なんと両親が、攻めとの関係を見直してくれたんだ」
友が目をキラキラさせて続ける。
「攻めにちゃんとお礼をしたいって……やっと二人とも、わかってくれたんだ」
そう言って、友は目を潤ませた。
「そ、そっかぁ」
「ああ。友彼のおかげだ」
友と攻めはね、いつも大きな休みは、家族ぐるみで旅行行ってたんだ。けど、思春期から無くなったんだよね。二人の距離があんまり近すぎるから……って。それが。
俺はぽかーんとしながら二人の言葉を聞いてた。相槌も打ってるけど、まじで遠いよ。
いや、よかったね、なんだけど。
「本当に、友彼様々だ」
「あいつもたまには役に立つよな」
二人はめっちゃ楽しそう。友彼さんのこと、褒めたたえてる。
まあ、そりゃそう、だよね。親に引き離された時、すごい二人とも落ち込んでたし……。戻ったら、うれしいよね。友彼さんに、ありがとうって思うよね。
でも、何でかな。なんかさ。
ぐじっと気持ちが嫌な感じになる。ぱたぱた首を振った。友が不思議そうにたずねる。
「どうした? 受け」
「んーん。よかったね」
「ああ。これからは、三人で行ける」
友が輝く笑顔で言った。
「へ」
俺、再度かたまる。
「おい、友。俺は旅行にまで、あいつが来るのはごめんだぞ」
「そんなこと言うな。三人で家族だろう」
攻めの憮然とした言葉に、友はたしなめる。
「え、ちょっ、三人で行くの?」
俺は思わず、割って入ってた。
っていうか、いやそも、旅行って。それっていいの? いくら家族ぐるみでも……。
『俺は友さん好きですけど、ずっと攻めさんにべったりなら――ちゃんと考えます』
友彼さんの言葉が蘇る。
二人はめちゃくちゃ嬉しそう。だからめちゃくちゃ言いづらい。けど。
「行くが」
「お前話聞いてたか?」
「それなら、友彼さんと行ったほうがよくない? 旅行……」
「そんなの結婚前に、ふしだらだろう!」
友が顔を真っ赤にして怒る。攻めにも「ふざけんな」とはたかれた。い、いやいやそういう意味ではなく……伝われこの気持ち。
「俺もさ、ほら攻めと旅行とか……」
「あ? そんな未来、一生来ねえよ」
痛っ! 遠回しに言ったら余計に刺さる羽目になった。
「俺は、三人で行きたいんだ。恋人とかそういうのじゃなく、家族旅行として」
「そ、それはわかるけど……」
友は、悲しげに眉をさげた。
「受けは、喜んでくれないのか?」
「え」
「一番、俺たちのことを心配してくれてると思ってたんだが……」
「い、いや」
そりゃ、もちろんそうですけども。
「友彼さん友のこと好きだし、ヤキモチやくんじゃないかなって」
あーあーあーごめんなさい友彼さん。今俺、口実に使ってる自覚あります。
けど、攻めと友は不思議そうな顔した。
「友彼はそんなやつじゃねえよ」
「本当に仲良しだし、わかってくれてる」
「そ、そっか」
し、信頼が眩し〜……。俺は頷くしかなかった。けど、けどさ……渋い顔をしてたら、友が俺を、じっと見た。
「俺と攻めが出かけるのが嫌なのか?」
「えっ」
「なら、友彼を使わずに、そう言ってくれ。友彼は本当に仲がいいんだ」
「陰湿なやつだな」
攻めはふんと鼻を鳴らした。それで、友とまた、旅行のことを話しだす。俺はそばに立ち尽くしてた。
お。
お、おおおおおおお俺だって! 二人と仲いいよ! 友達だと思ってるし! えっ、そうじゃないの?
「楽しそうだな、攻め」
「そりゃ、お前と旅行だし」
「友彼は、攻めにとって初めての友達だもんな」
「うるせえな」
二人はまた楽しげにじゃれてる。
は、初めての友達!?お、俺は!?攻めの友達ですらないと……? 俺って、どのへんだったの。
枠外だとは思ってたけど、友達ポジですらないとか。まじで圏外……?
駄目だ、引っ込んでた涙がぶり返してきた。
「そっか。楽しんできてね」
どうにかそれだけ言って、俺は去った。
鼻をすする。
俺は友達だよ。二人を大事に思ってるよ。けど、俺って一応、攻めの恋人のはずで。やきもち焼くのって、そんなに駄目なの?
そ、そりゃー友彼さんを出したのはずるかったかもしれないけど、だいたい友彼さんだって……なんで。涙をすすって、俺は廊下を歩いてた。
◇
「おい、半端に残してんじゃねえよ」
「倒しがいがあるでしょう」
「ったく……」
「こら、喧嘩するな!」
和気あいあいっすね。
俺はお茶を啜りながら、二人の好プレーを見ていた。
今ね、遊びに来てるんだ。この間の仕切り直しじゃないけど……攻めも友彼さんも、めっちゃ楽しそうにボウリングに興じてる。
前みたいにギスギスしたとこはなくて、ひたすら楽しそう。
「本当に二人、仲良しだろう?」
友が俺の隣に座った。俺は「うん」と頷いた。
「だから、受けが心配することないぞ。二人は兄弟なんだから」
「そ、そっか」
まあ、そうなのかな……俺は息のあってる二人を見る。あのとき友彼さんは、俺を励ますために、ちょっと悪い風に言ったのかもって、思うくらい。
「だから、前みたいなことは言わないでくれ」
「え?」
「友彼と行くべきだとか……攻めが可哀想だろう?」
友は攻めを見た。気遣わしげな目に、俺は沈黙する。
「そうだね」
「わかってくれたら、いい」
友はホッと息をついた。俺は立ち上がる。
「飲み物買ってくるね」
「もうすぐ受けの番だぞ」
「投げといて〜」
まだ、お茶あるんだけど。抜けてきてしまった。だって、どう考えても、友と攻めと友彼さんwith俺なんだもん。俺だけあぶれてる感がやばい。いや、べつに前からそうだろ〜って感じなんだけど、今すごい刺さる。
「はあ……」
俺だって……俺のほうが、攻めのこと心配してたのに。っていうか、友彼さんだって、何。全然仲いいじゃん……。
うわ〜駄目だ! 心がぐちゃぐちゃしてる。やばいやばい、ついてきといてよくない。
頭をぶんぶん振って、邪念を払った。
もしかして俺、友彼さんの言葉に飛びついちゃったとこ、あるのかなあ。とんでもないって言いながら、どっかでまだ、自分の場所があるって思いたかったのかなぁ。
友彼さんは、俺ほど二人を思ってないって。
実際、そんなことなくて、そもそも友彼さんは本当に仲良しで、俺のポジとか全部消えた。これが、人を呪わば穴二つってやつっすか……。自販機の前で、ひたすら息をついてた。
「いいですか」
「あっすみませ」
ん、とどけてから固まった。友彼さんが、スマホ片手に立ってた。
《完》