俺だけいつも枠の外


「友……!?」

 俺と攻めの声が重なった。どういうこと? 何が――攻めに縋って、友は震えて泣いてる。

「おい、どうしたんだ!?」

 攻めが友に尋ねる。強く友の背を揺らすけど、友は悲しい嗚咽をひたすら漏らしてる。ただ事じゃない様子に俺も焦る。

「友、どうしたの?」

 回り込んで、友の背に手を添わせた。

「友彼さんは――」
「ひっ!」

 俺の言葉に、友は身を跳ねさせた。攻めにすがる手が強くなる。俺は固まり、攻めも顔をこわばらせた。

「あいつに何かされたのか!?」
「む、無理に、キスされそうになっ……」
「ええっ!」

 友彼さんが?

「信じてたのに……っわああ……!」

 泣く友に、攻めは怒りに真っ青になった。肩をわなわなと震わせてる。俺はおろおろ、背中を擦るしかできない。

「ふざけんな!」

 攻めが叫んだとき、友彼さんが駆けつけてきた。

「友さん……!」

 友彼さんは、攻めと友を見て、顔を強張らせた。攻めは友を庇いながら、友彼さんを睨む。

「てめえ、どういう了見だ! 友を泣かせやがって……!」
「それは……」

 友彼さんは視線をさまよわせた。けど、憮然と攻めを睨み返した。鋭い目線の先は、友にあった。

「あなたには、関係ありませんね。俺と友さんの問題ですから」

 友さんを離してください。
 そう言ってのけた。俺は固まる。やばい。引く気なしの態度に、攻めの怒りが増した。

「ふざけんな! 友は俺を頼ってる! お呼びじゃねーのはテメーだ」
「……いい加減迷惑なんですよ。友さんの幼馴染だから、立ててあげているのがわかりませんか?」

 低い、断固とした声が圧してくる。互いに威圧し合ってて、頭が揺れた。友彼さんの言葉に、攻めは苦虫を噛み潰した顔になる。

「――だから、話し合ってやろうと思ったんだ。なのにてめえが……」
「話し合う必要なんて元よりないでしょう」

 友彼さんが、攻めの言葉を遮る。

「あなたと友さんは、家族でも何でもないのですから」

 攻めの目が見開いた。息を呑む音が俺まで届く。

「いや。家族であったとしても、こんなふうに邪魔だてされるいわれはないんです。ましてあなたのデートの口実に――」
「やめてくれ!」

 友が叫んだ。無理に声を張ったから、けほけほと咳き込む。俺は慌てて背中を擦った。

「友さん」
「攻めのことを責めないでくれ……!」

 悲痛な声に、友彼さんも意気を弱めた。痛ましげに友を見つめる。

「友さん。君は優しすぎます。攻めさんのために、あなたがどれだけ傷ついてきたか……」
「なっ……友を傷つけたのはテメーだろ!」

 攻めが言い返す。

「テメーのせいで、友がどれだけ泣いてたか……今回だってお前が友に迫ったから……!」
「それは……」

 友彼さんは押し黙った。攻めは、地面をさした。

「手をついて詫びろ! できねえなら消えろ!」
「……いいんだ攻め……俺が悪いんだ」
「悪いわけねえだろ」
「もういいんだ……っ」

 友が、泣きながら、二人をとめる。やばい。このままじゃ駄目だ。俺は我に返って、攻めと友彼さんを見る。すうっと息を吸い、お腹に力を込める。

「友さん!」
「友に近寄んな! この――」
「――ちょっと待って!」

 俺は二人の間に割って入った。両腕を突っ張って、二人を離れさせようとする。アルファ二人の迫力に、めまいやばいけど、ここは本気で気合い。

「どいてください」
「てめえ、友が可愛くねえのか!」
「違う! いい加減にしなよ!」

 俺は渾身の気合で叫んだ。

「今つらいのは友でしょ!?友の気持ちに寄り添うのが先なんじゃないの? 張り合ってる場合じゃないよ!」

 俺の言葉に、二人は黙る。

「っ……」
「たしかにそうですね……」

 納得してくれたみたいだ。俺はひとまずホッとして、両腕を突っ張った。

「とにかく、二人とも離れて……」

 友を庇いつつ、二人を友から離す。小さくなってる友の背を、そっと支える。

「友、俺と行こう」

 そう言って、友を連れて行った。ふたりは、友を呼んだけど、追いかけては来なかった。よかった。二人で来られたらもう、どうしようもなかった。友を大事に思ってるのはほんとみたいで、ちょっと安心した。

 ◇

「落ち着いた?」
「……ああ」

 俺と友はふたり、ベンチに座ってた。友は飲み物を手に、鼻をすすった。あれからしばらく経って、友は動揺がおさまってきたみたい。俺は涙をそっと拭いてあげる。

「友、大丈夫だよ。俺がついてるからね」

 励ますように、手を握ると、友は俯いた。泣き腫らした目元が赤い。

「……すまない」
「ん?」
「お前のジャマをしてしまったな」

 友は悲しい顔で、続ける。肩にかけた俺の上着を手繰った。俺は首を傾げた。

「せっかく攻めと二人きりだったのに……」
「何言ってんの!」

 消沈した声に、俺は言い返す。

「水臭いよ! 攻めも俺も、泣いてる友をおいてくわけないじゃん!」

 何を言い出すのかと思ったら。その気遣い、いっそ悲しいって。励ますように、ベンチから降りて友の顔を見つめる。友は涙を浮かべたまま、顔を俯かせて黙り込んでた。

「すまない」
「だから、謝らないでってば」

 俺は笑顔を浮かべる。飲み物を持つ友の手を包んであげた。冷たいのは、飲み物のせいだけじゃないよね。

「俺たちのことは気にしないで、自分のことだけ考えてよ。つらいのは友なんだから!」

 話せるなら話聞くし……俺は一生懸命伝える。友は、納得してくれたのか、頬に赤みが戻ってきた。

「ありがとう」

 口元をほころばせる。俺はホッとした。

「今日のところは帰っていいか?」
「わかった!」

 友の言葉に、俺はスマホを取り出した。

「ちょっと待ってね。攻めに連絡――」
「待ってくれ」

 友に手で制される。スマホをそっと俺の手から抜いた。

「攻めからは俺が……」
「わかった」

 スマホを手に、友は背を向けた。

「……攻めか? うん……今日は受けと帰る」
「ああ。ありがとう。それと友彼にも伝えておいてくれ」
「そのとき、どうか友彼のこと、責めないでやってくれ」

 友が攻めと話すのを聞きながら、俺はというと、困惑がじんわり戻ってきてた。
 まさか友彼さんがなあ。何があったんだろう。友を傷つけるようなこと、するなんて……。友の左手に光る指輪を見つめる。
 わかんない。友のこと好きなのはわかるんだけど、友彼さんのこと、正直、そこまで知らないし……。やっぱり、大丈夫なのかな。
 俺は首を傾げてた。

「ありがとう」
「んーん」

 友からスマホを受け取り、俺は曖昧に笑った。



 それから、俺は友を家に送り届けた。

「攻め? うん。ちゃんと友は家に……えっ、泊まるのは無理だよ、いきなりは迷惑だし……」

 攻めに連絡しながら、俺は帰路につく。攻めは、今すぐ駆けつけたいけど、友に遠慮してるみたいだった。

「友を傷つけるわけにいかねえからな」

 スマホの向こうで、憮然としてるのがわかった。俺はちょっと、自分の不安を攻めに話したかったけど、我慢した。攻めは怒るのを、一生懸命我慢してたから。

「うん。うん……」

 俺は通話を切って、家路を急いだ。暗くなってきたし、早く帰らないと。友の話も、また聞きたいし……。

 でも、それから友は、ショックから寝込んでしまったんだ。


 《完》
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